蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

平林たい子 「施療室にて」

えしぇ蔵が平林たい子を知った時には、もうかなりの数の作家の作品を読んでいました。それだけに既に自分の中に自分なりの作家のランク付けがされていたので、この人のずば抜けた才能に触れて驚かずにはいられませんでした。ちょっと真似しようにもとてもできない知的で芸術的な表現を身に着けるには一体どうすればよいのか、教えを乞いたいと思いました。この作品は波乱万丈という言葉ではその一端も表現できない彼女のすさまじい人生の軌跡の一部を切り取った体験談のような作品です。アナーキストであった当時の夫と満州に渡りますが、夫は警察に捕まり、自分は妊娠していたので慈善病院に入院します。やがて出産しますが、栄養失調で脚気になってしまいます。生まれた子どもに与えるミルクもなく、やがて子どもは死んでしまいます。人間ここまでどん底の心境っていうのがあるのだろうかという深くて暗い悲しみと虚しさを、恐ろしいほどの巧みな描写で表現しています。苦しいから助けてくれという訴えではなく、こんなみじめな自分って一体なんなんだろう?という諦観的な見地に基づく描き方が余計に読み手に訴えてきます。彼女はこの作品でプロレタリア作家として認められデビューします。デビューでこれですから本当に脱帽です。彼女は女学校を卒業後、就職という名目ですぐに上京します。しかしその上京の真の理由は社会主義運動に参加するためでした。つまり若い頃から激しく熱いものを内に秘め、社会に訴えたいものがあったわけです。そしてその後に経験する艱難辛苦は彼女の作品の形成に大きく貢献します。ただ、苦難を経た人が全ていいものを書くというわけではないので、彼女の傑作はいわば才能と経験の融合によって生み出されたのではないかと思います。たくさんの秀作を残して世を去りますが、文学史に残した足跡は非常に大きいです。こんなすごい女流作家を知らずにいた年月が長いことをつくづく恥ずかしく思いました。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

南條範夫 「武家盛衰記」

えしぇ蔵は歴史ものにも目がなくて今までかなり読みましたが、ここまでどっぷりはまるに到ったのは一つの作品がきっかけでした。それがこの「武家盛衰記」です。もうかなり前の話になるのでこれをどういう経緯で手に入れたかは忘れてしまいましたが、確か高校生くらいの頃に夢中で読んだのを覚えています。この作品には戦国時代の代表的な武将が24人紹介されています。いづれ劣らぬつわものばかり。その一人一人の生涯を簡単に追ってあり、おおよそその人のことがわかるようになっています。徳川家康、豊臣秀吉、織田信長みたいな天下を動かした超大物ではなくて、その次くらいに位置する人たちです。前田利家、柴田勝家、明智光秀、加藤清正、伊達政宗・・・読み進んでいくとどの人物もこの時代において傑出した人物であり、非常に魅力にあふれていたということがわかります。こんなすごい人たちが日本のあちこちにいて、天下を夢見て戦っていた戦国時代とは一体どんな世界だろう?と思ったのがえしぇ蔵が歴史ものにはまるきっかけでした。ですからこの本には本当に感謝しています。今でも取り出して読み返すことがあります。是非お勧めしたいのは歴史ものに興味を持って、これからちょっと覗いてみようかなと思っている人たちですね。歴史の世界への入門書(戦国時代に限られますが)としては、最高の一冊だと思います。この作品を読んでからお気に入りの武将を選んで、南條範夫はもとより、司馬遼太郎や吉川英治や池波正太郎や山岡荘八などが書いた、その人に関する作品を探して読むというのがいいと思います。ちなみに南條範夫も歴史小説の世界では不動の地位を築いた人で、2度候補になった後、1956年に「灯台鬼」で直木賞を受賞しています。この作品以外にもお勧めはたくさんありますので、そのまま南條範夫の世界から歴史小説を知るというのも一つの手かなと思います。

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山口瞳 「江分利満氏の優雅な生活」

芸術は模倣では大成しません。必ず自分だけのスタイルを確立することが成功の必須条件となります。文学もそうで、師とあおぐ作家の模倣から最初の一歩を踏み出す作家がほとんどだと思いますが、名を上げた人はそこから必ず自分だけの作品の世界を構築することに成功しています。時世に乗る乗らない、大衆に受ける受けない、批評家に評価されるされないは関係なく、自分の文体、自分のテーマ、自分の言葉によってオリジナルの世界を築き上げた人が文学史に名を残していると思います。ただそうは言ってもその独自のスタイルが意図せず他の誰かと相似している例はよくあります。この作家の作品はなんとなくあの作家のものに似ていると思うことは皆さんも経験されたことだと思います。そこでこの山口瞳という人の作品を考えてみますと、これはもう他に全く例をみない孤高の世界です。多くの人が住む街を遠く離れた郊外に巨大な城を築いて一人で住んでいるという印象を受けます。50代以上に多く見られる山口瞳ファンはつまりはこの世界に魅了されているわけです。ではどういう世界なのでしょう?この人の場合はとにかく文章が面白い。軽妙でユーモラス。ちょっと皮肉も入って自虐的。少し冷めた眼で世間を眺めているけど、実はその内側に思い切り訴えたいものが、熱いものが隠されている。それがこの人の特徴で、この作品を読めばそれがすぐにわかります。彼がここで言いたいのは昭和30年代のどんどん成長しつつある日本の社会を構成する”普通の人々”の生態に隠された本音です。本当に面白くて愉快に読めるのですが、どこかかすかに寂しいものがある、裏に隠された涙があるんです。ただ単にチャラチャラしたウケねらいの小説ではありません。だからこそベテラン作家たちに訴えるものがあったのでしょう。昭和37年に直木賞を受賞しています。山口瞳に凝ってみようかなと思う人は是非最初の一冊にこの作品をどうぞ。そして彼独自の世界へお進み下さい。

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司馬遼太郎 「新撰組血風録」

新撰組というのは非常に浪漫を感じさせる人たちでして、歴史が好きな人もそうでない人もその中の人物にあこがれたという人は多いと思います。それぞれにまっすぐに生きた人たちで、しかも剣の達人ばかり。かっこいいですよね。土方歳三、近藤勇、沖田総司、永倉新八、原田左之助、山南敬助 ・・・ずらり揃ったつわものども。その魅力ある新撰組隊士たち一人一人を取り上げて、それぞれにエピソードを持たせてその生き様を描いた作品がこの「新撰組血風録」です。短編集になっており、一つの短編ごとに一人の隊士が主人公になっています。もちろん小説ですから創作部分も多いですが、おおよそその人物の人柄は出ているのではないかと推測できます。土方歳三、近藤勇、沖田総司などのメインの人たちはよく歴史小説に取り上げられますが、他の隊士にもスポットをあてたこの作品は新撰組ファンなら絶対外せない傑作ですが、新撰組ファンでない人にも面白く読めるのは保証します。いくつか簡単に紹介しますと、多くの作家が描いて皆さんもよくご存知の「池田屋事件」をまた違った角度から描いた「池田屋異聞」、薩摩出身であることに密偵の疑いをかけられる富山弥兵衛を描いた「弥兵衛奮迅」、美青年の加納惣三郎をめぐって隊士同士が争うという男色の世界を描いた「前髪の惣三郎」、沖田総司の実らない悲しい恋を描いた「沖田総司の恋」、近藤勇の愛用としてその名を歴史に残した名刀の真贋がテーマの「虎徹」、初代局長でありながら問題の多い存在として隊士によって暗殺されるに至る芹沢鴨を描いた「芹沢鴨の暗殺」・・・などなど、どの話もきっちりとまとまったエンターテイメントでありながら、歴史の要素も失うことなく興味深いものに仕上がっています。こういう短編では特に司馬遼太郎の底知れない力量が実感できると思います。司馬遼太郎の作品をまだ読んだことがない方には作風に関する一つのガイドにもなり得るかと思います。

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