蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

徳田秋声 「あらくれ」

金沢という町と文学とは切ってもきれない縁があります。なにせ室生犀星の出身地ですからね。金沢出身の文豪として室生犀星と並び賞されるのは徳田秋声です。この人も日本の文学史に残した足跡は極めて大きく、その貢献度は計り知れません。ではどういう作品を残したのでしょうか?彼は自然主義文学の作家として一般には知られていますが、実は最初は尾崎紅葉の弟子で、泉鏡花と同門でした。泉鏡花のほうはその作品を読むと、「あぁなんとなく尾崎紅葉的だな」とその影響を感じるものが多々ありますが、徳田秋声のほうはその作品においてそれらはほとんど感じられません。なにせ尾崎紅葉的文学というのはロマンを追い続けるわけですから、自然主義の彼とは共通点があろうはずはありません。ですのでこの師弟関係にはちょっと不思議な感じはあります。「黴」という作品で尾崎紅葉のことを記述した部分に関して泉鏡花と仲違いしたのは有名な話です。文学的志向が正反対の二人ですから仲良くいくほうが難しいわけですが、後に二人は鏡花の弟の葬儀がきっかけで和解します。徳田秋声は自然主義文学の道をひた走ります。この作品もそうですが、女性を主人公にしてその生きざまをリアルに描くのが得意です。この作品の主人公は”お島”という女性で、彼女が貧しい境遇やいわれない圧力に負けずになんとか生き抜いてやろうと必死でもがく姿を、本当になんの飾り気もなくたんたんと描いてあります。逆にそうやって飾り立てずに表現してあるから非常に訴えてくるものがあります。何度も挫折を味わうのにその度に歯をくいしばって立ち上がっていく彼女の姿に生きる勇気を貰う人は多いと思います。この作品から得られる感動は、確かに自然主義ならではと言えるかもしれません。

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坂口安吾 「桜の森の満開の下」

なんと美しいタイトルでしょう。さぞかし心洗われるようなすがすがしい作品なのでしょう・・・と思って読み始めたらえらいことになります。書いた人が坂口安吾だということを忘れてはいけません。当たり前な作品を書くわけがありません。そこがこの人のすごいところですから。この作品は、人の女房をさらうという乱暴な男とそのさらってきた女の物語で、滑稽でそして非常に残酷です。ある日男はとても美しい女房をさらってきますが、その女はさらわれることに恐怖を覚えないばかりか、逆にわがままを言って男を困らせます。さらってきた他の女を殺せと男に命じたりします。全く被害者的意識はなく、まるで女主人気取りです。あげくには人間の生首でままごとみたいなことをして遊んだりしますから気持ち悪いことこの上なし。そんな頭がおかしいとしか思えない女の言いなりになりっぱなしの男でしたが、とうとう最後にその女の正体がわかります・・・なんともシュールというかアイロニックというか、グロテスクというか、実に不思議な作品です。まさに坂口安吾ワールド全開です。彼の才能の一部を感じさせてくれる作品です。この坂口安吾という人は荒廃した戦後の日本において、社会とともに荒廃した日本文学が復興するにおいて大変重要な役割を果たした人です。太宰治や織田作之助らとともに”無頼派”と呼ばれ、代表作「堕落論」は、作家も含め当時の多くの人に影響を与えました。文学小説も歴史小説も推理小説も随筆も書ける豊かな才能の持ち主で、今でも研究対象となることが多いです。誰かと文学の話をする際に、「好きな作家は坂口安吾」という人だと「お、この人いい線ついてるな」と個人的に勝手に思ったりしますが、いわゆる”通(つう)”をうならせる作家なのです。そんなすごい作家の摩訶不思議な世界をちょっと覗いてみませんか?

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室生犀星 「抒情小曲集」

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや

この名文、知らない人は少ないでしょう。日本人として誇りに思うべき日本文学史上の傑作だと思います。暗誦すべき名作の一つだと思います。この作品は室生犀星の詩集「抒情小曲集」の中にある、「小景異情-その二」という作品です。この作品をはじめ、「抒情小曲集」には室生犀星の心を写しとった美しい詩がたくさん入っています。それにしてもなんと美しい詩を書く人でしょうか。その繊細な詩の一つ一つは本当に心の底までじーんとしみてくるものがあります。何度も読み返して涙がじわっと浮かんできます。室生犀星の生い立ちは苦労の連続で、不幸という不幸を味わいつくしています。その中で人の優しさを知り、他人の心の痛みがわかるようになったからこそ、こういう美しい詩を生み出せるのではないかとえしぇ蔵なりに理解しています。

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