蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

上司小剣 「鱧の皮」

上司小剣は奈良県生まれ兵庫育ちです。大阪の浪華文学会で活動した後、東京に移り読売新聞社員となり、編集局長まで務めます。最近ではその作品に触れることが極めて難しくなった作家の中の一人ですが、文学史には必ず名前のあがる人です。この作品は彼の代表作で、田山花袋に賞賛されて有名になります。舞台は大阪ですが、さすが関西出身とあって大阪の風物や人情が実にうまく表現されており、それだけでも読む価値ありです。物語の筋としては非常に単純です。大阪の道頓堀にある小料理屋における日常を描いています。経営者の源太郎と養女の姪のお文が、道楽の末に家を飛び出したろくでなしの婿養子福造から送って来た手紙を読んで、愚痴を言っている場面から始まります。手紙には金がないから送ってくれだの、勝手なことばかり書いてあるので二人は飽きれていますが、その末尾に「鱧の皮をお送りくだされたく候」と書いてあります。この一文がこの作品のポイントになります。あんなやつに何も送る必要はない、という感じで手紙は無視され、お文は芝居を見に行ったりするわけですが、じつはこっそり鱧の皮を買って小包にして隠します。そして寝る時にその隠してる小包をちょっと撫でてみるシーンで終わります。このラストシーンがなんともたまらない余韻があるわけです。あぁ文学ここにありだなぁと感動します。旦那はろくでなしだけど別れるに別れられない、お文の微妙な心境が大阪の風情を織り交ぜて見事に描かれています。短い作品ですがしっかりと印象を残す作品です。ちなみに鱧とはうなぎに似た魚です。今では高級魚のうちに入りますが、関西の人にとっては馴染み深い味です。作品中で「鱧の皮、細う切ってて、二杯酢にして一晩ぐらゐ漬けとくと、温飯に載せて一寸いけるさかいな」と紹介されていますが、一度食べてみるとこの作品の味わいが更に深まるかもしれません。

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高山樗牛 「滝口入道」

高山樗牛をご存知ですか?小説家としての作品が少ないのでご存知ない方も多いでしょう。小説家というよりも文芸評論家、あるいは思想家というほうが適しているかもしれません。明治の日本文学の黎明期においてその評論において世間に対し文学というものへの扉を開き、先導した功績は大きいです。同時に思想家としても有名ですが、その主張が日本主義に始まり、個人主義、ロマン主義、と変化し、ニーチェの影響を受けたり、日蓮崇拝に到ったりと、一貫したものがあったわけではなく、その点における世間一般の評価は低いです。そんな彼ですが、この「滝口入道」は彼の名前を小説の世界において不動にしました。東京帝国大学哲学科に在学中に読売新聞の歴史小説懸賞募集に応募し最優秀作に選ばれ、その後紙上で連載された作品です。当時は匿名で発表され、のちに出版された時にも匿名で通しました。「滝口入道」の作者が高山樗牛だったという事実を世間が知ったのは、なんと彼の死後においてです。この傑作の作者であるという名誉を敢えて避け通した彼の意中はどこにあったのでしょうか?文学評論家としての立場を考慮してのことでしょうか?えしぇ蔵だったらこれだけのものが書ければ自慢して天狗になるのは間違いないところです。作品の内容は「平家物語」に題材を得ています。高山樗牛は「平家物語」についてかなり造詣が深かったそうです。主人公の男は心も身体も鍛錬された武士の鑑のような真面目な男でしたがある女性に恋をし、それが片想いのまま実らないことを知って世を儚んで出家します。ところが実は女性のほうでも彼のことを密かに想っていましたが、悲しいかな二人の運命の糸は交差しません。一方では源氏の勢力により平家は悲惨な末路をたどりかつて主人公を取り巻いていた世界は崩壊していきます。俗世間を離れ出家していた彼ではありましたが、時代の波は彼も巻き添えにしていきます・・・。物語も面白いですがなんといっても美文調のほれぼれするような素晴らしさには感嘆せずにはいられません。とても大学生の作品とは思えません。一体当時の大学生ってどこまですごかったのでしょうか?

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安部公房 「他人の顔」

皆さんご存知の安部公房です。それにしてもこの人の脳細胞はどういうしくみになっていたのでしょうか?どこからああいう創造性に富んだ摩訶不思議な発想が生まれてくるのでしょうか?きっと常人にはない思考回路があったのではないでしょうか?「砂の女」、「箱男」、「壁」・・・代表作はどれも他に類を見ない独自の世界です。安部公房は戦後を代表する作家の中の一人ですが、彼の作品は確かに明治・大正では有りえないタイプのものですので、ある意味昭和の日本文学の一つの形と言ってもいいと思います。作品の独自性を確立した一つの要因は科学です。東京帝国大学医学部出身ですから理系の知識は抜群です。彼の作品にはその豊富な科学的知識が大いに生かされています。今でこそ科学的な要素を含む作品はざらにありますが、戦後間もない頃には大きな反響を呼んだわけです。この「他人の顔」の中においても背景にあるのは科学です。主人公は実験中の失敗で顔に怪我をしますが、これが二目と見られないほどのケロイドとなります。顔に包帯をして生活する毎日は次第に主人公の内面を圧迫していきます。(このへんの描写は実際にハンディキャップを負う人の心理を研究したのか非常に真に迫っています。)思いつめた主人公は自らの科学の知識を生かして人口皮膚を作ることに着手します。つまり仮面を作るわけです。街の中でであった一人の男性をモデルにして仮面を作ることに成功した彼はそれを被って別人としての生活を楽しみ始めます。これで彼の苦悩もいくぶん解決して物語は終わりというわけにはいかないのが安部公房です。彼はなんと他人になった顔で自分の奥さんを誘惑します。自分であることがバレないかを試したと同時に、奥さんの貞操も試したわけです。そこに生じる複雑な心境に新たな苦悩が生じて彼は更に苦しみます。さて、奥さんは誘惑に乗るのでしょうか?仮面であることはバレるのでしょうか?予想がつかない結末も安部公房の魅力の一つです。もうこれは読むしかないでしょ?

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堀田善衛 「広場の孤独」

作家にはそれぞれその人の作品イメージというか独自の世界がありますが、堀田善衛に関して言うと”国際的”なものがそれにあたるかもしれません。日本語で言うとちょっとしっくりきませんので”インターナショナル”というべきでしょうか?堀田善衛は太平洋戦争末期に国際文化振興会の上海事務所に勤務していましたがそこで終戦を迎え、帰国するかと思いきや国民党に徴用されるというちょっと変わった人生行路を歩みます。そして帰国後は新聞社に勤め、国際情勢が逐一わかる環境にしばらくいました。こういう経験が作品に生かされているのは言うまでもありません。作家生活に入ってからも国際的な視野をもって作品を発表し続けます。ついにはスペインにも家を持ち、日本とスペインを行き来しながら、スペインに関する作品も多く発表しています。なんともかっこいい人生です。この作品の時代は戦後間もない占領下の日本です。主人公は新聞社の臨時雇いとして、日々外電を翻訳する仕事をしています。この当時というのは日本は敗者として表舞台から去り、不安の中に再生の道を探っている最中で、専ら自分の心配しかできない状況でしたが、世界はまだまだ混乱の舞台の上にありました。中国は国共内戦の再開で毛沢東が蒋介石を追い出した頃ですし、アメリカはソ連との関係が極めて緊張していました。朝鮮半島は南北に分かれて激戦を繰り広げているところです。そんな慌しい世界の中で、共産党の動きがどうの、警察予備隊がどうの、と右往左往している日本ですが、その様子が作品の舞台背景からよく伝わります。主人公は上司や同僚、あるいはアメリカ人や中国人の記者、オーストリアの亡命貴族などに囲まれた中で自分がよく見えない状況が続きますが、これこそまさに当時の日本なのではないかなと思いました。そう考えるとこの「広場の孤独」というタイトルが、ぐっと脳細胞に食い込んでくる感じがしました。なるほど戦後間もない頃の日本はまさしく「広場の孤独」です。もしかすると今もそうかもしれませんね。読み解いていくほどに恐ろしいほど深さを感じる作品です。昭和26年に芥川賞を受賞したのも当然です。

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埴谷雄高 「死霊」

日本文学史上においてこの作品ほど異彩を放つものはないと言っても過言ではないと思います。日本どころか世界的に見ても極めて珍しい形而上小説です。恐らく今後も同様のものが登場することはほとんどないのではないかと思います。では形而上小説とはなんでしょうか?簡単に言ってしまうと作品全体が思想や哲学で満たされている小説です。一応ストーリーはありますがそれは登場人物の発言を借りて様々な考えを表現するためのものとなっています。それぞれ癖のあるキャラクターを持った人々が現れ、難解なセリフで会話します。そのやりとりも全て思想であり哲学です。読み進んでいくうちに恐ろしいほど伝わってくるのは、この作品を書いた埴谷雄高という人の才能です。一体どんな人が書いたのだろう?どんな考えで書いたのだろう?と調べてみたくなるはずです。とても普通の人には書けない別次元の世界です。前提知識なく普通に読み始めると途中で挫折する人が少なくないと思います。しかもこの作品はかなり長いですからね。第9章まであります。それでもまだ未完です。まさに埴谷雄高のライフワークです。読んでみようかなと思う人は、この作品の文学史における存在意義、文壇において与えられた評価などを調べておくことをお勧めします。尊重されるべき偉大なる作品です。文章表現が難解ですのでゆっくりと同じ箇所を読み返しつつ進んでいくといいと思います。何かの研究所を読むようにゆっくりじっくりと。そんなに難解ならやめておこうという方も第1章は比較的わかりやすいのでそれだけでも読んでみて下さい。そしてこの摩訶不思議な形而上小説の世界を是非体感してみて下さい。こういう作品も日本にはあるということを知って頂きたいです。

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三島由紀夫 「美神」

三島由紀夫という偉大な作家が自分の国にかつていたことを私たちは誇りに思うべきではないかと個人的には考えています。まさに世界の大家たちにいささかもひけをとらない人であることは間違いありません。三島由紀夫の作品はあらゆる魅力を含んでいます。思想的にも多くの人の信念を揺すぶるほどの強い力を持っています。文章表現は極めて巧みで喩えようもない美しさを誇っています。計り知れぬ知識の深さは他を圧倒していますし。そして忘れてはいけないのがストーリーの面白さです。ただ芸術的であるだけではなく、しっかり読者を楽しませてもくれるのが彼の作品の大きな魅力です。またそれゆえに海外でも広く受け入れられるのではないかと思います。この作品は非常に短く、すぐに読んでしまえるような小品ですが、それだけにぐっと引き締まった傑作です。主人公のR博士は古代彫刻の権威でした。彼は病床で人生最後の日を迎えようとしていました。死ぬ前にもう一度”あれ”が見たいと彼は医者に依頼します。”あれ”というのは、彼がローマの近郊で発掘に成功したアフロディテの像でした。その発見は奇跡と言われ、博士の名を高からしめました。博士は自分の著書にこの像の高さを2.17mと書きました。他の書物はどれも博士の著作を参照してこの像の紹介文に高さ2.17mと記載しましたが、これは博士が仕組んだいたずらでした。実際は2.14mしかないのをわざと3cm多く公表したのです。それは博士とアフロディテだけの秘密でした。そして博士は病床で医者に像の高さを測ってみるように言いますが、なんと像の高さは2.17mでした。死ぬ間際の博士の驚愕!さぁそこで博士は最後になんと言って死ぬのでしょうか・・・?小説って面白い!としみじみ感じさせてくれる作品です。

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福永武彦 「世界の終わり」

福永武彦という作家は日本の文学の発展の上において必要な人であったと思います。それは、ものの見方、考え方に多くの人とは違ったものを持っていたからです。黒が上になったオセロの駒をみんなして黒だ黒だと言っている時に、裏側はどうなんだろう?裏側は黒じゃないのかもしれない、ひっくり返してみよう、あ、裏側は白だった!という思考及び実行を特徴とする人だからです。そういう人が小説を書くと非常にユニークなものが出来上がるというのは想像できることです。そのいい例がこの「世界の終わり」です。ストーリー全体を説明するとすれば、徐々に精神に異常をきたす奥さんを持った男の話ということで、特に何が面白いのか?と思ってしまいそうですが、面白いのはストーリーではなくて書き方です。第1章は「彼女」というタイトルになっており、彼女の内面における思考を描いています。外側から見ると精神的に異常な人ですから、それは全く非現実的で幻想的です。摩訶不思議な世界が広がっているわけです。夕焼けを見て空が燃えていると思い、世界が終わってしまう恐怖にかられ、急いで家族に知らせようとします。第2章は「彼」です。妻の異常に悩む男の苦悩を描いています。そして第3章が「彼と彼女」。過去の二人の出会いの場面や、彼女の異常にまわりが気付き始めた時などの過去の回想が描かれています。そして最後の第4章は再び「彼女」になり、第1章の続きが描かれます。第2章と第3章は奥さんを取り囲む外的世界を描いており、第1章と第4章は奥さんの内面世界を描いています。精神異常の人を外から観察して書いたものは多いですが、こうして本人の内側からの視線をも合わせて描いたというのが非常に面白い手法だと思います。対比して読み比べるといいと思います。オセロの駒の両面を描いた福永武彦ならではの傑作です。

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中村真一郎 「生き残った恐怖」

さて、ちょっと一味違う作品世界にご招待です。中村真一郎の作品は他の一般的な作品を読むつもりで読み始めるとちょっと戸惑いを感じると思います。それは作品全体に現実的な感覚があまりないからです。まずは舞台背景に関する説明は非常に簡単です。季節とか建物とか人の動きなど、そういうものがほとんど重視されていません。(佐々木基一が彼と一緒に自然の中を散策した際、彼が景色というものにほとんど関心を示さなかったと語っています)彼の関心はもっぱら人間の内面的な動きに向けられています。これはヨーロッパ文学によくあるパターンですね。実際彼は若い頃かなり影響を受けています。そういう作品を以って戦後に登場し戦後文学の旗手となります。後期においては作風はだいぶ変化しますが、初期の頃の作品には、わかる人にだけ読んでもらえればいい、というような孤高の天才の自信を感じます。結局、作家というのはそういう姿勢でいいのではないかと個人的には思います。読んでもらうため、気に入ってもらうため、という目的もあるでしょうけどそれ以前にやはり書きたいものを書く、書きたいように書く、自分が信じた道を貫く、という信念があって然るべきではないかなと思います。この作品のタイトルを見ると、「お、なんか怖い話かな?」と思うでしょうがそう簡単にいかないのが中村真一郎なのです。戦争中に徴兵検査を受ける前のある若者が、戦場で殺人を犯したくないためにどうすればこの現実を回避できるかと深く苦悩する話です。最終的に彼はそのためには自殺しかないという結論に到りますが、実際には滑稽な結末が待っていました・・・。発端や結末はこの作品の場合どうでもいいわけでして、大事なのはこの若者の苦悩を描写した部分です。ここにおいて本領発揮です。他の作家の作品とはちょっと違った読み方をしてみて下さい。

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武田泰淳 「ひかりごけ」

ちょっと重いテーマの小説です。う~ん、重いです。覚悟はいいでしょうか?この作品はですね、カニバリズムがテーマです。つまり「食人」ですね。飢餓の極限状態に置かれて、ついに許されざる一線を越え、人を食べてしまったといういきさつを描いた問題作です。1944年に北海道で実際に起こった事件をモチーフにしています。日本陸軍が徴用した船が知床岬で難破します。極寒でかつ食糧もない最悪の状態に置かれ船員は死んでいきますが、その死んだ船員の人肉を船長が食べたことが後で発覚し裁判になります。「食人」で人が裁かれるのは初めてで適用する法がないので、死体損壊ということで懲役1年の実刑となっています。武田泰淳がこの事件をモデルにしたので、事件の名前自体「ひかりごけ事件」と言われています。ここで注意して欲しいのは、この作品は実際にあった事件の記録ではなくあくまでそれをモチーフにした架空の話であるということです。内容をそのまま事実と認識しないようにくれぐれもご注意下さい。前半の部分がいかにも作者が現地で事件を調査したというドキュメンタリー風に描かれているので、非常に誤解されやすいですがあくまで創作ですので。作品の後半は2幕に別れた脚本になっています。1幕目は事件の現場です。船員たちと船長の会話がリアルで、極限状態の緊張感が伝わってきます。2幕目は船長が裁かれる法廷です。船長と検事の会話の中にこの作品の真のメッセージが込められています。人間が極限状態において犯したくない罪を犯してしまった時、一体誰がそれを裁きうるのか?少なくともその状態を知らない同じ人間にはその権利はないのかもしれません。重いですが是非読んで頂きたい問題作です。

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梅崎春生 「桜島」

梅崎春生は椎名麟三や野間宏らとともに第一次戦後派作家と呼ばれています。戦争中は文化的なものも抑圧されていたわけで、敗戦とともに開放された時は様々な文化の花が争って開き始めます。もちろん文学も大いに羽ばたいたわけで、多くの作家が己のスタイルで登場し活躍します。その中でも梅崎春生は戦後すぐに書いたこの作品で注目を集めます。昭和20年の敗色濃厚な中で主人公が見た軍隊の様子を描いています。主人公が桜島に転勤になるのが7月はじめです。終戦は8月15日ですから既に日本の行く末を不安に感じる雰囲気が全体にあるわけです。既に沖縄が占領され、さぁ次は本土上陸だと緊張している時期です。米軍の上陸がどこから始まるかが一番の問題でした。鹿児島からではないか?宮崎の日南か?いや、千葉から一気に東京かも?あらゆるパターンを想定して上陸に備えていました。そんな中で主人公は鹿児島の桜島に暗号解読の担当として赴任します。そこでいろんな人間の生態を目撃します。部下を虐待する兵曹長、交友を結んだが米軍機の機銃掃射で死ぬ見張兵、特攻隊の兵士の荒んだ様子、望遠鏡で見た自殺しようとしている老人・・・全体にやるせなさというか、どこか悲しく怠惰な空気が流れており、終戦前の日本の様子が非常にうまく表現されています。作者は実際に終戦間際は鹿児島に赴任していたので、その時の体験が生かされているようです。主人公は何も希望を感じさせない社会の中で、自分が何のために生きているのかがわからなくなります。これが「宿命」だと言われてもそこにどうしても納得がいかないという懊悩を描いており、ただの戦記ものとは一味違う奥の深い作品になっています。

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