蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

国木田独歩 「武蔵野」

自然を描写するというのはいわば作家の力量を試すところではないでしょうか?その表現の仕方で読む人の頭の中に深呼吸したくなるような高原や荒々しい乾いた砂漠を創り出すことができるわけですからね。この「武蔵野」を読めばあなたの頭の中には見たことないはずの遠い昔の武蔵野の大自然が、今では幻となった武蔵野の美しさが再現されることでしょう。彼の美しい文章はそれを容易にさせます。いつのまにかあなたは武蔵野の自然の中を歩いています。草木を踏む音も川のせせらぎも鳥の声も聞こえてくるはずです。降り注ぐ日差しも心地よい木陰も感じることでしょう。美しい花や木々の梢を目にすることでしょう。いわば文章で自然鑑賞をするような感覚です。国木田独歩の底力を思い知らされるという感じです。読み進んでいくと何か似た作品があったなと気付きました。二葉亭四迷が訳した「あいびき」です。自然の描写がよく似ているので調べてみたら、案の定この作品に影響を受けていました。文学史において彼の代表作として必ず名前が上がる作品ですが、発表当時はあまり評価されませんでした。芸術作品というのは受け入れる世間のバイオリズムとタイミングが合わないと、どんなに優れていても見過ごされますが、本物ならば必ずいつかは評価される時代がくるものです。この作品にはこれといってストーリー展開はありません。その辺は予め知っておいたほうがよろしいかなと。いくら待っても何も事件は起こりませんから。ただ美しい文章に触れて美しい自然を思い描く。そんな本の楽しみ方もあっていいと思いますよ。

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芥川龍之介 「河童」

芥川龍之介の命日を「河童忌」というのはこの作品からきています。彼が服毒自殺をしたのは1927年7月24日です。そしてこの作品は1927年の発表ですからいわば晩年の作品になります。読み手を不思議な世界に誘うこの作品は、確かに初期の作品群とは一線を画しています。執筆当時は既に睡眠薬は常習になっていた頃でしょうし、若干トリップしたような状態で書かれたのではないかと勘繰ってしまうものがあります。主人公はふとしたことから河童の世界に迷い込んでしまいます。非現実的な河童の世界でのいろんな出来事はまさにファンタジー的に描かれています。夢が広がる楽しさがあります。でもそれだけなら単なるおとぎ話ですが、芥川龍之介の作品はストーリー展開で読者の意表をつくのがお約束ですので、そう簡単には終わりません。しっかり最期には驚きの結末が待っています。物語の最初からずっと主人公の目線で読んでいきますので、当然読者は主人公の立場にたって全てを見ています。それが最期になってどんでん返しをくらうので、あれ?じゃぁ今まで自分が主人公と一緒に見てきたものは一体何?と混乱します。一体何が本当で何が嘘なのか?主人公は正気なのか狂っているのか?あれ?あれ?という感じで不思議な心境にさせられたままこの話は終わるのです。この読後の複雑な心境。この作品ではそれが一番の醍醐味です。きっとあなたはもう一度読み直すか、あるいは自分なりに何が真実だったかを探るために頭を整理したくなることでしょう。ちなみにえしぇ蔵はこの作品に影響されて、舞台となった上高地を訪れました。

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徳富蘆花 「不如帰」

「ほととぎす」と読みます。そのまま「ふじょき」と読む場合もあります。徳富蘆花を一躍有名にした作品で彼の代表作です。この作品の最大の特徴はドラマチックな展開に目を放せないストーリー性です。とにかく文句なしの面白さで読み手をぐいぐいとひきつけます。時代は明治です。美しく可憐なヒロインの浪子と誠実な夫の武男の悲しいラブストーリーです。浪子は武男が日清戦争に出征している間に結核を患い、離婚を強いられるなどの周囲の心無い仕打ちもあって、夫と離れて暮らさざるを得なくなります。お互いへの強い愛を持て余しながら、会うことができないもどかしさ。病気が治れば会えるとけなげに努力する浪子、病気であろうと一緒にいたいと願う武男、美しく強い愛情が交わされるわけです。愛し合う二人を周囲の人や環境が引き離すというパターンですね。いわゆる今時のトレンディードラマや韓国ドラマそっちのけ面白さです。浪子の病気は治るのか?二人は幸せになるのか?と心配でどんどん読みすすんでいきます。明治31年から32年に国民新聞に連載された作品ですが、大変な反響を呼んだそうです。浪子が言った、「あああ、人間はなぜ死ぬのでしょう! 生きたいわ! 千年も万年も生きたいわ!」や、「もう二度と女になんかに生まれはしない」は、文学史上に残る名セリフです。物語は実話がベースになっています。陸軍元帥大山巌の娘、信子に関する話を、徳冨蘆花がある間借りしていた宿で一緒になった婦人に聞いたことがきっかけでした。このことは作品の初めに作者自身が書いています。日本文学史上に輝く不朽の名作をあなたも是非!

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夏目漱石 「こころ」

有名ですから紹介の必要はないかもしれませんが、この作品にはえしぇ蔵個人的に非常に思い入れがありますので力を入れて紹介させて頂きます。夏目漱石は明治天皇の崩御の際に乃木大将が殉死した事件に強く影響を受けてこの作品の執筆を思い立ったそうです。岩波書店から出版されましたが、なんと岩波書店にとっては最初の出版物でした。確固とした文学精神を持つ伝統ある岩波書店の第1号の出版物として申し分ないですね。ストーリーは実にシンプルです。主人公には親友がいました。彼はある女性を好きになり、その想いを伝えることができず煩悶しています。そのことを相談される主人公ですが、実はその女性と主人公はお互いを想い合っている状態でした。つまり主人公は友情をとるか、愛情をとるかの決断に迫られるわけです。明治の日本人が持っていた強い倫理観と、人間誰しも心の底に有しているエゴイズムとが戦います。悩んだあげく主人公は一つの決断に達しますが、その結果悲劇が起きます。えしぇ蔵はこの作品を中学生の頃に読みましたが、その時のショックは忘れられません。そのショックというのは2通りありまして、一つは劇的なクライマックスです。え!?そーなると!?というショック。もう一つはそれまで文学小説に興味がなかったえしぇ蔵に、文学小説の面白さを教えてくれたという意味のショックです。この作品との出会いがきっかけで、えしぇ蔵は広大で深遠な文学の世界にはまっていきます。一つの生きがいを得たとも言えると思います。読むことも書くことも、そしてこうやって名作を紹介することも、すべてはこの作品から始まりました。まさにえしぇ蔵にとっては恩人のような作品です。皆さんにも是非えしぇ蔵の人生を変えた作品を読んで頂きたいです。

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谷崎潤一郎 「魔術師」

谷崎潤一郎が妖しい美の世界を追い求めていたというのは皆さんご存知の通りですが、かなり初期の頃から既にそうであったというのを証明するのがこの作品です。大正6年に書かれたもので、当時の世間としてはかなりの異色作です。作品全体が幻想的な夢の世界のような雰囲気に包まれています。ある男女が公園のある建物で行われる魔術師の興行を見に行きます。その魔術師による不思議な美の世界に魅せられて、男女ともに魔術師に心を奪われるという噂なので、果たして自分たちの愛が魔術師に負けないかどうかを試しにいくわけです。そして美しき魔術師による美しき技を目にします。誰でもなりたいものを言えば魔術師の技によって変身することができます。はじめに魔術師は自分の奴隷たちを孔雀や豹の皮や燭台に変身させます。そして次に観客に志願者を募ります。数十人の人が自ら希望するものへと変身しました。そして最期に志願したのは愛を試しに来た二人のうちの男性でした。彼は半羊神になることを希望します。恋人を奪われた女性は男性の行くところについていきたいという思いで、自分も半羊神になることを望みます・・・なんとも妖しい世界でしょ?展開される情景の表現が見事で、小説というよりも芸術というべき作品です。読んでいくうちにふと、江戸川乱歩の世界に似てるなと思ったんですが、調べてみると案の定、江戸川乱歩と横溝正史はかなり谷崎潤一郎に影響されていたそうです。どうりで二人の作品はただの推理小説ではなく、そこに美の要素が織り込まれているわけですね。多くの作家に影響を与えた谷崎の美の世界を覗いてみませんか?

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