蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

永井路子 「歴史をさわがせた女たち」

現代に生きる我々が歴史を学ぶという時には学校の教科書や多くの本に書いてあることに頼らざるをえませんが、果たしてそれは真実なのでしょうか?実は多くの場合それは”定説”というものに頼っているわけで、誰も真実だと言い切ることはできません。ではその定説というのはどうやって生まれたのでしょうか?これらは江戸時代に当時の価値観によって都合のいいように作られたものが多いのです。真実がどうであったかきちんと調べたというよりは、若干の材料をもとに創作されたものというほうが当たっていたりするわけです。だから定説というより真偽の怪しい伝説ですね。極悪人だとされていた人物がそうではなかったとか、劇的な名場面はなかったとか、有名なセリフは後世の創作だったとか、おそらく調べれば調べるほど出てくると思います。そういう残念な状況に敢然と立ち向かったというイメージがあるのがこの永井路子です。彼女は自分の力で入念に調べなおし、定説も伝説も違うと思えば根底からひっくり返し、他とは違う角度で人と出来事を観察し、無視されがちな些細なことにも注意し、その結果たどり着いたものを自分なりに解釈しなおし、誰にも理解しやすいような親しげな文体で作品に仕上げています。実に素晴らしい仕事をする人です。ですからその作品は読みやすく面白いですし、また意外性が多分にあって非常に興味深いです。そんな彼女が歴史上有名な女性たちをもう一度彼女なりに調べ直し、より真実の姿に近づこうとしたのがこの作品です。登場する女性は神話の時代から明治まで33人です。おそらく皆さんの中にある常識が何度もひっくり返されて驚くと思います。長い時間と政治的・社会的な意図によって真実の姿を変えられていった女性たちの本当の素顔を明らかにしていこうというのですから面白いのはもちろん、文献としても非常に貴重なものだと思います。彼女特有のユーモラスな語り口でわかりやすく説明してくれますので歴史に興味ない人も楽しめます。是非この作品を本当の歴史というものを考え直すきっかけにして頂ければと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

幸田文 「台所のおと」

女流作家の作品においてたびたび重要なキーワードとして登場するのが着物と料理です。この辺はやはり女性ならではというところでしょうか。この作品は料理屋を営む夫婦の話です。職人肌の旦那が病気で寝込んでしまい、奥さんがかわりに料理をすることになります。旦那にきちんと教えられた通りに料理して店を続けていきます。旦那は病床からその音を聞いて、何を作っているかとか、奥さんの体調はどうかとかがわかってしまうわけです。それでこういうタイトルになっています。奥さんの体調が悪い時や、心配事があって気持ちが乱れている時には台所の音が違うと言われて、奥さんは焦ります。旦那の病気は重くて余命いくばくもない状態で、そのことを本人には知らせていません。奥さんは平静を装いますが心の中には悲しみが渦巻いています。それがどうしても台所の音として出てしまうわけです。なんとかいつものように料理しようとする奥さんのけなげさになんとも悲しいものがあります。そういう内容なのに湿っぽくなく静かに情緒的に話を進めていく技量はさすがだなと思います。なんともいいお話です。幸田文の短編の中でも傑出していると思います。幸田文の作品はきわめて美しい日本語で組み立てられた芸術品という印象を受けます。えしぇ蔵が仕事で移動中に見つけた本屋さんにふらっと入って幸田文をレジに持って行ったら、おそらく店主と思われるおばちゃんに「あなた本好きでしょ?幸田文の文章はそつがなくていいですもんね」と言われたことがあります。このおばちゃんの言葉は幸田文の文章の魅力を端的に語っていると思います。父親露伴に厳しくしつけられたことも影響してでしょうか、文章に実にきちんとしたものを感じます。整然と書かれて美しく品がありますが弱くはありません。しっかりとした強さを後ろに秘めつつ女性の柔らかさで静かに語っていきます。一見なにげない文章なのに読み始めるとぐいぐいと引っ張っていかれるのはその辺に理由があるのではないかと思います。えしぇ蔵もそうでしたが、おそらく皆さんも読み終わった時に作者に対して敬意を表したくなると思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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