蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

葉山嘉樹 「海に生くる人々」

プロレタリア文学というものは今の世界から見ると遠い過去のもので、当時の労働者の叫びを表現し、社会主義、共産主義を目標とする人々によって政治的に利用された一つの宣伝媒体のようなものと認識している人も多いかと思います。実際そうである部分も大きかったと思います。そういうイメージがあるからこそ、芸術的にはあまり評価されず、戦後の平和な社会の到来とともに徐々にその存在が忘れられていったといってもいいかもしれません。でもそれは非常に残念な見方です。プロレタリア文学と言われるものの中にどれほどたくさんの芸術的傑作があるか、意外と知られていません。例えばどんなものがあるの?と聞かれればこの作品をオススメするものの一つに加えるのは間違いありません。この作品は多くの人が持つプロレタリア文学というものへの誤った認識を変えることができます。それほどの傑作です。北海道の室蘭と横浜の間を石炭を積んで往復する船の中で起こる労働者と支配層の戦いのドラマです。労働者は家畜のようにひどい環境でこき使われて、その労働による利益は支配者に吸い取られていく図式の中で、何人かの労働者の決起から争議へと発展します。悪知恵の働く支配者層は労働者の熱意に対して欺瞞で対応し、労働者の希望の光ははかないものになっていく……という内容です。ストーリー的にはよくあるプロレタリア文学のパターンそのものですが、文章は美しく、構成もしっかりして非常に完成度が高いです。(ところでこういう船の上を舞台にした労働者と支配層の対決というプロレタリア文学のパターンはどこかで聞いたことないですか?そうです、あの小林多喜二の名作「蟹工船」に似ていますね。実は小林多喜二はこの作品に大きく影響を受けて、「蟹工船」を書いています。実に類似点の多い2作品ですが、どちらも甲乙つけ難し、高い水準にあることは変わりません。)こういう作品に是非触れて頂いて、プロレタリア文学を見直して欲しいと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

井伏鱒二 「さざなみ軍記」

井伏鱒二は歴史物をいくつか書いていますが、非常にその水準は高くどれも素晴らしい傑作となっています。えしぇ蔵の個人的なお気に入りはこの「さざなみ軍記」です。この作品の時代背景は源平の勢力争いの頃です。源氏の勢いにおされて京都を追われ、西へ西へと逃げる平家の軍勢の悲壮な姿を描いています。その描き方が非常にユニークです。平家の軍勢に加わっていたある少年の日記の形をとっています。特に興味深いのは日々の出来事がリアルにつづってある文章の中でその少年が徐々に成長していくのがわかることです。見方を変えると軍記である反面、一人の若者の成長の記録とも言えるかもしれません。まだ子どもで弱々しく頼りにならなかったのが、いつしか立派な武将として貴重な戦力となるまでに成長していきます。ところがご存知のように平家の最後は滅亡です。日記が進むにつれて状況は悪化していきます。先に勝利が待っていない、幸せが待っていない悲壮感がバックにあって、それがストーリーのドラマ性と文章の叙情性を高めていきます。面白くてかつ文学的。さすがは井伏鱒二というべきでしょう。彼もかなり思い入れがあったみたいで、そんなに長い作品ではないのですが、なんと9年もかけて少しづつ書いています。後で知ったことですが、9年もかけたのはただ丁寧に書いたというだけではなく、この日記が何年もの長い月日を記録しているという雰囲気を出すために、敢えて少しずつ長年かけて書いたそうです。なんとも気の長いテクニックを駆使していたわけですね。なるほど10年の記録の抜粋を1日で書くとどうしても月日の長さ、時間の重みというものの臨場感が出ませんからね。そういった工夫が、本当にこういう日記が実はあったのではないか?と思わせるほどのリアリティを生んだわけです。井伏鱒二がそこまでしているわけですからそりゃいいものにならないわけがありません。こういう作品が書ける人こそホンモノだなぁとつくづく思います。

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池波正太郎 「蝶の戦記」

人との出会いがあると、えしぇ蔵としてはどうしてもその人がどういう本が好きなのかを尋ねたくなります。本の嗜好というのは人間性の一端を垣間見ることもできますし、何よりそこから話題が広がりますからね。それで毎回いろんな答えが返ってくるわけですが、最も多いのは司馬遼太郎と池波正太郎です。そしてこの二人にはまった人は必ずその作品をどっさり揃えています。「池波正太郎は全部読んだ」という人も何人かいました。つまりはまり方が半端じゃないんですね。そういう自分も本棚を見るとこの二人の作品が大量に並んでいるので、はまる理由は実によくわかります。池波正太郎の本を買って帰った時は他の作家では感じない独特のワクワク感があります。そして読み始めたらあっという間に読み終わってしまいます。なぜでしょう?答えは簡単。超がつく面白さだからです。どんなに長くても気にならないというか、話が終わって欲しくないと思うくらい面白いです。特にこの作品は数多い池波正太郎の歴史物の中でも面白さについてはトップクラスではないかと思います。お得意の忍者もので、主人公のお蝶は女の忍びとして戦国時代の荒れた日本を舞台に大活躍します。事件は次々と起こり、いろんな人物が登場し、合戦はあるわ、お色気はあるわ、エンターテイメントとして最高です。忍者ものと言ってもあり得ないような忍術を使ったりではないし、弱さもあるわけで、人間的に描かれていることが特徴です。だから感情移入しやすいのかもしれません。この作品を第一弾として、続編が「火の国の城」、そのまた続編が「忍びの風」となります。この3つがいわゆる忍者シリーズ三部作です。これとは別に「忍者丹波大介」という作品もありますが、これもまた同じ延長線上にあります。あなたもきっと次々に読んでいくことでしょう。そして同じような歴史物に手を広げ・・・気付いたら本棚が池波正太郎だらけになっていることでしょう。是非はまってみて下さい。

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