蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

斎藤茂吉 「寒雲」

短歌に興味を持ったら必ず行き着くのが偉大なる歌人、斉藤茂吉です。彼は伊藤左千夫に弟子入りしてから短歌の道を歩み始め、大正から昭和初期にかけてはアララギ派の代表的人物となりました。とにかく残した歌の数がすごいです。18000首近く詠んでいます。発表した歌集は17冊。随筆も残しており創作意欲は非常に旺盛でした。ところが彼の本業は医者なんですね。意外と知られていない事実のようですが彼は精神科医としても成功しています。本人も医者のほうが本業で、歌はあくまで「業余のすさび」と語っています。彼の名を一躍有名にしたのは処女歌集「赤光」です。ロマンにあふれた新しい作風は当時の世間を驚かせました。そうして文壇にしっかりと自分の位置を築いた後、時代は日中戦争に突入し、太平洋戦争へと続いていきます。そうした軍靴の響く世相不安な昭和15年に発表されたのがこの「寒雲」です。時代背景から内容的に戦意高揚的なものが多く含まれています。彼の戦争中における創作活動を、戦争を肯定し軍に協力したということで批判する人がいますが、これは個人的にはちょっと納得のいかないことだと思っています。あの戦争に関してはきちんと事実関係を調査して、国がなぜ戦争という悲劇を経験してしまったのかを自分なりにある程度仮説をたてた上で批判するなり肯定するなりすべきであって、決して短絡的な「あの戦争は日本が悪い。だから戦争協力した人も悪い。」という見地から彼を批判するべきではないと思います。異国で戦う兵士を想って詠ったその気持ちを何も知らない後世の人間が敬遠するのは間違っていると思うので敢えてここでこの歌集を紹介しました。当時の斉藤茂吉のまっすぐな想いをこの作品から感じて頂きたいと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

藤沢周平 「たそがれ清兵衛」

時代小説を書く作家の歴史を簡単に辿ってみると、まず大正初期に「大菩薩峠」で有名な中里介山が登場します。それ以前にももちろん時代小説作家はいましたが、今のスタイルの時代小説のスタートはここからというふうに一般には認識されています。そして大正末期から昭和初期にかけて長谷川伸、直木三十五、吉川英治、大仏次郎、子母澤寛、山本周五郎、山岡荘八と大物が続々と登場します。戦後になってからは五味康祐、柴田錬三郎、司馬遼太郎、山田風太郎、南條範夫、池波正太郎などが登場します。そして藤沢周平は昭和46年にオール読物新人賞、昭和48年に直木賞を受賞して堂々のデビューを果たします。こうして見てみると大正から昭和中期くらいまでに一挙に大物がデビューし活躍しているのがわかります。そしてこれはえしぇ蔵の個人的な意見ですが、どうも藤沢周平を最後に大物時代小説作家の時代は終わったような気がします。そういった意味でも藤沢周平の存在は文学史において一つの区切りになるのではないかと思います。この人の作品は時代小説でありながら歴史の知識があまり必要でないのが特徴です。平和な江戸時代の話が多いですし、藩も架空で登場人物も架空のものが多いです。だから気楽に読めます。ただ江戸時代の人々の生活の細かい描写については時代考証が徹底していますので作品が軽くならないわけです。「たそがれ清兵衛」は映画化された名作です。主人公の人柄はこの人が好きなパターンの一つです。つまり普段はあんまりぱっとしないけどいざという時にビシッと決める。きっとそういうところに男のあるべき姿を見ていたのでしょうか。とにかくリラックスして読める時代小説ですから気軽に読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

堀辰雄 「美しい村」

小説にも様々なスタイルがあります。とにかくストーリー重視で面白さを追求するもの、世間一般に対して何かを訴えようとするもの、芸術性を追求しようとするもの、現実をそのまま書いたもの、あるいはこれらを融合したものなど、文学の歴史の中でたくさんのスタイルが試され、確立されてきました。どのようなスタイルがより多くの人に受け入れられるかは時代の流れの中で変わってきました。では最近の傾向はなんでしょう?ベストセラーとなる作品を見ていく限りでは、奇想天外なストーリーのもの、社会問題に焦点をあてた話題性のあるものなどが主流のようです。そういう現状においてあえてお勧めしたいのが、”美しい”小説です。まるで詩を読むような静かな流れを感じさせてくれる、緑豊かな森を流れる渓流のような清々しい小説です。それがこの堀辰雄の「美しい村」です。面白さ、話題性、メッセージ・・・そういったものはとりあえず忘れて頂いて、この作品の中の清廉な空気、平安な静寂、緩やかな時の流れを是非感じて頂きたいと思うわけです。なぜならあまりにストレスに囲まれすぎて、息もつけないような状態で日々生活のために働いている日本人に必要なのは休息だからです。それも特に心の疲労を癒す必要があると思うわけです。この作品を読むことによって枯れた心に水を差して頂きたいのです。どこかあまり人のいない静かなところで一人でこの本を開く。読み急がずに一言を噛み締めながらゆっくりと読む。そういう時間が今の日本人には必要なのではないでしょうか?この作品の文章はそれは美しいです。堀辰雄は詩も書きますが、詩人が書いた小説というのはやはり美しいです。いい文学には心を癒す力があると個人的には信じています。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

最近の記事

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

esezo

Author:esezo
FC2ブログへようこそ!

QRコード

QRコード

RSSフィード