蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

三好達治 「詩を読む人のために」

もし多少でもピアノを弾くことができれば、有名なピアニストのコンサートを聞きに行った際にその人の奏でる音がいかに美しいか、その人のテクニックがいかに卓越されているかを知ることができて余計にコンサートを楽しむことができます。もし歌舞伎を見に行く前に演目の内容をしっかり下調べしておくと、どういう流れなのか、どの場面が見どころか、などがよくわかって余計に歌舞伎を楽しむことができます。つまりある程度の予習がしてあると芸術はより多く楽しむことができます。映画でもそうです。美術展でもそうです。(芸術以外でもそうです。例えばスポーツ観戦など)もちろん何の前提知識もなく、ただ自分の感性で楽しむというのもいいことですが、もしそこである程度”楽しみ方”というものがわかっていれば、2倍も3倍も楽しめるというのは間違いないことだと思います。詩についてもそれは言えます。えしぇ蔵はこの三好達治の作品を読んで以来、詩というものがどれだけ素晴らしいかを再認識しましたし、また読む作品の一つ一つが今まで以上に楽しめるようになりました。北原白秋、蒲原有明、中原中也、萩原朔太郎、高村光太郎などなど、著名な詩人の作品を例にあげて、この作品はこういう部分に工夫がされているとか、こういう心境で書いているとか、それまではなかったこういうテクニックを新たに取り入れているとか、具体的に分析して教えてくれます。それによって、有名詩人の作品の特徴を知るだけでなく、詩はどういうことに注意しながら読めばもっと面白いのか、ということを教えてくれます。詩を楽しむ上で非常に頼りになる参考書です。これから詩を読んでみようと思う人は是非この作品を先に読まれることをお勧めします。また、すでに多くの詩を読んでこられた人もこの作品を読んだ後にもう一度今まで読んだ詩を読み直してみられることをお勧めします。きっと見落としていた魅力が見つかると思います。詩が好きな人には必読の書として非常に強く推薦したい作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

芥川龍之介 「蜜柑」

最も優れた短編小説作家は誰か?とくれば志賀直哉と芥川龍之介の名前が誰しも浮かぶところでしょう。個人的にもこの二人の短編は完璧だと思います。雲の上のような高い水準にいます。短編で読者をうならせるというのは至難の業です。長編なら少しづつ説明できるような登場人物のキャラクターや舞台背景、自然なストーリーの展開、作者として作品にこめたいメッセージ、様々な効果を出すための文章のテクニックなどを少ない枚数に凝縮してしまわないといけません。読むのもせいぜい数分から一時間であり、何日もかかるわけではありません。その短時間のうちに読者の心の中に何かを残そうというわけですからまさに至難の業です。それに失敗して単なる短い文章に終わり、読者の頭から翌日には消えてしまっている作品も少なくありません。まさに作家の力量のみせどころですね。芥川龍之介は王朝ものと呼ばれる歴史ものや「河童」みたいな不思議な話などに見られるように、エンターテイメント性も含んだ面白さで読む人をひきつけますが、この「蜜柑」はそれらとはちょっとテイストが違います。おそらく芥川龍之介が実際に見た情景を描いているようです。電車の中で一人の少女が寂しそうに座っているのを主人公が見かけるところから物語は始まります。電車がトンネルに入ろうとする時にその少女は一生懸命に窓を開けようとします。そしてなんとか窓は開いて電車がトンネルを抜けると、外の景色の中に少年が三人並んで電車に向かって何か叫んでいるのが見えます。その三人に向かって少女は手を振って、持っていた蜜柑をいくつか投げます。要するに奉公かなにかに行く少女を見送りに来た弟たちに、少女は蜜柑をあげて別れを惜しんでいるわけです。このシーンの美しさ!目の前にありありと情景が浮かんで心がふるえます。別離の悲しみの中に家族の愛を描いて心温まるものを残してくれる素晴らしい作品です。短いですが大量に感動を与えてくれます。まさに短編小説の一つの模範と言えるかもしれません。

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島尾敏雄 「出孤島記」

太平洋戦争の末期、敗色濃厚な日本の苦し紛れの秘策は神風特別攻撃隊だったわけですが、これは航空機によるものだけではありませんでした。様々な体当たり攻撃の方法が考案されましたが、その中の一つが船によるものです。船といっても軍艦のような立派なものではありません。今でいうならレジャー用のモーターボートみたいなものの先の部分に爆薬を仕込んだだけの実に頼りない構造のものでした。普通に考えればそんなものが巨大な鉄の固まりである軍艦を沈めることができるわけがありません。突っ込んで行く途中で射撃を受け、それが爆薬に引火して敵の船に辿りつく前に自爆してしまうのは明らかです。全くの自殺行為です。ところが戦争の狂気というものは敗色濃厚な国の指導者の正常な判断を奪って、こんな悲惨な攻撃を真剣に準備して実行に移そうとするわけです。その虚しい任務を任されたのがこの作品の主人公の部隊です。船による特攻の部隊を率いて、ある島で出撃命令を待つ部隊の隊長がこの話の主人公です。万全の体制で出撃命令を今か今かと待つ緊張感が作品の中に漲っています。その異様な雰囲気の中で、主人公の心理は国のために見事に死んでみせようという思いと、なんとか生き延びたいという思いが交差します。当時の多くの兵士が持ったであろう複雑な心理を持て余している様子が非常によく伝わってきます。それもそのはず、この話は作者の実体験をもとに書かれています。だから臨場感はすさまじいばかりです。出撃命令がなかなか来ない焦り、いわゆる死を待つ焦りはある意味死よりも辛いものなのかもしれません。じらすくらいなら早く死なせてくれと思ったことでしょう。当時は多くの若者がこんなつらい状況を体験したことを思うとなんとも胸に迫るものがあります。この作品は、「出発は遂に訪れず」「その夏の今は」の二作品につながります。発表時期は離れていますが、時間的につながっているので三部作と認識していいと思います。是非この二作品も読んで下さい。平和な世界において正常な心理状態でいられるありがたさを再認識できる作品です。

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