蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

佐藤春夫 「田園の憂鬱」

佐藤春夫は昭和39年に他界していますが、もし存命中に知り合うことができたなら弟子入りできないにしろ、なにがしかの教えを請いたい作家の一人です。この人の作品を読めば、その奥の深さや芸術性は並外れた才能のもたらすものだと誰しも思うことでしょう。実際に多くの作家たちの憧れの存在だったようで、彼のことを表現する際に必ず用いられる言葉に「門弟三千人」というのがあります。もちろん誇張はあるでしょうが、それほど多くの人に師として仰がれたということです。有名どころでも井伏鱒二を筆頭に、三島由紀夫、太宰治、壇一雄、遠藤周作、柴田錬三郎、吉行淳之介、中村真一郎、五味康祐・・・などなど、錚々たるものです。すごい人たちから尊敬されたわけですからその存在の大きさが推測できますよね。そんな彼のすごさを象徴する作品がこの「田園の憂鬱」です。この幻想的な詩のような美しい小説は、物書きを自負する人々にとっては憧れであり、手本であり、脅威であり、目標であります。まさにこの作品は読む絵画であり、読む交響曲です。ストーリーを簡単に紹介すると、もう都会はいやだと恋人と二人で田舎に引っ込んで、そこで何をするでもなく過ごす主人公が幻想と現実を行ったり来たりする摩訶不思議な物語です。もしこんな人間が目の前にいたら許せないものがあるでしょうけどまぁ小説の中だからいいでしょう。この作品は「だから結局何がいいたいと?」と聞きたくなるものなんですが、「別に明確な結論なんていらないのでは?」という作品ですからこれはこれでいいわけです。まさに浪漫派を代表する作品です。逆にこういう摩訶不思議な世界は今の若い人にはうけるかもしれませんね。偉大なる作家の偉大なる作品。読まずに人生終わるのは惜しいことだと思いますよ。

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小林多喜二 「蟹工船」

蟹工船ってどんな船かわかりますか?遠い北洋まで蟹をとるための長い航海に出て、そこでとれた蟹を缶詰にするという作業をやっています。そこで働く人はいわゆる出稼ぎ労働者なわけですが、この作品の主人公はその労働者たちです。物語の中では安い賃金で奴隷のように虐待・酷使され、病気や過労で倒れる者が出てくる中、彼らの不満は徐々に鬱積し、ついには団結してストライキを始めます。そこからいわゆる支配する側、される側の戦いが始まります。舞台となった時代背景は昭和初期です。その頃の日本は全体的に貧しく、労働者たちは資本家たちに対して抱いていた不満が限界に達し、様々な運動が起こった時期です。働いても働いても豊かになれず、一方で資本家たちはますます裕福になっていく。そんな時代には必ず”共産主義”というものが台頭してくるわけですが、それが文学の世界でも形になって現れたのがいわゆるプロレタリア文学です。1920年代から1930年代前半にかけてプロレタリア文学は最盛期を迎えます。つまりはその時期の日本の労働者は非常に苦しめられていたということですね。彼らを救うため、運動のひとつの手段として文学も一躍買うわけですが後に弾圧にあい、プロレタリア文学は衰退しそのまま日本は戦争に突入していきます。この作品はそんな暗い時代における日本を象徴した、プロレタリア文学の代表作といえます。日本だけでなく海外でも評価が高く、最近でも2008年には再ブームが起こり、日本共産党の党員増加に貢献したなどと言われるほどでした。なんだか政治的メッセージがいっぱいの作品なんですがストーリー的にもちゃんと読ませます。20代で獄死した小林多喜二ですが、その魂の叫びは作品の中に永遠に生き続けることでしょう。

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大江健三郎 「死者の奢り」

皆さんご存知の通り、1994年ノーベル文学賞受賞者です。この人の存在は文学を蔑ろにする現代の日本において、わずかに残された光であり、最後の誇りです。学生時代からその非凡な才能は大いに発揮され、23歳の頃に「飼育」で第39回芥川賞を受賞します(ちなみにここで紹介する「死者の奢り」は第38回芥川賞の候補作です)。芥川賞とノーベル賞の間にも様々な受賞経験があり、名実ともにもはや孤高の存在です。誰一人否定できない天才です。まだかけだしの頃、ノーベル賞は川端康成か三島由紀夫かという時に、賞を逃した三島に「次は大江君だよ」と言われたエピソードは有名です。そういう次元の違う人が書いたものがいかにすごいか、まずはこの作品で確かめてみて下さい。ほんの数行読むだけでゾクゾクするほど恐ろしい才能を感じるのは間違いありません。作品の発想自体も非常にユニークです。学生である主人公がアルバイトをする話なんですが、そのアルバイトというのが病院の地下にある死体処理室で死体を扱うというもので、暗く陰湿な雰囲気が見事に表現されており、不気味さは半端じゃありません。解剖実験用の死体がアルコールのプールの中でお互いからみあいながらぷかぷかと浮いてるわけです。それを一体づつ運搬するなんて考えただけでもぞっとしますよね。その運搬にかかわる三人の登場人物の心理を通して、死とは何かを考えさせられます。死を見つめさせることにより、読者に生きることの意味を考えさせます。場面が見事に描かれているがためにリアルすぎて、好き嫌いが分かれる作品かもしれませんが、生々しい表現というのも彼の持ち味の一つで独特の世界を築いています。うならせるほど見事な文章で奇抜な題材を描く天才の作品に是非触れてみて下さい。

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高村光太郎 「智恵子抄」

高村光太郎は詩人としてのほうがあるいは世間一般においては知られているのかもしれませんが、この人はもともと彫刻家です。なんせお父さんが偉大なる彫刻家、高村光雲ですからね。その長男なのでまさにサラブレッドです。スポーツの世界では難しいですが、芸術の世界では才能の遺伝は成功することが多いようで、彼もその才能を早くから花開かせます。文学の世界への関りも学生の頃からで、与謝野鉄幹のもとで修行しています。智恵子とは知人の紹介で結婚します。実は彼女も芸術家で、洋画家として活躍していましたが、もともと病弱で、やがて統合失調症になり、最後は結核で亡くなります。非常に悲しい生涯を送った女性です。光太郎は彼女を深く愛しており、その死に際しては周りの人も見ていられないというほどにひどく落ち込みます。そして彼女との思い出を綴るかのように、この詩集を発表します。皆さんも「智恵子は東京に空がないという・・・」というフレーズはご存知かと思います。この詩集におさめられた詩はどれも愛にあふれています。そして同時に深い悲しみを背負っています。読んでいくと透き通るように純粋な愛を感じることができます。それにしてもこれほど深く愛し合った夫婦というのも珍しいのではないでしょうか?たとえ生前に普通の幸せを体験することができなかったとしても、これだけ多くの愛を伴侶から受けていたのであれば、むしろ智恵子は幸せだったと言えるのではないでしょうか?そう思わせるような詩の数々です。ちなみに高村光太郎はいわゆる「口語自由詩」のパイオニアです。口語自由詩とは、要するに普通の会話みたいな詩のことです。彼はそれを最初に書いた人です。だから文学界への貢献度も無視できません。才能ある男がそれを駆使して妻へ捧げる愛を表現したのがこの名詩集です。是非あなたの本棚に。

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