蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

横溝正史 「本陣殺人事件」

横溝正史という人がかつて存在したことは、日本の推理小説界にとっては大きな誇りです。まさに日本の推理小説を新化させるために生まれてきたと言っても過言ではないと思います。ところがそんな彼でも肺結核を患ったり、戦争の影響で作家活動を規制されたりで、自由に推理小説を書けない頃がありました。それが戦後になってついに開放され、自分の時代が来たとばかりに作家活動を再開します。来るべき日に備えて、不遇の時代に練りに練っていた構想を作品にして発表されたのがこの「本陣殺人事件」です。ご存知、頭ぼさぼさの金田一耕介が難事件を解決する傑作中の傑作です。金田一耕介が初登場する作品でもあります。この作品は日本の推理小説の歴史上、非常に重要な位置を占めています。何といっても日本初の本格推理小説でありますし、非常に困難と言われた日本家屋での密室トリックに挑戦しています。ストーリーも構成も全く文句のつけようがない質の高さで、それをつづる文章がまた素晴らしく、まさに完璧と言ってもいい作品です。推理小説といえばアガサ・クリスティやエラリー・クィーン、ディクスン・カー、ヴァン・ダインなどの海外の大御所が有名ですが、いえいえ日本にも世界に誇れる人がいます。それが江戸川乱歩であり、横溝正史です。二人ともトリックに納得がいきますしストーリーも面白く構成も巧みです。この作品のトリックは本当に素晴らしく、一種の感動を覚えました。横溝正史に敬意を表したいです。家の中に刀で斬られた死体が二つ。でも刀は庭に降り積もった雪の上に突き刺さっています。まわりに足跡は全くありません。さて、この二人に一体何が起こったのでしょうか?推理小説はトリックに無理があると読後にがっかりしますが、この作品に関してはその心配は無用です。じっくりと読んで、真相の解明にチャレンジしてみて下さい。

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菊池寛 「真珠夫人」

菊池寛の作品といえば、「屋上の狂人」、「父帰る」、「恩讐の彼方に」、「藤十郎の恋」などの名作をすぐに思い浮かべることができます。どれも評価の高い文学小説であることは言うまでもありません。ところが面白いことに、菊池寛という作家はそれらの名作とは全く性格を異にする作品も一方では書いています。それがこの「真珠夫人」です。これは「芸術」とは言い難く、全くもって「エンターテイメント」です。きっと作者を知らないで読んだらおそらく今時の売れっ子脚本家が書いたドラマじゃないかな?と思うことでしょう。とても菊池寛という名前は浮かんでこないと思います。それほど意外な作品です。だからといって評価しないという意味ではありません。非常にテンポよく進んで、驚くような展開を次々に繰り出し、読み手を全く飽きさせません。まさに”面白い”作品です。内容は、清純で芯の強い女性が、ある理由があって男性の心を弄ぶ妖女へと変身していきます。一体彼女の目的は何なのか?えしぇ蔵思うにこれは女性版の「金色夜叉」ですね。その意味は読んで頂ければわかります。冒頭で紹介した作品群とは一線を画しているせいか、絶版の状態が続いて、長いこと世間から忘れられた存在でしたが、2002年にテレビドラマ化されたことをきっかけにまた本屋に並ぶようになりました。エンターテイメント性の高い作品を読む際に、「そんなことがあるわけない」とか、「現実離れしている」などの意見はタブーです。ありそうもないことを物語の中で体験できるのがエンターテイメントですから、ここは一切の理屈や常識は抜きにして、頭をからっぽにして楽しみながら読むことをお勧めします。何か面白くて夢中になれる小説を読みたいと思う方は是非どうぞ。何も手につかなくなるくらいですからお時間のある時に読んで下さい。

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長塚節 「土」

「節」は「たかし」と読みます。この人の生涯は35年という短いものでしたが、この作品によって永遠に文学史上でその存在を主張する作家となりました。あの夏目漱石がその才能を認めて世に紹介したというほどの人で、長命だったならばおそらく数々の名作を残したことでしょうが、天才ほど早世するというのはいつの時代、どの分野においてもお約束です。この作品はその2つの要素によって十分に長塚節という作家を説明しきっています。長塚節は正岡子規の門下にいて、「写生」の概念を学んでおり、この作品中でそれが遺憾なく発揮されています。明治における極貧の百姓一家の生活を自然の四季折々の変化とあわせて淡々と描いており、風景描写の素晴らしさなどは群を抜いています。見たまま、感じたままを書くということはつまりこういうことだと教えてくれているかのようです。これが一つの要素。もう一つはその「写生」によって、農民たちの苦しい生活を浮き彫りにして世に訴えることに成功していることです。本人は意識していたかどうかはわかりませんが、この作品は日本初の農民文学と言われています。農村の実態を正岡子規譲りの技法で広く世に伝えたことは彼とこの作品を文学史上の不動の存在にしたのです。ただ、作品の内容としてはこれといってストーリーに大きな展開があるわけでもなくペースも遅いので読んでいて疲れるかもしれませんが、文学的にもテーマ的にも日本人として大いに学ぶところがあるので是非頑張って読んで頂きたいと思います。ここに描かれている生活の様子はかつての貧しい日本の姿であって、裕福な現代の我々には想像もつかないひどい世界です。こういう時代があったこと、またこういう時代を経て今の日本があることを一度でいいから認識して頂けたら嬉しいです。病弱で早世した彼にとって唯一の長編小説ですが、非常に価値ある一品を残して逝ったわけですから、彼としても本望だったのではないでしょうか?

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松本清張 「或る「小倉日記」伝」

北九州市小倉の小倉城のすぐ近くに「松本清張記念館」があります。そこに行くと彼の作品の表紙を壁一面にずらりと並べているコーナーがあります。きっと驚かれると思いますがその数は半端じゃありません。生涯においていかにたくさんの作品を残したかを表しています。その数は1000にも及ぶそうです。全作品を読むというのはかなり大変な作業になると思います。それだけたくさんの作品を残しているからにはかなり若い頃から作品を発表していたのではと思われがちですが、実は作家の中でもかなりデビューは遅い方です。この作品は昭和27年の芥川賞受賞作で、彼はこの作品によって一躍メジャーの仲間入りを果たしますが、この時既になんと44歳でした。作家としてはだいぶ遅い出世です。本格的に作家活動に入るのはさらに3年後のことですが、そこからはまさに快進撃です。数々の賞をとりつつ、膨大な作品を残したというわけです。デビューが遅い作家に見られる共通点は、様々な社会経験を経て人間の幅も増しているせいか、初期の作品から既に完成度が高いということです。この作品はその典型的な例です。新人の登竜門「芥川賞」を与えるには逆に完成しすぎているという印象すら受けます。この作品は文学史上における謎の一つ、森鴎外の小倉在住時代の日記の在り処を追う身体障害者の主人公のひたむきな生き様を描いています。幻の日記を探す謎解き的なおもしろさと、主人公が障害と闘いながら強く生きるドラマ性という一見相反するような2つの要素をうまく融合させている点はまさに賞賛すべきテクニックです。全く無駄がなく極めてレベルの高い作品に仕上がっています。この後、怒涛の勢いで名作を発表し続けていくわけですが、この作品は彼の作品歴における大いなる序章と言えると思います。短編ではありますが松本清張の魅力がコンパクトに凝縮された作品ですので、今から松本清張の世界に入りたいという方には是非この作品を最初にして頂ければと思います。

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