蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

遠藤周作 「侍」

キリスト教をテーマにした作品が多い遠藤周作ですが、その中でもこの作品は「沈黙」と並んで傑作中の傑作だと思います。本当に感動しました。遠藤周作はまるで映画の脚本のように徐々に盛り上げていき、最後は感動の場面で最高潮に達して読み手にジーンとくるものを与えてくれます。仮に同じストーリーを描くとしても彼の場合は他の作家よりもよりドラマティックに描きます。えしぇ蔵は「沈黙」の時も泣かされましたが、この「侍」でもまたやられました。”ストーリーテラー”という表現はまさにこの人のためにあると言ってもいいかもしれません。この作品は伊達家の支倉常長をモデルにした話です。支倉常長は慶長年間に伊達家の命により貿易交渉のため、キリスト教の宣教師とともにスペインそしてローマへと旅をします。当時としては生きて帰ることができるかわからない大冒険です。それを終えて7年後に帰国しますが、その時はキリスト教はご法度になっており、支倉家には輝かしき名誉ではなく悲劇が待っていました。作品は多少の脚色を加えながら、キリスト教的要素を強調しつつほぼそのままに展開していきます。主人公の侍は藩の命令で外国人の宣教師について遠い外国へ行きます。そこで洗礼を受けるわけですがそれは便宜上のもので、改心など全くしていませんでした。藩も外国と貿易をするのが真の狙いであり、キリスト教のことなど実はどうでもよかったわけです。侍は苦労して宣教師の故郷にたどりつき、そしてまた同じ道のりをはるばる戻ってきますが、帰り着いてみるとなんとキリスト教はご法度。そしてあろうことか藩は幕府からの濡れ衣を防ぐために侍を処罰しようとします。そこで侍は言葉にできないくやしさにふるえます。そんな彼の心理が最後にたどり着いたのは・・・。ラストシーンには鳥肌が立つほど感動しました。とにかく素晴しい作品です。是非読んでみて下さい。あなたもきっと涙することと思います。

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山本周五郎 「さぶ」

山本周五郎の作品というのは本当に得るものが多いと思います。「人間として歩むべき道」をビシッと教育してくれるような気がします。様々な苦労を経て、生きることの辛さを実感し、そこから強さを身につけてきた人だからこそ書けるのだろうと思います。この作品では特に彼のメッセージを強く感じます。無実の罪で罪人の更正施設のような「寄場」というところに送られる主人公の栄二は、最初は自棄になり、人や世の中を呪います。それがいろんな人と出会い、いろんな経験を経ていくうちに反省し、人を信じること、人を許すこと、人に感謝することを学んで一人前の男に成長していきます。まさに人としての生き方を学ぶ教科書のような本です。文部省推薦って感じがします。ストーリーの構成もよく、文章も読みやすいので誰でもすんなり入りこめる作品です。どれでも1冊、彼の作品を読めばきっと”山本周五郎”ワールドにはまってしまうことだろうと思いますが、この作品を最初に読んで、それ以後山本周五郎を読まないという人は少ないのではないかと思います。人の心の底に大事なものを残してくれるので、それがきっと次の作品への欲求につながっているのではないかと思います。ところでこの作品のタイトルは『さぶ』ですが、主人公の名前は『栄二』です。あれ?と思いませんか。この作品を読み始めればきっとこういうふうに感じることでしょう。「これ、題名は『さぶ』じゃなくて『栄二』のほうがいいのでは?」と。半分くらい読んで「やっぱり『栄二』にすべきだ」、後半に入って「絶対『栄二』にすべきだ」と感じるはずです。ところがですね、読み終わってきっとこう思います。「なるほど。『さぶ』がいいな」と。そこでまた山本周五郎のすごさを思い知らされるわけです。是非この作品から大事な何かを学んで下さい。

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直木三十五 「益満休之助」

直木三十五の一代傑作大長編「南国太平記」を読んだ方は是非どうぞ。これは続編です。「南国太平記」では倒幕運動が始まる予兆のみを暗示して終わりましたが、この作品では益満休之助が江戸において倒幕に大いに貢献します。普通の歴史ものの作品と違うのは、世の中の変化を江戸に住む庶民の目でとらえていることです。「南国太平記」でお馴染みの庄吉、南玉、富士春らが登場し、変わり行く世の中に翻弄されます。べらんめぇ口調で交わされるリズムのよい会話は今回も楽しめます。彼らをとりまく時代はどう変わっていくのでしょうか?それぞれの人生はどう展開していくのでしょうか?本当に楽しめる一冊です。ところでこの益満休之助は実在の人物なんですが、ご存知の方がどれくらいいますでしょうか?日本は江戸末期から明治にかけて本当にたくさんの優れた人材が表舞台に登場し、それぞれに日本の将来のために人生を費やし、そして散っていきました。西郷隆盛、大久保利通、桂小五郎、勝海舟、坂本龍馬・・・・・・などなど、枚挙に暇が在りません。その中においてもしっかりと存在をアピールしているのが益満休之助です。その活躍は本作品の中でほぼ描かれていますが簡単に説明すると、彼は倒幕のための工作員でした。西郷隆盛の命によって江戸に潜入し、多くの仲間とともに騒ぎを起こして江戸を混乱させます。彼はその首謀者として幕府に拘束されますが、その騒ぎによって人々は不安を抱き、幕府への不満を募らせました。それが倒幕の大義名分となるわけです。その後、薩長の狙い通りに全面戦争(戊辰戦争)に突入します。そしてあの有名な「江戸城無血開場」となるわけですが、その際に幕府側の使者である山岡鉄舟を西郷隆盛のもとへ案内したのが、幕府に拘束されていた益満休之助でした。歴史の重要な場面で重要な役割を演じています。そんなすごい人なのです。どうです?読みたくなったでしょ?

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丹羽文雄 「海戦」

丹羽文雄は太平洋戦争中の昭和17年8月に第8艦隊の旗艦「鳥海」に海軍報道班員として乗り込みます。戦線の記録を残すためによくカメラマンが同行しますが、彼は小説家として同行(当時は佐藤春夫、火野葦平、久米正雄、山岡荘八、海音寺潮五郎など、多くの作家が報道班員として従軍しています。)し、自分の体験を記録して作品化します。それが中央公論に発表されて大絶賛されます。決戦におもむく一人ひとりの心理描写も、砲撃しあう時の臨場感も、おそらく当時の人を夢中にしたでしょう。ここで描かれているのは第1次ソロモン海戦で、結果は日本側の一方的勝利に終わります。(日本海軍はアメリカとオーストラリアの連絡路を断つために、ソロモン諸島の中に基地を作る必要がありました。そこで選ばれた島が、多くの戦病死者を出したあの悲劇の舞台、ガダルカナル島です。連合軍との間でその争奪戦が始まった当初、海上において初めて大規模な戦闘となったのがこの第1次ソロモン海戦です。この時は大勝でしたが、最終的にはガダルカナル島は奪われ、日本軍は撤退します。ここから連合軍の北上と日本軍の連敗が始まります。)当時の日本人にとっては非常に痛快な作品になりましたが、でもよく読むと底辺に「戦争の悲しさ」が密かに表現されているのを感じることができます。単なる記録文学ではなく、当時の人たちが心の奥底にひた隠しに隠していた平和へのあこがれを、彼が巧みに掘り起こそうとしたのではないかと勝手に推測しています。彼がいた場所のすぐ近くが被弾し、彼は怪我をしますが助かります。しかし一緒にいた人数名が一瞬にして死ぬのを目撃します。彼は死というものを目の当たりにし、何か非常に強いものを感じますが、当時の時勢ではストレートに表現しにくかったのでしょう。自分の思いを隠しながら書いているような感じを受けます。彼はこの記録で本当は何を言いたかったのか?是非読んであなたなりに探ってみて下さい。

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