蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

横光利一 「笑われた子」

今までありとあらゆる作家の作品に触れましたが、個人的には横光利一の作品が一番自分に響いてくるものがあるかなと思っています。特に数分で読んでしまえるような短編で読む人の気持ちをぐっと捕らえて、そして大きな余韻を残せる力量は、芥川龍之介、志賀直哉に匹敵するものがあると思います。この作品も非常に短く、ストーリー的に大きな展開があるわけではないのですが、確実に読んだ後に唸らせるような力を持っています。物語は吉という少年を将来どういう職につかせるかを家族で話し合っている場面から始まります。いろんな意見が出ますが、まだ少年の吉にはどこ吹く風という感じです。そしてその日の夜、吉は口が裂けた大きな顔に笑われる夢を見ます。翌日、吉は丸太と剃刀を持ってその顔を家族に内緒で再現しようと試みます。何日も何日もかけてその顔を作っていきましたが、ある日剃刀がぼろぼろになっていたことから家族に発覚します。父親は吉が作った面を見て感心し、吉を下駄屋にすることを思いつきます。そして実際に吉は下駄屋になるわけですが・・・最後のオチはなんとも不思議なインパクトを受けますが、それがなぜか妙に心に残ってしまいます。最初は「うーん、不思議だ・・・」という印象はやがて、「うーん、すごい・・・」に変わります。優れた才能の成せる業というのはそういうものなのかもしれません。ところでこの作品を読んで、あれ?こういうの前に読んだことがあるかも・・・と思われる人もいるかもしれません。というのは、プロットが志賀直哉の「清兵衛と瓢箪」に似ているからです。「清兵衛と瓢箪」の場合は主人公の子どもが瓢箪に関して大変な目利きだったというストーリーですが、どちらも子どもの人並み優れた隠れた才能をテーマにしています。考えてみるとこの2作品に限らず、子どもに隠れた才能があってそれが物語を面白く展開させるというパターンは昔からたびたび使われているようです。子どもの才能を周囲の大人は見落としていないか?それを伸ばす環境を与えているか?という疑問が根底にあると思われます。子どもを見る優しい目が生んだ作品といえますね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

島尾敏雄 「死の棘」

この「死の棘」は島尾敏雄の作品の中でもちょっと特異な位置を占めるもので、彼の魂の全てを注ぎ込んだと表現してもいいくらいの大作です。非常に長い私小説です。何年も続いた自分の家庭のつらく悲しい時期をごまかすことなく赤裸々に綴っています。全てを読者に見せて、自分の苦しみをまるごと作品化してしまおうとする強い姿勢には脱帽のほかありません。ストーリーは極めて悲しく重いものです。島尾敏雄の10年にわたる浮気が奥さんにばれてしまい、そのショックによって奥さんは精神的に大きな傷をおってしまいます。今でいう躁鬱の状態になってしまいます。激しく憤って旦那を罵り、浮気相手とのことを細かい部分まで問い詰め追い込むかと思えば、次の瞬間には泣き出して死にたいと言ったりする、そんなやりとりを夫婦で毎日毎日やるわけです。これだと旦那もおかしくなるのは当然です。彼は苦しみから逃れるために発狂したようなフリをして逆に奥さんを慌てさせたりします。子どもたちはそんな二人の毎日のやりとりを、「カテイノジジョウ」と呼んで悲しんだり、あきれたり・・・まさに家庭崩壊です。なにしろこれが全部実話なんですからすごいというほかありません。家庭不和と、それに追い討ちをかける貧乏とで何度も転居を繰り返し、最後は奥さんの実家に帰ることになります。私小説もここまでくると凄まじいものがあります。島尾敏雄の自業自得と言ってしまえばそれまでなんですが、苦難を抱えた一家族の苦しみもがく姿にはやはり強く訴えてくるものがあります。この作品は小栗康平監督により映画化され、カンヌ映画祭でグランプリを受賞しています。外国の人の心もふるわせたということでしょうか。それともこういう「カテイノジジョウ」はどこの国にもあることだから共鳴するものがあったということでしょうか。優れた作家ほど生活そのもの、生き方そのものが作品になっていくものですが、ここまで自らの私生活を作品にすることができる心境に達することはなかなかできることではありません。苦しみの中で何かを悟ったからこそできることだと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

山岡荘八 「伊達政宗」

歴史小説を書くというのは非常に難しい作業です。小説なわけですから空想で書いても非難されるいわれはありませんが、あまりに史実とかけ離れていると読者はちょっとひいてしまいます。中には丁寧に「そこは違う」と指摘するような律儀な読者もいます。だから歴史小説というのは史実をしっかりと調べた上で、調査に調査を重ねた上で、その結果出てくる空白の部分に自分の想像や解釈を盛り込み、ドラマを作っていかなければなりません。空想だけで書いても史実をきちんと調査していない作品は薄っぺらで軽いものに感じられます。そういう面において山岡荘八という人は本当に群を抜いた存在と言えると思います。調査研究における苦労が読みながらしみじみと感じられます。そしてそこに盛り込まれる山岡荘八ならではの大胆な解釈が実に爽快な筆で書き込まれており、その力強い主張が作品に躍動感を与えています。この作品の中の伊達政宗は彼の筆によると実に精気溢れた豪傑であり、巧みな政治手腕を発揮する策士でもあります。自分に与えられた人生という時間を思い切り使い切るというような痛快無比な生き方を見せてくれます。これは山岡荘八なりの伊達政宗像なわけですが、本当にそういう人だったのではないかと確信を持ってしまうくらい、文章に説得力があります。講談社の山岡荘八歴史文庫で全8巻ですが、面白すぎてあっという間に読んでしまいます。講談社の山岡荘八歴史文庫は全部で100冊あり、歴史を作り上げた様々な人物の活躍が楽しめますが、その共通している点は主人公の人間性がしっかりと描かれており、長編においても全くぶれがないことです。主人公に限らず、登場人物の個性の確立が非常に巧みです。主人公には強靭な精神を持たせる場合が多く、その逞しい生き方に読む側は大いに勇気づけられます。いわば元気を与えてくれる小説とも言えるかと思います。歴史小説の一つのあるべき姿がここにあるのではないかと個人的には思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

最近の記事

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

esezo

Author:esezo
FC2ブログへようこそ!

QRコード

QRコード

RSSフィード