蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

石原慎太郎 「太陽の季節」

今の人は政治家としてこの人を知る人が多いかもしれませんが、最初は作家として世に出ました。その華々しいデビューのきっかけになったこの作品は、昭和31年に芥川賞を受賞しましたが、その内容によって日本中に大センセーションを巻き起こしました。不良の主人公が盛り場で知り合った女性と肉体関係を持ちます。女性のほうは恋愛感情を持ちますが、主人公は次第にそれを煩く感じるようになり、女性に興味を持っていた兄に売ってしまいます。その後、女性が妊娠していることがわかり、中絶手術を受けますが腹膜炎を併発して女性は死んでしまいます。主人公はその女性の葬式の場で驚くような行動に出ます・・・当時としては非常にショッキングな内容で、倫理性に欠けるということでかなり非難もされました。でも一方では若い世代に大歓迎され、太陽族という流行語まで誕生しました。そして作品は弟(石原裕次郎)を主演に映画化され大ヒットします。この人の髪型は”慎太郎刈り”と呼ばれ当時の若者の間でブームになりました。文学史上においてメディアを通してスターになった最初の作家と言われています。今読んでもその過激な内容や卓越した文章力には圧倒されます。荒削りの若さが迸る感じがします。非常に熱いエネルギーがあります。この作品の真価について、当時の文壇の重鎮たちも二手に分かれて大論争になりました。それくらい日本中を騒がせた名作です。後世において昭和という時代を研究する際に必ず必要になるであろう作品です。今の東京都知事として知られる石原慎太郎にも、その当時のエネルギーが残っているかのような活躍ぶりです。この人の政治にかける熱い想いや行動力というのは、この作品のエネルギーに原点があるのではないかと思います。小説という世界におさまりきれず、生き方においても何かを表現しようとする作家もいますが、この人は間違いなくその中の一人に挙げられるのではないかと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

吉田満 「戦艦大和」

この吉田満という人はすごい体験をされています。東京帝国大学の学生だった彼は昭和18年に戦局の悪化に伴う学徒出陣で海軍に入ります。そして昭和19年に少尉としてあの「戦艦大和」に乗り組み、昭和20年には天一号作戦に参加します。いわゆる沖縄への水上特攻作戦ですね。そしてご存知のとおり「戦艦大和」を旗艦とする第二艦隊は米軍の空母11隻から発進した約380機の猛攻撃にあいます。そして世界を震撼させた巨艦「戦艦大和」は大爆発とともに撃沈されます。乗組員2740名が戦死、生存者は269名といわれています。その生存者の中の一人である彼は、戦争が終わると両親の疎開先である東京の西多摩郡に帰ります。その地にはたまたま歴史作家の吉川英治も疎開していました。吉川英治と対面した彼はその数奇な体験を話したわけですが、吉川英治は是非それを文章として残しておくように勧めました。そういった経緯でこの作品が生まれたわけです。この作品は大変な好評を博し、彼は図らずも文学史に名を残すことになったというわけです。彼は「戦艦大和」の出航準備から撃沈まで全てを見ており、その体験の一部始終をそれは素晴らしい文語体で書き綴っています。余計な作為のない純粋な魂の記憶がそこにあります。まさに名文。これこそどんな名文家をもしのぐ、体験者でないと書けないものです。読んでいくと主人公と一緒に死への不安、別離の悲しみ、国の将来への憂慮を感じていくことができます。あぁみんなこんな心境で戦争に行ったんだな・・・と心の底を揺さぶられる大きな悲しみを感じます。構成も無駄がなく、完成度も非常に高い名作なのに、なんとほぼ一日で書いたそうです。心の中にあったものが一挙に噴出してきたんでしょうね。絶対にオススメの名作です。神様が一人の男に天賦の文学の才を与え、「戦艦大和」の最後を書き残させるために彼を生き残らせたのではないかと思えてなりません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

泉鏡花 「婦系図」

泉鏡花の作品のイメージは、「高野聖」に代表されるように幻想的、オカルト的なものと受け取られがちですが、全くの大衆文学でドラマのシナリオに持ってこいのような物語もそれは素晴らしいものを残しています。明治の末期に新聞連載されましたが、この時代において尾崎紅葉の「金色夜叉」と徳冨蘆花の「不如帰」とこの「婦系図」は、三大国民的通俗小説といわれました。確かにこの三作品は非常にドラマティックで、ストーリーの展開に心を奪われ、登場人物と一緒に喜び、怒り、悲しむというふうに読者を引きずり込む面白さが特徴です。通俗小説、いわゆる面白さを重視する大衆小説は明治の頃といえど他にもたくさんあったわけですが、この三作品は群を抜いていますのでどれもお勧めです。このような作品が当時の一般大衆を夢中にさせた構図は、あたかも現代において中高年の人が韓国のドラマに夢中になるのに似ているような気がします。韓国のドラマは、もはや日本のドラマでは見られない驚くほど意外な展開で視聴者を夢中にします。そんなこと実際にはありえない話だと思わせつつもテレビの前から離れられないという、強引さを含んだ魅力を持っています。まさにそれこそこの作品の魅力です。主人公の早瀬とお蔦の悲恋を中心に進むストーリーは、信じられないような驚きの展開で読者を振り回します。読み進むうちにどんどん話は盛り上がっていき、最後の留めにはこれまた驚きの結末が待っています。読み出したら止まらない作品です。それほどの面白さがある作品ですからこれまで何度もドラマや舞台で演じられてきました。(ただし舞台でよくやる「湯島境内」の別れの場面は舞台用に後から書き加えられたものなので原作にはありません。)演目としては定番中の定番となっています。ドラマや舞台で見たという人も多いことでしょうが、ここは是非原作を読んで下さい。師匠の尾崎紅葉にひけをとらぬ名文で読めば、物語の深みを味わうことができます。韓国ドラマに負けない面白さを保証しますよ!

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