蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

新田次郎 「孤高の人」

大正から昭和初期に活躍した日本の山岳史に名を残す偉大なる登山家「加藤文太郎」をモデルにした山岳小説です。新田次郎の得意とする山岳小説の中でも出色の出来です。山岳小説の雄としてはこの人を主人公にした小説を書かないわけにはいかなかったと思います。加藤文太郎はそれほど偉大な足跡を残した人でした。この当時は今のように誰でも気軽に登山を楽しむという時代ではありませんでした。ヨーロッパですらまだブルジョア階級の優雅なレジャーでしたから日本では尚更です。なにしろまだ登山技術が発達していませんので装備にお金がかかりますし、ガイドを雇う必要もありました。一般人には縁のないスポーツでした。そんな時代に加藤文太郎は身のまわりの物を利用した装備でガイドを雇わずグループにも入らず単独で山に挑みました。彼は何度も山に挑みながら経験を積み、そのたびに得たノウハウで装備や食糧などに様々な工夫を施していきます。そして数々の記録を樹立し、「単独行の加藤」、「不死身の加藤」として日本の山岳史に名を残します。彼が偉大なる登山家となった理由は山への果てしない情熱、類稀な体力、創意工夫する知恵、妥協を知らない不屈の精神などがあげられると思います。真面目で誠実でひたむきな人間性を持つ人がそれだけの能力を有していたとなれば、なるほどあの偉業も彼ならばと納得できると思います。新田次郎はそんな加藤文太郎という人を実に適確にとらえて描いています。彼は山だけでなく仕事においても同じ真剣さで取組みしっかりと実績を残していますので、つまりは生きることに対して常に真剣勝負だったということが言えると思います。黙して挑み結果を残すというのはまさに日本の男として最も模範とすべき姿勢ではないでしょうか。登山が趣味でない人も是非読んで頂いて、彼の生き方から何かを学んで頂きたいと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

阿川弘之 「山本五十六」

阿川弘之とくればまず思い浮かべるのは太平洋戦争を題材とした作品群ですが、その中でも出色の出来といえるのがいわゆる”大日本帝国海軍提督三部作”と言われる「山本五十六」、「米内光政」、「井上成美」です。この3作品はどれも徹底した調査に基づいており、非常に興味深く読めますので是非読破して頂ければと思います。なかでもこの「山本五十六」に関しては個人的な感慨で言えばまさにあっという間に読んでしまったほど面白かったです。題材としたのが優れた人物であったこともありますし、また阿川弘之の綿密な調査と読み手を飽きさせない筆力の賜物だろうと思います。ところで皆さん、山本五十六という人物をご存知でしょうか?もう太平洋戦争も歴史の教科書の1ページに過ぎない存在となってしまった感がある昨今なので、名前だけは聞いたことがあるという人が多いのではないでしょうか?歴史の表面的な見地で説明するならばあの真珠湾攻撃やミッドウェー作戦を指揮した連合艦隊司令長官です。真珠湾は大勝利、ミッドウェーは大敗北ということで評価の分かれる人ではありますが、一個人としては人に対して優しく礼儀正しく非常に人望があって、尊敬する人として未だにその名を上げる人は多いです。人物像というのは評価する人の立場によって変わってくるのが当然ですが、評価すべきこととして一つだけ強調したいのは彼は戦争に最後まで反対していたということです。海外駐在が多かった彼は欧米の事情に明るく、アメリカの国力も正確に把握していたのでとても勝ち目はないということを認識していました。それなのにまっさきに攻めていく連合艦隊の司令長官にさせられてしまうわけですから運命というのも非情なものです。このへんの事情は作品の中で詳細に説明してありますので、是非この作品を通して山本五十六という人物像に触れて頂き、皆さんなりの評価をして頂ければと思います。ちなみにえしぇ蔵にとっては尊敬する人物の一人です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

横光利一 「春は馬車に乗って」

アメリカで暮らすある友人が日本の文学作品に飢えているということで、えしぇ蔵のセレクトで何か送って欲しいと頼まれて迷わずこの作品が含まれている横光利一の短編集を贈りました。文学のわかる友人だったので大変喜んでくれました。自分にとって特別に印象深い文学作品というのは、一度読んだらその後ずっと本棚で眠るというものではありません。繰り返し繰り返し手にとって読み直すものです。そしてそういう作品は必ず読むたびに新しい発見があります。この作品はえしぇ蔵にとって”繰り返し読む”本の一つです。内容は悲しい愛の物語です。病床において死を間近に控えた奥さんを主人公が看病する日々を描いていますが、二人のやりとりが非常にリアルに描かれています。残りわずかな時間を愛を確かめあいながら仲良く過ごすという単純な悲恋ものではありません。時には感情の行き違いから喧嘩もします。悲しみだけでなく焦燥や怒りも含まれており、その不安定な心情を実に見事に描いてある点が余計に涙を誘います。そしてこの素晴しいタイトル、「春は馬車に乗って」。これがどういう意味かは作品の最後でわかりますのでここでは説明は省きます。春は馬車にのってゆっくりとやってくる。さて、どういう意味なんでしょうか。横光利一は川端康成と親友で、ともに”新感覚派”と言われた作家ですが、正直に言うとえしぇ蔵はノーベル文学賞とったを川端康成よりも彼のほうが才能は上ではないかなと思っています。現実に川端康成自身も自分は横光利一の先には行っていないという自覚があったようです。日本の文学史上においてトップクラスの実力者の力作を皆さんも是非読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する