蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

太宰治 「魚服記」

明治から昭和初期までの日本は多くの文豪を世に出してきましたが、中でも圧倒的な人気でしかも未だにそれが衰えないのが太宰治です。特に女性からの支持は特筆すべきものがあります。男性の作家の中で最も女性の心理を適確に表現した作家と言ってもいいかもしれません。どうして太宰治はこれほどまでに人気を集めるのだろうかとえしぇ蔵が疑問に思ったのは20代前半の頃でした。そしてその謎を解くべく作品を片っ端から読みました。恐らくほぼ全作品を読んだと思います。さすがにそれだけ読めばその答えの一部が見えてきましたが、この「魚服記」を読んだ時には特になるほどと感じました。発想、展開、構成、美文・・・あらゆる面で圧倒されました。太宰治流の独特のオリジナリティの前にはもはや賞賛の言葉も見つからないという感じです。修行を積めば書けるという次元のものではありません。この作品は、太宰治の故郷である津軽の民話をベースにして創作された、摩訶不思議な物語です。一種の大人向けの童話みたいなものかなと思いながら読みすすんでいくとさにあらず、いつのまにか理性では判断しかねる世界に入っていることに気付くと思います。一回読んで「うん。いい作品だ」と思う人は逆に少ないかもしれません。きっと多くの人は、「え?結局どういうこと?」というふうに感じることでしょう。そこでお願いしたいのが、決して一回読んで終わりにしないで欲しいということです。どうぞ二回以上読んで下さい。きっと読むごとに味わいが増してきます。名曲や名画もそうですが、優れた作品は繰り返し楽しむことでますます体感できていくものです。最初が「訳わからん」だったとしても、いづれ「すごすぎる・・・」に変わっていくと思いますよ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

夏目漱石 「我輩は猫である」

言わずと知れた日本の近代文学の最大の貢献者夏目漱石のデビュー作であり代表作です。夏目漱石が文学の世界に入ったきっかけは小説ではなく俳句でした。大学時代に出会った正岡子規の影響で俳句を始めます。しかし文学を本業とするのはかなり後のことで、教職についたり留学したりして人生経験を積みます。夏目漱石の人生を研究するにおいて必ず大きなポイントとなることは、彼が若い頃から神経衰弱気味であったことです。肉親との死別や自らの病気(肺結核)の経験、失恋などが原因であると言われていますが、かなり重症だったようです。そんな彼を見かねた友人の高浜虚子が「ホトトギス」に小説を発表してみないかと勧めます。そうして書かれたのがこの名作というわけです。当初は一回読みきりということでしたが、非常に好評だったので続編が書かれていき、結構なボリュームの長編となりました。この経験が彼を文学の道に歩ませることになり、新たな人生を発見させることになります。いわば高浜虚子は一人の天才を世に送り出した大変な貢献者ということになります。この作品はなんといっても読む人を選ばないユーモアによって孤高の存在となり得ました。江戸時代にもユーモラスな文学はありましたが、明治以降においてここまで本格的にユーモアを支柱にした文学はこれが最初ではないでしょうか?猫の目から冷静に観察した人間の滑稽な社会を皮肉を交えて描くというアイディアは当時としてはとても斬新で、世代はおろか時代までも超越して人を楽しませるものとして名作の名を恣にしています。文体こそ明治の香りが残っており多少読みにくい箇所はあるでしょうが、なにしろ笑えますのであまり気にはならないでしょう。ゆっくり時間をかけて楽しんで下さい。なにせ日本文学史の輝ける金字塔ですから。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

井上靖 「氷壁」

1955年に前穂高岳東壁において登山者のナイロンザイルが切れて1名が墜死するという事件がありました。世に言う「ナイロンザイル事件」です。当時、社会的に大きな波紋を呼んだこの事件に井上靖は注目し、小説の題材として取組みました。実際の事件のほうでは後にナイロンザイルのメーカーの責任を明らかにすることに成功し、それ以後のザイルの切断による墜死をなくすきっかけとなりましたが、この作品の中ではザイルがなぜ切れたか?という点に焦点が置かれ、ドラマが展開していきます。題材こそ取り入れていますが、実際の事件とは内容は違いますのでご注意下さい。
この作品は掛け値なしにストーリーが面白くて一気に読んでしまうことができます。展開がドラマティックで読む側をぐっと引き込むこと、文章が詩情豊なことは井上靖の本領発揮というところでしょうか。”完璧に仕上がっている”という印象を受けます。主人公はある悩みを抱えた友人と奥穂高に登ることになりますが、もうちょっとで頂上というところでなぜかザイルが切れてしまい、友人は滑落死してしまいます。切れないはずのザイルがなぜ切れたのか?友人は自殺したのではないのか?主人公はいろんな憶測に悩みつつ、自分への嫌疑もあったので真相解明のために奔走しますが、答えを得ることはできませんでした。そしてついに最後の手段として一人で登ることを決意します。果たして主人公は真相解明に成功するのでしょうか?こうやって少し筋書きを紹介しただけでも読んでみたくなりませんでしたか?小説の面白さを追求するなら一押しの作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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