蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

森鴎外 「渋江抽斎」

偉大なる森鴎外。日本文学史の中で燦然と輝く存在ですね。文学が好きな人や文学の道を志す人に圧倒的に支持され、尊敬の的となる人です。その大先生たる森鴎外の晩年の作品がこの「渋江抽斎」です。そうか、あの森鴎外ならさぞかし傑作だろう、ひとつ読んでみるか、と思われる方に一つ警告です。この作品は文章表現や内容において非常にレベルが高く、学術的で難解な語句や喩えも頻繁に出てくるので、はっきり言って読みやすいとは言い難いです。専門家の間でも評価は二分します。ですのである程度そのへんを覚悟して読んで下さい。江戸時代の医者である渋江抽斎という人の伝記ではあるのですが、いわゆる普通の歴史小説のように史実をもとに想像を膨らませて面白くドラマティックに・・・というものではありません。むしろ研究資料的な感があります。森鴎外が多くの人や書物に取材し、調査した結果を記録したものという感じです。ただ、難しいですけど読み終わった後にはあなたの中での森鴎外像はさらにすごいものになっていることは保証します。弘前の藩医であった渋江抽斎の生き方に同じ医者として共感を覚えた森鴎外は実に細かく取材して書き上げています。この渋江抽斎という人もおそらく森鴎外がスポットライトを当てなければ、歴史の中で徐々に薄れてゆく存在だったのではないでしょうか?それが文学の大家が取り上げたことでその名前は永久に残ることになったわけです。地道な働きを積み重ねて逝った人も後の世でこうして誰かの筆で紹介されて名を残すということもあるんですね。渋江抽斎と森鴎外は不思議な縁でつながっていたのかもしれません。こういう作品は未来永劫伝えていきたいものですね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

吉行淳之介 「原色の街」

吉行淳之介という人には不思議な魅力があります。えしぇ蔵もこの人には非常に強い関心を持っています。彼は世の中のあらゆるものに対して、シニカルな眼を通して距離をおいて見ており、何事にも冷めた反応しかしませんでした。感情に左右されることなく、常に”自分”というものを強固に持ち続け泰然自若の姿勢で一生を終えますが、それが冷たい人という印象を残すのではなく、”かっこいい”という印象を人に持たせるから不思議です。彼はルックスもよく、女性に対して敬意を持って接していたので非常にもてたそうですが、おそらくそんなぶれない姿勢が彼の最大の魅力だったのではないでしょうか?それは作品にもしっかり現れています。彼は男女の性をとおして、人間の生を見ようとした人です。女性との接触で何かを見つけようとする、救いを求めようとする男性を描いています。この作品もその一つです。戦後まもない頃の小説というのは戦前の高揚感、戦中の緊張感がともに敗戦によって失われ、プライドも希望もなくした人間がただ生きていくためにどうすればいいか懊悩しつつさまよう姿を描いているものが多く、登場人物の人間性はどこか荒んでいます。そういった人間たちが自暴自棄に愛欲をむさぼりながら、必死に精神的つながりを求めているという姿を描くとすれば、それはまさに彼の得意とするところです。性行為のきわどい描写も彼が書くととても深いものになります。表面的には単なる性欲のやりとりであっても、当事者同士の内面ではお互い何かを探し求めている、何かの答えを探している、そういうふうに受け取ることができます。心理描写が巧みだからそう感じるのかもしれません。冷徹な視線で描いているはずなのに、その裏には必死なものがあるのを感じます。そうしてやはり最後には、作品に対しても”かっこいい”という感慨を持ってしまいます。一冊読めばこの人の作品にはまっていくという人は少なくないと思います。

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