蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

滝井孝作 「無限抱擁」

俳人として有名な滝井孝作ですが、小説もまた素晴らしい作品を残しています。志賀直哉を崇拝し、小説の技法は志賀直哉と芥川龍之介に学んだそうです。だから似ているのかなと思われがちですが、まぁ似ているといえば似ていますが、学んだものをベースにして自分の世界をきっちり作り上げているので、作品としては完全に滝井孝作の世界になっています。非常にユニークな書き方をする人なので、読む時には注意が必要です。句読点を打つ場所や、改行のタイミングがちょっと独特です。そしてこの作品では特に過去と現在を行ったり来たりしますし、作中に作品が登場し、その中にまた作品が登場したりと、三重の構成になっている部分もあります。最後のほうは語り手も交替します。(この語り手が交替するという手法は、一つの出来事を視点を変えて多面的にとらえることができるので、読者は頭の中で作品を立体化したように明確に把握できます。小説の技法としては非常に面白く、また効果的なものです。この手法を真似て、芥川龍之介は「藪の中」を書いたそうです)ぼーっと読んでいたのではわけがわからなくなりますので集中して読んで下さい。内容はいわゆる心境小説です。純粋な若者が遊びを覚え始めて知り合った遊女を好きになり、紆余曲折を経てなんとか一緒に暮らせるようになったけれども、彼女が肺病になって……という当時としてはありがちなストーリーなんですが、主人公の心の内側の描き方、登場人物の気持ちのやりとりが非常にリアルに描写され、非常に奥深い作品に仕上がっています。滝井孝作本人によれば、「……この作品は、私自身の当時の生活をありのまま、正直に一分一厘も歪めずこしらえずに、写生したもので、執筆当時の事は、この作品自体が語っているわけです」とのことなので、完全なる自伝小説とも言えます。だからここまでのリアリティが表現できたわけですね。あまり作品を多く残してはいませんが、滝井孝作の世界にはまるのもいいかもしれませんよ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

徳冨蘆花 「思出の記」

えしぇ蔵も趣味で小説を書きます。その際に文体で大きく影響を受けたのは壇一雄ですが、他にも参考にしたい、こういう文体で書いてみたいと思った作家は何人かいます。そのうちの一人が徳冨蘆花です。この人は本当に知的で美しい文章を書く人です。その徳冨蘆花ですが、どういう作家でどういう作品を書いたのか、ちょっと調べてみようという時、おそらく多くの人は代表作で当時は大変なブームになった「不如帰」から読むことでしょう。えしぇ蔵も「不如帰」大好きです。しかし本当に徳冨蘆花の魅力を知ろうと思えば、それだけではなく必ずこの「思出の記」も読むべきです。この作品の中にはこの人の魅力がぎっしりつまっていますし、その特徴も如実に現れています。そして彼の実力のすごさを十分に知ることもできます。内容は主人公の菊池慎太郎の幼い頃から社会に出てある程度名をなすまでの、いわば立身出世的物語です。とにかく描写が細かい上に、長い物語なのに構成がしっかりしているのでえしぇ蔵はてっきり自伝小説だろうと思っていましたがそうではありません。多少の参考はあるでしょうが基本的に全て想像の産物です。裕福な家に生まれながらすぐに家は没落し、幼少の頃から苦労多き毎日を過ごす主人公は、家の復興のために勉学に励み、次々に襲い来る障害を乗り越えてたくましく生きていきます。そうなると最後は偉業を成し遂げるとか、大人物になるとか、そういう華々しい結末が待っているものですがこの作品の場合、立派に社会の中で尊敬を集めるだけの人物になり、平和な一家を築くという、より現実的な結末を用意しています。このへんも評価される一つの理由かもしれません。そして全体を通してとにかく知的で美しい文章に満たされています。冒頭にも書きましたが私が最も魅了された点であり、それ故に一番オススメする点です。長い物語ですがずっとその中に浸っていたいと思うくらいです。あらゆる意味で徳冨蘆花の魅力満載の作品ですから、是非「不如帰」の後にはこの作品をどうぞ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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