蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

森鴎外 「雁」

いつも森鴎外のことを書く時にはなにか畏れ多いものを感じます。血筋もよければ経歴も申し分なし。多くの実績と名声を残し永遠に語り継がれる人。そんなすごい人をえしぇ蔵ごときが紹介するなど、時代が違えばお上に叱責をくらうかもしれません。とにかくその人生は素晴しいもので、貧乏にのたうち苦しみながら書いて日々食いつないでいた明治・大正の多くの作家たちとは大違いの豊かな人生でした。この場で森鴎外の生涯について細かく書くとスペースが足りなくなるのでポイントだけ。彼は作家としてだけではなく、医者としてもトップを極めた人です。こう書くと医者のほうが副業に聞こえますが、彼の本職は軍医です。しかも最終的には軍医総監にまで登りつめました。これは軍医という職業における最高位です。軍医総監という言葉を調べて頂けるとわかりますが、かつてこの職を務めたお歴々の中に”森林太郎(本名)”という名前があります。多くの人に”医学博士”という肩書きがあるのは当然ですが、彼だけはそれに加えて文学博士と書かれています。全く見事な二束のわらじです。医者としてのすごさはさておき、文学者としての彼のすごさを語る上で紹介すべき作品は枚挙に暇がありませんが、ここで紹介する「雁」はこれから森鴎外の世界に入るという人にはお勧めです。古き日本の面影、可憐な恋愛模様、そういったものを十分に堪能できる文学作品です。”偶然”というものに翻弄される人間の運命を描いてますが、ストーリーも面白く、作品として非常にわかりやすい構成にもなっていますので構える必要はありません。気軽に読むことができます。高利貸しに囲われているお玉という美しい女性と岡田という純粋な大学生の間の切ない想いのやりとりは一幅の見事な絵画を見た後のように深く心に残ります。是非、あなたも浸ってみて下さい。ちなみにお玉は鴎外の隠し妻をモデルにしたのではないかという説がありますがどうなんでしょう?真実は鴎外のみぞ知る・・・?

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徳田秋声 「黴」

この作品は明治44年に東京朝日新聞に連載された時に好評を博し、自然主義に徳田秋声ありと世間に認識させました。徳田秋声個人にとっても日本文学史にとっても非常に重要な位置を占める作品です。金沢出身の徳田秋声はもともと尾崎紅葉の弟子でした。ここで、え?そうなの?と思う人もいるでしょう。なぜならその作風がおよそ正反対ですからね。尾崎紅葉とくれば浪漫派の親分ですからね。その弟子が自然主義というのは変な話です。要するに徳田秋声は途中で自然主義に鞍替えして、尾崎紅葉のもとを去ったわけです。(自然主義に走った徳田秋声を尾崎紅葉の一番弟子であった泉鏡花は許せなくて殴打事件を起こしました。それ以来この二人は疎遠になりますが、後に泉鏡花の弟が徳田秋声の持っていたアパートに住み、そこで死亡したことがきっかけで和解します。)自然主義文学においては自分及びその周辺の人物や出来事がそのまま書かれる場合が多いですが、この作品も自分自身をモデルにして書いたそうです。ただそうなると徳田秋声という人が人間的にどうなのか?という疑問がわいてきます。なぜならこの主人公は傲慢でいい加減で気まぐれで思いやりのない人物で、読んでいて本当に腹が立つからです。小説ですからモデルについて深く追求する必要はないと思いますが、もし徳田秋声がこの主人公そのままの人で自分の近くにいるとしたら正直ちょっと距離を置くかもしれません。でも読み手にそう思わせるということは人物描写が極めて優れているということになるわけです。家の世話をしてくれる女中さんみたいな人に手を出して妊娠させてしまって、責任をとるのか、縁を切るのかはっきりしないまま、なし崩し的に家庭ができていって・・・という話ですが、ここは架空の人物と割り切って読むほうが作品のすごさを堪能できると思います。

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水上勉 「五番町夕霧楼」

本屋でその名前を見つけたら吟味することなくすぐに買う作家が何人かいますが、水上勉もその一人です。かなりの数を読みましたが未だ外れたことはありません。おそらく同じように「水上勉なら・・・」と安心して買う人は多いのではないかと思います。ではなぜ彼はそんなに読み手の心をつかめるのでしょうか?勝手に推測してみましたが、それはきっと「文学」と「エンターテイメント」が融合しているからだと思います。だからどちらの好みの人も捕らえてしまえるわけです。文章の美しさ、表現の巧みさは極めてハイレベルな文学です。一方で読み手を飽きさせない予測不可能なストーリー展開は抜群のエンターテイメント性といえます。一見矛盾するかのような対極にある魅力を見事に融合させた作家は多くのファンを持つに至ります。そんな彼のオールマイティな魅力を堪能するにはこの「五番町夕霧楼」は「雁の寺」とともに最も推薦したい作品です。舞台は京都。五番町にある遊郭「夕霧楼」に夕子という名の美しい女性が預けられます。そこへある若い客が頻繁に通うようになってから、夕子の行動が怪しくなっていきます・・・この辺のワクワク感が水上勉ワールドです。なにか秘密が隠されている!何かが裏で進行している!なんだろう?なんだろう?と読む人を引きつけておいて、驚きの結末を迎える。まさに映画の脚本には持ってこいの面白さがあります。そして物語の底辺にはやるせない悲しみがあります。テーマがしっかりしていることと表現が美しいことによって作品が軽くなりません。文学的サスペンスとでも表現しましょうか。これを読むときっと水上勉ワールドにはまると思いますよ。

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城山三郎 「雄気堂々」

「近代日本資本主義の父」と言われるあの偉大な渋沢栄一の生涯を描いた作品です。日本人ならこの人の功績を知らずにいては論外です。今の日本経済の基盤を作ったと言っても過言ではないほど多大な貢献をした人です。この作品の面白さを知って頂くために渋沢栄一のことを簡単にご紹介します。もとは幕末の志士で攘夷を叫んでいた武士の一人でしたが、縁あって徳川慶喜に仕えることになります。つまり幕府側についてしまうわけです。そこで徳川慶喜の弟の徳川昭武のヨーロッパ視察に同行しますが、この時に見たヨーロッパの姿に大きな衝撃を受け、渋沢栄一は一介の武士では持ち得ない知識と視野を得ることができました。ところがその後幕府は倒され、明治政府が誕生します。彼は学んだことを生かして株式会社を作りますが大隈重信の誘いで大蔵省に入り、日本の経済のしくみ作りに奔走します。大蔵省を退官後は様々な企業や団体の設立に関与します。その数が半端じゃありません。今のみずほ銀行を筆頭に多くの銀行を立ち上げていますし、東京海上、帝国ホテル、王子製紙、サッポロビール、キリンビール、秩父鉄道、京阪鉄道、東洋紡績、東京ガス、太平洋セメント、日本郵船、東急不動産、JR、澁澤倉庫、東京製綱、東京証券取引所・・・その数は500を越えるそうです。その上まだ多くの学校の設立に関与していますから、日本の発展に多大な貢献をしたことが分かると思います。彼が他の経済人と異なる点は何より国全体が豊になることを前提としていることです。「道徳経済合一説」を理念として掲げ、倫理と利益の両立を目指していました。そんな偉大な人物を城山三郎が詳細に調べ上げて伝記風な物語に仕上げたのがこの作品です。一介の武士がいかにして近代日本資本主義の父となったのか、是非読んでみて下さい。そして渋沢栄一という人に対して感謝と敬意を持って頂ければと思います。

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