蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

森鴎外 「舞姫」

森鴎外の人生をたどるたびにいつも思うのは、世の中にこんなに才能と環境に恵まれた人が他にいただろうか?ということです。人並み優れた才能があっても貧乏で短命であったり、裕福だけど才能は乏しいというのはよくあるパターンですが、この人はその両方を兼ね備えており、まさに全てを有する人でした。津和野藩の御典医の家に生まれており、人生の初っ端から恵まれた環境にいました。そして人並み優れた頭脳は幼い頃から評判だったようです。第一大学区医学校(現東京大学医学部)の予科に年齢をごまかして入り、その後は陸軍の軍医になります。スーパーエリートの道まっしぐらです。才能・地位・財産・家柄・・・なんともうらやましい人生です。この頃までは全ては順風に思えたことでしょう。ところが彼にも大きな精神的試練が待っていたわけです。彼は軍の命令でドイツへと留学しますが、そこで運命の人に出会います。それがこの小説のモデルになった女性です。二人は恋に落ち、やがて彼の帰国により悲しい別離を経験します。その体験をもとに書かれた作品がこの「舞姫」です。きっと彼にとっては初めての大きな試練だったのではないでしょうか?その女性は彼の後を追ってドイツからはるばる日本まで来て約1ヶ月ほど滞在したということですから、いかに熱烈な愛情が二人の間にあったかがわかります。実体験を元にしているからか、非常にせつない想いが文章から伝わってきます。この作品を読んで、若き日の森鴎外のやるせない想いを感じてみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

岡本かの子 「老妓抄」

ご存知でしょうか?岡本かの子。あの天才画家岡本太郎のお母さんです。どうも芸術の分野においては才能の遺伝というのは有り得るのではないかとよく思います。幸田露伴の血筋は4代にわたって文学に携わってますからね。親子で有名な作家というパターンは非常にたくさんあります。岡本かの子の場合は子どもは画家ですけど、兄も文学に関係しておりもともと兄の交友関係から谷崎潤一郎らの文人たちとの交流が始まり、徐々に文学の世界に足を踏み入れていくきっかけとなりました。そんな彼女の残した作品はどれも甲乙つけ難い傑作ばかりです。彼女の作品ならどれもハズレなしと断言してもいいほどです。その中でもこの「老妓抄」は抜群の出来で、非常に高い評価を得ています。「文学史上、一二を争う短編小説の傑作」とまで言われています。川端康成も絶賛しています。少しでも彼女の文章を読めばわかりますが、その計り知れない才能が文面からにじみ出てくるようで、まさに圧倒される印象を受けます。彼女はそんな自分の非凡さを自覚しており、多少ナルシスト的な面もありましてそれを快く思わない人もあったりするので、彼女の才能の評価が正当になされているかは少し疑問です。本来ならもっともっと絶賛されるべきではないかと個人的には思っています。老いた芸者が若い男のパトロンになって経済的な援助をしてあげるにも関らず、男は期待に背くことばかりする・・・というストーリーで、この二人の関係は一体何なの?どうなるの?と思わせる微妙な綾がなんとも深いものを感じさせます。多くの人をうならせた傑作ですので是非、ご一読を。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

伊藤左千夫 「野菊の墓」

おそらく多くの方が「野菊の墓」の作者としてご存知の伊藤左千夫ですが、この人は小説家というよりも歌人といったほうがいいほど、小説よりも短歌のほうで活躍した人です。正岡子規を師と仰ぎ、島木赤彦や斉藤茂吉らとともに短歌の一時代を築きました。そういうわけで小説として残した作品は実は少ないのです。その中で最初に書いたのがこの「野菊の墓」です。これは夏目漱石によって評価されたことからもその水準の高さがうかがえると思います。子規の提唱する”写生文”の影響を受けた文章は極めて美しく、描かれる物語もまた美しく、そして悲しいものであり、名作であることを否定する人はいないと思います。この作品は名場面のセリフが自然であり、かつ美しく情緒的で心に深く残ります。例えば15歳の主人公政夫が遠まわしに17歳の従姉の民子に愛を告白するシーン(「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」「さアどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」「それで政夫さんは野菊が好きだって……」「僕大好きさ」)などは実にほのぼのとしており、純粋な水のように透き通った愛にあふれて微笑ましいものがあります。ところがその淡く美しい初恋は周囲の大人たちによって引き裂かれます。最後のシーンはもう涙で字がにじんで読ないほどです。文章も物語も美しい、日本文学が誇る名作中の名作です。一度だけでなく何度も読み返してお楽しみ下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

住井すゑ 「橋のない川」

住井すゑ。ご存知ですか?文学を研究する者に限らず、全ての日本人、全ての人間に敬意を持たれて当然の偉大なる作家であり、偉大なる人です。彼女の生涯追いかけたテーマは、「人間の平等」です。彼女は子どもの頃(6才)からこの概念を抱いて、生涯を通しての行動の基本としました。「人類の母親は人以上のものも、人以下 のものも産まない」という名セリフが彼女の信念を語っていると思います。世界中どこにでもある差別問題、日本においては古くから部落差別は大きな問題でした。同じ人間に生まれて何が違う?人間はみんな平等だということを訴える一つの方法として、彼女はこの大作「橋のない川」を書きます。第7部まである大長編ですが、今までに800万部以上を売ったベストセラーです。「橋のない川」というタイトルだけでもその言わんとする深い意味が読みとれます。どこまで行っても対岸には渡れない。その癖ずっと距離を保ったままお互いが見えている。差別という川を挟んで差別する側とされる側はお互いの岸に行くことができない。日本が長い間続けてきたその状況を変えるべく彼女は孤軍奮闘し、農村で百姓仕事のかたわらこつこつとこの作品を書き続けていきます。その死によって残念ながら予定されていた8部は未完に終わりましたが、この作品はまさに彼女のライフワークであり、メッセージであり、生きる意味でした。人の避ける問題に正面から取り組み、己の信念を貫き、現代に後世に影響を与えるものを残したその姿勢には誰しも敬意を覚えずにはいられないと思います。この本は人として生きるために必要なテキストの一つだと思います。

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