蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

尾崎紅葉 「多情多恨」

この作品は内容的には言わば昼のメロドラマ的なものが大いにあります。自分の奥さんが好きで好きでしょうがないという一途な男が、奥さんの死に寄って毎日泣いて暮らすほど落ち込みます。要するに情が深い人なんです。ただ多くの人を好きになることはできず、心を許すのは他に親友だけです。その親友がいろんな手を使って慰めてくれますが、主人公の心は晴れません。一人でいてはよくないということでついには親友の家で暮らすことになりますが、その親友の奥さんがけなげに旦那に尽くす姿に徐々に心惹かれていき・・・・・・という内容で、ご想像のとおりちょいとやばいかもしれない展開になっていくわけです。ドラマの脚本に持って来いといった感じです。これだけ書くと「なんだ、軽い小説なのか」と思われるかもしれませんがそれは誤解です。この作品の注目すべき点は3つあります。まず主人公の心理状態が徐々に変化していく様子が実に見事に描かれていることです。2つ目は「口語体」で書かれていることです。今では当たり前のことですが、この当時はまだ「口語体」の作品と「文語体」の作品が混在していました。日本語は実に長い年月、「話す言葉」と「書く言葉」を別にしてきました。それが明治の頃に一つになるわけですが(一部は太平洋戦争終戦まで残りますが)、その「口語体」で書く試みが成功した例とされています。3つ目はテンポのいい会話です。尾崎紅葉は会話の名手と言われていました。当意即妙な言葉のやりとりにリズムがあって、内容にぐっと引き込まれます。これら3つの点に留意して読まれると、この作品の価値が実感できるのではないかと思います。尾崎紅葉はかなりの英語読解力があったそうで、多くの海外の作品を読み、自分の作品のヒントとしていたそうです(「金色夜叉」はバーサ・クレイの「女より弱きもの」を参考にしているのではないかという説があります)が、この作品は「源氏物語」に大いに影響を受けて書かれたものだそうです。確かに主人公が奥さんに死なれてなかなか立ち直れない様子は、更衣を失って嘆き悲しむ桐壺帝そのものです。もしよかったら「源氏物語」も読まれて(長いのでかなり勇気いりますが)、主人公の心理の変化を比較してみるのも面白いかもしれません。そういったわけでただのメロドラマではなく、いろんな魅力が隠された作品ですので是非読んでみて下さい。

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司馬遼太郎 「国盗り物語」

社会人になって間もない頃、就職した会社の先輩に「とにかく面白いから」勧められたのがこの作品です。先輩の指摘通りとにかく面白くて一気に読んでしまいました。そしてそれからです。えしぇ蔵はどんどん司馬遼太郎の世界にはまっていきました。とにかく司馬遼太郎が書いた時代物の小説なら手当たりしだいに読みました。気付いた時には自分の本棚にものすごい数の司馬遼太郎が並んでいました。それにしてもどうして司馬遼太郎の作品ってこんなに面白いんでしょうか?えしぇ蔵のようにはまってしまっていつしか本棚にずらりと並んでいるという人は結構いると思います。実際に多くのファンを持つ人ですからね。おそらく読みやすく、テンポがよく、わかりやすく、感動させるからだと思います。史実から大きくそれることなく、かつ大胆なドラマ性を持たせることがこの人の得意技ですから、多くの人がそこに魅了されるのでしょうね。この作品は戦国時代初期が舞台で、斉藤道三と織田信長、そして明智光秀を中心に話が進んでいきます。読み進んでいくと主人公が交代するところが時代の流れを感じさせて面白いです。あの混乱した時代に日本をまとめようとした男たちの夢と挫折が描かれた見事なエンターテイメントです。読み終わって興奮冷めやらないという人は、「新史太閤記」へと進んで下さい。今度は豊臣秀吉の出番です。これがまた面白くてやめられないのです。また更に次の時代を知りたいという人は「関ヶ原」を読んで下さい。こちらは徳川家康と石田三成が主役です。この3つが司馬遼太郎の戦国三部作です。これらを読破すればまさに戦国時代を突っ走っていくことになります。そして読み終わる頃にはすっかりあなたもファンになっていることだろうと思います。是非この作品を皮切りに司馬遼太郎ワールドにはまってみて下さい。

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新田次郎 「八甲田山死の彷徨」

明治35年(1902)に八甲田山を舞台に悲しい事件がありました。日露戦争目前の状態で軍は雪中行軍のデータを取るために八甲田山で訓練を行います。そして日本陸軍第8師団青森歩兵第5連隊の210名のうち、なんと199名が帰らぬ人となりました。冬山の恐ろしさを知らしめた有名な悲劇です。この事件をテーマに山岳小説の第一人者の新田次郎が書いた傑作がこの作品です。吹雪の中の山の様子などは山岳経験豊富な新田次郎ならではの表現で実にリアルに描かれています。彼のおかげでこの悲劇が忘れられることなく語り継がれることになったのではないかと思います。読み進んでいくと、非情な冬山の姿が思いあがった人間を懲らしめているような、そんな感じを受けます。えしぇ蔵はこの作品を1977年に公開された映画「八甲田山」で最初に知りました。小学校の頃、テレビ放映された際に見た時はそのあまりに残酷な光景がショックで、数週間ぐらい引き摺っていたことを覚えています。高倉健、北大路欣也、三國連太郎、緒方拳、加山裕三などの錚々たるスターが、白一色の世界の中で過酷な自然と必死に戦う姿には大変な感動を覚えました。そして一人、また一人と死んでいく兵士の姿に涙せずにはいられませんでした。その後、高校に入ってから映画の原作が新田次郎によって書かれたことを知り、むさぼるように読んで感動を新たにしました。だから個人的にも非常に印象に残っている作品です。この作品がきっかけとなって、新田次郎の山岳小説の世界にはまっていき、これまでかなりの数の作品を読みました。そしてそれに触発されて、トレッキング程度ではありますが自分も山に登るのが好きになり、山の素晴しさを知ることができました。だからこの作品には恩があります。その恩返しの意味も含めて、ここで紹介することでより多くの人に読んでもらえれば嬉しいです。

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