蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

黒島伝治 「二銭銅貨」

江戸川乱歩の作品にも「二銭銅貨」というのがありますからお間違えなく。江戸川乱歩のほうは暗号ものの推理小説です(そっちも名作です)。こちらはプロレタリア作家の黒島伝治が描く、貧しい農村の悲劇です。立ち読みで読み終えるほど短い作品ですが、そこに強く訴えるものがぎゅっと詰まっています。お互いの独楽を回してぶつける「コッツリコ」という遊びがあって、古い独楽しか持たないある貧しい農家の子どもがそれに勝つためによりいい独楽を欲しがります。兄は古い独楽のほうがいいものなんだとなだめてあきらめさせますが、どうしても緒だけは新しいのが欲しいということで母親にねだります。母親は緒ぐらいなら買ってやろうと店に行きますが、そこで他のよりも短いけど二銭安いという緒を買って与えます。子どもはその緒が短いことを苦にします。ある日、相撲の興行が村に来て、それを見に行きたいと子どもはせがみますが、農作業に忙しい両親は家で牛の番をするように言います。子どもは牛のそばで独楽の緒を柱にひっかけて、片方の端を引っ張って懸命に緒を伸ばそうとします。そうしているうちに手が外れて転んだ時に牛に踏まれて死んでしまいます。父親は牛をなぐって責め、母親は二銭けちって短い緒を買ったことを悔やみます。子どもは牛でも母親でもなく、貧乏が殺したのです。そのことを婉曲的ですが強く訴えているので短いですが非常に印象に残る作品です。黒島伝治の良さを手っ取り早く知るにはいい作品だと思います。黒島伝治は香川県の小豆島出身です。小豆島と言えば「二十四の瞳」の壺井栄の出身地でもありますが、お互い隣村だったそうです(今では合併して小豆島町になっています)。兵役の際の体験をもとに書いた作品で文壇に登場しますが、多くの作品は農村の貧しさを描いています。プロレタリア文学に分類されますが、一般にプロレタリア文学といえば工場などの職場で労働者が生活改善のために苦悩し決起し、戦って破れて投獄されて・・・という感じの作品が多いですが、黒島伝治の場合は農村の人々の貧乏との戦いを描いているのでちょっと毛色の違うプロレタリア文学です。こういう作品を通してかつての貧しい日本の苦労を知るのは非常にいいことだと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

岩野泡鳴  「毒薬を飲む女」

岩野泡鳴という人は、「私は貧乏しても文学と共に生きていきます」的な、いわゆる文学一筋の人ではありません。あまりの貧乏に嫌気がさしたのか、途中で文学は放り出して北海道に渡り、蟹の缶詰工場を作るという事業に取り組みます。ところがこれが失敗。失意のうちに北海道を放浪している間に数々の名作を残しています。それが、「放浪」・「段橋」・「発展」・「毒薬を飲む女」・「憑き物」の泡鳴五部作です。自然主義文学の作品なので基本的に自分の実体験をもとに書かれています。「毒薬を飲む女」では主人公はまだ北海道には渡っていません。奥さんをほったらかしにして愛人と遊んだりしますが、あげくは愛人も捨てて事業のために北海道へ行く準備を急ぎます。もうこんな貧乏やうるさい女たちからもおさらばだ!という感じで。はっきり言って主人公はやりたい放題のろくでなしです。話は事業が成功するかどうかまでは書いていませんが、読んでいくとどうせ事業も駄目になるだろうと思えてきます。実際失敗したところを見ると、やっぱりこの人には文学しか生きる道はなかったのではないかと思ってしまいます。河上徹太郎も岩野泡鳴のことを偉大な文学者と言ってますしね。こういう作家の生き様を見ていると、やはり文学というのは幸福な人生からは生まれてこないのではないかと思ってしまいます。岩野泡鳴に限らずいろんな作家が、苦悶する人生の中で名作を生み出しているのは間違いありません。ただそれにはいくつかパターンがありまして、自らの意志で苦労の道を進んだ人もいれば、欲してはいないが様々な事情から仕方なく苦労を背負った人もいますし、生まれながらにして不幸な環境が用意されていた人もいます。岩野泡鳴の場合はどうかというと、一旗揚げようと志して思いきって冒険の人生を選んでみたものの、失敗して苦労したというパターンになります。文学の才ある人は所詮文学から逃れることはできないのかもしれません。文学の方から追いかけてくるんでしょうね。

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壺井栄 「草の実」

脂っこい料理もいいですが、そういうのが続くと今度はあっさりとした料理が欲しくなります。人間どこかでバランスをとろうとするのが普通だと思います。読書においても同じです。難しい作品が続くと、今度は読みやすい作品が欲しくなります。そういう時にオススメなのが、石坂洋次郎や壷井栄です。難しい表現や汚い表現は用いず、洗練された表現でわかりやすく語りかけてくる作品は読み進むことが非常に気持ちよく感じられます。ストーリーもテーマとしては決して軽いものではないのに読後感を爽やかにしてくれるのは筆者の技術以外のなにものでもありません。この作品では、同じ祖先を持つ本家と新家が隣同士でありながら過去のいろいろな事件を経て憎みあうようになります。ところがその両家の子ども同士は成人してから恋に落ちます。お互いの親が反目しあう中、二人は結ばれるために自分たちの未来を信じて励まし合いながら生きていきます。そんな若い二人の純粋なひたむきさというのがこの作品の中心にあります。人はきっと和解しあえる、きっと仲良くできると信じることの大切さを若い二人は読者に教えてくれます。これですよこれ。ここに壷井栄ワールドがあるわけです。人間関係で苦労して傷ついた人が帰っていく場所がここにあるわけです。希望が常にそこにあるのです。代表作の「二十四の瞳」を読めばわかると思いますが、壷井栄の作品では人間が本来持っているはずの強さ、善良さ、優しさを信じて生きていこうじゃないですかというメッセージ性を強く感じます。誰しもが人生の苦悩を抱えていることを前提に、生きて行く上での励ましが込められています。おそらくそういうメッセージ性をより広い世代に、より多くの人に伝えたいがために、明快でわかりやすい文体にしてあるのではないかと個人的には推測しています。子を思う母親の優しさのようなものが感じられます。普段の生活で精神的な疲れを感じた時、ちょっと一休みしたいと思った時に是非読んでみて下さい。

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