蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

森敦 「月山」

昭和48年の芥川賞受賞作です。読んでみて充分納得。まさに受賞すべき傑作です。やはりこの頃ぐらいまでは芥川賞や直木賞を、それに値する作品が受賞していたなとしみじみ思います。その当時、森敦はなんと62歳でした!史上最高齢での受賞です。一般的に芥川賞や直木賞は新しい才能を発掘して世に紹介するイメージがありますので、この年齢には驚く人も多いと思います。よほどデビューが遅かったんだなと誤解されがちですがとんでもない。なんと22歳にして大手の新聞に連載を持っていました。かなり早くから菊池寛や横光利一に見出されてその実力は高く評価されていました。昭和48年の芥川賞受賞というだけで巷で”老新人作家”と呼ばれたりしますが、それはちょっと違うのではないかと思います。この作品はなんとも不思議な印象を受けます。東北の山の中の小さな村を訪ねた主人公がそこで一冬を越す話です。雪によって町と遮断されてしまったその村が、まるで生きた人間の世界から遮断された死の世界のように表現され、全ての人物や出来事が裏になにか意味を含んでいるようで、読み手を翻弄します。隠された何かがあるはずだ、それは何だろう?と思いつつ読み進んでいくのですが・・・。名作は押しなべてそうですが読後に余韻が長く残ります。自分がいつまでもその村から抜け出せない気がします。非常に深い作品で、その素晴らしさはとても表現できません。年齢的に円熟しきった時期ですから文章や構成が申し分ないのは当然で、作品全体に余裕すら感じます。なんともいえない重厚感があってぶれがなく、安心して読めます。これは20代の駆け出し作家には書けないと思いました。舞台となる村の不思議な空気の表現は誰も真似できないものではないでしょうか?どうぞこの不思議な世界にあなたも迷いこんで下さい。

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中原中也 「山羊の歌」

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の皮裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む

汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところなく日は暮れる・・・・・


この有名な詩はご存知でしょう。これを読んで貰うだけで余計な説明はいらないかもしれません。中原中也の繊細な感性と、激しい内面の煩悶と、洗練されたテクニックをこの1編だけで知ることができます。詩というものがこの世に存在したおかげで、彼は自分の内面から出てくる叫びを表現することができたと言えるのではないでしょうか?思えば自分の内面にある本当の思いを死ぬまでに外部に向って表現できる人がいったいどれくらいいるでしょうか?恐らくほとんどの人はそれらを胸に抱いたまま墓場まで持って行くのではないでしょうか?彼は見事にそれを成し遂げた人ではないかと思います。それだけにまるで自分の代弁をしてくれたかのごとく、多くの人が彼に共感を覚えるのではないでしょうか?若くして死ぬのであまりたくさん作品はありませんが、ここで紹介した詩を含め、彼の魂の声を集めた詩集「山羊の歌」は本棚に1冊は持っておきたいところです。ちなみにあのランボオの詩集を翻訳して紹介したのも彼です。いい詩を日本に伝えようとした姿勢も評価すべきですね。

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直木三十五 「南国太平記」

まずは直木三十五という人をご存知でしょうか?日本文学史に欠かせない偉大なる作家なんですが、さて、今から本屋さんに行ってこの人の本を探してみましょう。ありますかね?ありませんね。よほど品揃えのいい大きな本屋さんに行くか、古書を扱う昔ながらの古本屋さんに行くか、あるいは通販で全集を買うか、ヤフオクで出品を待つか、そういった手段でないとなかなか手に入らないという現実があるわけです。これが常にえしぇ蔵が嘆く日本の悲しいところです。偉大なる作家の素晴しい作品をどんどん廃版にして後世の人に伝えようとしないのです。先人の残してくれた遺産は大事にしたいものですよね。直木三十五はあの直木賞の由来となった作家です。この人の作品は面白く読める大衆小説が中心だったので、直木賞はそういった作品が対象となっています。とにかく読み手が夢中になって、本に釘付けになるような娯楽性の高い作品を残していますが、中でも一番のお勧めはこの「南国太平記」です。これは直木三十五、一代の傑作といわれる壮大な歴史エンターテイメントです。時代は幕末、薩摩の島津家で起こった”お由羅騒動”を題材にしています。斉興派と斉彬派に分かれた島津家の家臣たちの勢力争いは、日本中の人望を集める斉彬の広い心によってその方向を変えていきます。薩摩隼人らの燃えたぎる情熱は、やがて日本を変える情熱へと昇華し、物語が終わった後に起こる倒幕運動の幕開けを予告して終わります。それはそれは素晴らしい傑作です。長いですがそれを感じさせない面白さとスピード感があります。出てくる登場人物は完全に悪役にまわっている人はいなくて、いづれもこれでいいのかと迷いつつ行動している部分にどこかしら直木三十五の優しさを感じるような気がします。直木賞に名を残す人がどんなものを書いていたのか、やはり知っておきたいところです。面白さは絶対の保証付。是非、頑張って探して、読んでみて下さい。よかったら続編の「益満休之助」もどうぞ。

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