蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

宮尾登美子 「花の着物」

外国の女性が日本の女性を羨ましいと思うことがあるとすれば、それは黒く美しい髪を持っていることと、日本の美を象徴する着物を民族衣装として持っていることではないでしょうか?この着物という日本の民族衣装はおそらくその美しさにおいては世界でも稀なのではないでしょうか?今でこそ若い日本の女性は成人式か結婚式くらいにしか着物を着ませんけど、かつては生活の一部であり、女性にとってはそれぞれに思い入れのある非常に重要な存在でした。女流作家はこの着物をテーマにした作品をよく書きます。やはりそれだけ着物に対する強い思いがあるのでしょうね。宮尾登美子の場合はこの作品にそれが強く反映されています。花の柄の着物をいくつかピックアップして、その思い出などを綴った随筆集です。一つの章に一つの花柄という形で、菊、梅、藤、薔薇、椿、紫陽花、朝顔……などが登場します。楽しい思い出のある柄もあれば、見るだけで涙が出てくる悲しい思い出のある柄もあったりと、それぞれ単なる随筆を越えた心に残るエピソードが含まれており、実に感動的です。花の着物を着るということは季節を着るということであり、また思い入れのある着物を着るということは思い出を着る、人生を着るということになると思います。そういう着物の魅力を教えてくれる作品でもあります。これは是非若い女性の方に読んでいただきたいですね。そして着物に興味を持ってもらいたいです。私たちの国の民族衣装ですからね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

河野多恵子 「返礼」

この人の作品は本当に人間の心理の微妙な動きを見事に表現しているので、どの作品を読んでもつくづく感心してしまいます。男性作家にはここまで細かくとらえることは難しいのではないでしょうか?傷つきやすい女性だからこそ書けるものがあると思います。女流作家の作品の読後にはなにか心の深い場所に印象が残って、それがことあるごとに思い出されてくるような気がするのはえしぇ蔵だけでしょうか?繊細な神経で描かれたものはそう簡単には人間の心から消えていかないのかもしれません。この作品の主人公の女性は腹ちがいの兄弟姉妹とともに育てられた過去をもちます。一家の中で血のつながりがあるのは父親だけ。その父親も早くに亡くします。姉にはいじめられたりして、家族がいるのに天涯孤独のような人生を送ってきました。そんな中で兄だけが本当の妹のように優しくしてくれました。彼女が成人して好きな人ができて結婚したい旨を兄に相談した時に、思いがけず反対され、破談にされます。唯一信じていた兄にも裏切られます。このくやしい思いをいつか兄に伝えたいと思う矢先、兄は精神に異常を来たし入院してしまいます。いろんな思いを伝えたくても伝えられない……なんともやるせない思いにいらだつ彼女の中では兄に対する心境が複雑になっていきます……。まさに女流作家ならでは、河野多恵子ならではの作品ではないかと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

阿川弘之 「舷灯」

実を言うとこの本はえしぇ蔵が間違えて買った本です。阿川弘之といえば海軍の提督を描いた3部作「山本五十六」、「米内光正」、「井上成美」を筆頭に、「雲の墓標」、「春の城」など、太平洋戦争に関した戦争記録文学が一般に知られています。この作品のタイトル「舷灯」を見た時にてっきりこれも戦争に関連した、それも海軍ものだろうなと勝手に思い込んで買ってきたわけです。それで読み始めてみると、多少は戦争にも絡んでいますが基本的には全然違う文学作品でした。最初は「失敗したなぁ」と思いながら読んでいたわけですが、読み進むうちに素晴らしい純文学作品であることがわかって、結果的にはいい買物になりました。考えてみれば阿川弘之は志賀直哉の弟子で、しかも師の文学を受け継ぐ者とまで言われた人ですから、純文学を書いても何ら不思議はないわけです。そういう意味ではむしろ戦記ものを読むよりもこの作品を読んだ方が阿川弘之が師である志賀直哉から受け継いだものを感じ取ることができるように思います。それほど素晴らしい作品です。戦争を生き延びた男が家庭を持って戦後の生活をつつましく生きていくわけですが、どうもなんとなく海軍にいた頃の生活が懐かしいような雰囲気を持っており、今ひとつ家庭への愛情をそそぎきれていない、という話です。阿川弘之の底力を知ることができる純文学作品です。読む価値は大いにありますよ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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