蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

坪田譲治 「善太の四季」

坪田譲治について調べると、児童文学作家というふうに書かれています。確かに多くの児童文学作家を育てていますし、児童文学の雑誌「びわの実学校」を発行したり、日本児童文学者協会の第3代会長を務めたりしているわけですからその表現は間違いではありません。ですがここで一つ皆さんの注意を促したいのです。一般に児童文学とくれば、子どもが読む絵本の延長のように思われて、大人は興味を持たないものです。坪田譲治の作品をそういうものと解釈されたら、これは大きな間違いです。確かに子どもも読めますが、作品の内側に横たわるテーマであるとか、巧みな構成であるとか、美しい表現などの本当の良さは大人にしか理解できません。子どもをあやすための児童文学とはとても次元が違います。例えばこの「善太の四季」を読んだ時は、普通の文学小説との違和感は全く感じませんでした。読み終わった後、あまりの作品の完成度の高さに思わずうなってしまったほどです。坪田譲治の作品はそれくらいしっかりとした、奥行きのあるものです。えしぇ蔵としてはむしろ大人の人に多く読んで欲しいと思います。この作品に出てくるのは「善太」と「三平」の兄弟です。泣き虫の三平を優しい善太がいつも面倒みてあげます。わんぱく盛りで、視野に入るいろんなものが面白く映り、伸び伸びと育っている印象を受ける微笑ましい二人です。この二人が見た春夏秋冬のそれぞれ一コマを実に美しく描写しています。読んだ人に必ず望郷の想いを起こさせるような、優しく懐かしい情景が展開されています。最後はちょっとドラマが用意されており、非常に完成度も高い名作です。彼の作品には「善太」と「三平」がよく登場します。この幼い兄弟の活躍を他の作品でも是非読んでみて下さい。大人にも心に残る名作ばかりです。児童文学という言葉にはとてもおさまりきれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

尾崎士郎 「人生劇場」

この作品は尾崎士郎の出世作でもあり、代表作でもあります。1933年に都新聞に連載された時に好評を得て、本もベストセラーになりました。それ以来、その続編という感じで次々と書き継がれていきます。ここで紹介するのは主人公の幼年時代から、青雲の志を持って社会に出るまでの部分で、「青春編」と言われています。その後に発表されたのが、「残侠編」、「風雲編」、「遠征編」、「夢現編」、「望郷編」、「蕩子編」です。全部あわせるとかなりの量になります。「人生劇場」全編をとおして言うなら、この作品は尾崎士郎にとってまさにライフワークです。尾崎士郎自信、この「人生劇場」という言葉に非常に愛着を持っていたそうです。主人公の幼い頃の話に始まり、けんかありの、恋愛ありの、家庭のごたごたがありの、受験がありの、大きな夢がありの、楽しいこと悲しいこと、もろもろの山や谷を越えて一人前の大人になり、社会に巣立っていく一人の人間を描くというストーリー展開は、日本文学はもちろん、世界中の文学においても多く見られます。そしてそのどれも面白く読めるものです。それは、自分の人生と重ねながら、自分が歩いてきた道を振り返ってそれと比較しながら読むので、主人公の思いを共感できるからだと思います。だから読みながら応援してしまうんですよね。この「青春編」だけでも結構長いですが、夢中で読み進んでいけますよ。ただ他と違う特徴として、少し任侠の世界が混じっています。ですが今時の弱いものいじめをする社会悪としてのそれではなく、かつての”曲がったことには我慢がならない”、”男の誇りは死んでも守る”、”受けた恩は一生忘れない”的な、あの昔懐かしい任侠の世界ですから、さっぱりしたものがあってこれはこれで作品に特徴を持たせてていいものです。尾崎士郎の名作、あなたの人生劇場を思い浮かべつつ読んでみてはいかがですか?

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

獅子文六 「達磨町七番地」

獅子文六とくれば滑稽小説です。個性的でユーモラスなキャラクターがいろいろ登場して、おもしろおかしくストーリーが進んでいくという作品が多いです。なにしろペンネームの発想からして滑稽極まりないところです。文六というのは、文豪の上をいきたいという意味だそうです。ぶんごの上だからぶんろくです。これだけでもこの作家の人柄が少しわかるような気がしません?この小説の舞台はパリです。なぜパリか?獅子文六は演劇が好きで、その分野でも活躍しました。ちなみに演劇においては本名の岩田豊雄で活動しています。岸田国士や久保田万太郎と劇団文学座を始めたりしています。若い頃から演劇に魅せられていた彼は、大学を中退してフランスまで演劇の勉強に行きます。この作品はその頃の経験を生かして書かれていますので、フランスにおける日本人留学生たちの生き様が非常にリアルに描かれています。フランスに初めて渡った時に多くの日本人留学生が最初に選ぶ下宿において、ドタバタ劇が演じられます。多くの留学生はフランスでの暮らしに慣れてくるとその下宿を出てよそに移るのに、範平さんは長年そこに主のように住んでいます。この人は大変な国粋主義です。一方で新しく下宿に仲間入りした中上川さんは国際主義です。部屋が隣どうしなので最初は仲良くしていた二人ですが、ある日中上川さんが、自殺しようとしているフランス人女性を助けて下宿に同棲するようになってから二人の間には溝ができます。ところがある事件をきっかけに二人のそれぞれの考えに変化が現れます・・・。1920年代のパリに留学した日本人たちのドタバタ劇は獅子文六の作品の特徴をはっきりと示しています。

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大仏次郎 「地霊」

まず名前ですが、「だいぶつじろう」でも「おおふつじろう」でもありません。「おさらぎじろう」と読みます。この人は誰でも知っているある有名な作品の作者です。わかります?あの永遠のヒーロー「鞍馬天狗」の作者なのです。これって意外と知られてないんですよね。作者の名前よりも作品の主人公の名前のほうが有名になるのはよくある話ですが、この人の名前は是非覚えて頂きたいです。小説には大きく分けて文学小説と大衆小説があります。ではその二つはどう違うのでしょうか?簡単に言えばストーリーよりも芸術性を追いかけるのが文学小説で、ストーリー重視なのが大衆小説ということになるとは思いますが、世の中にはその二つの要素をあわせ持つ優れた作品がたくさんあります。まさに大仏次郎の作品がそれにあたります。芸術的であり、かつ非常に面白い作品が多いです。ではどれから読むのがいいでしょう?まずはこの作品をお試し下さい。あんまり面白いのでえしぇ蔵は家でのデスクワークそっちのけで夢中になって読みました。舞台は革命前の帝政ロシアです。共産主義社会を目指す人々の活動を秘密警察が取り締まるという戦いが続く中で、主人公は警察の人間でありながら、共産党の熱心な活動家として潜り込み、スパイ活動をします。彼の党での活動は非常に目覚しく、誰もが一目置く存在となって徐々に大物になっていきます。誰も彼がスパイなどと夢にも思いませんでした。彼の作り上げた虚構は完璧に見えましたがほんのわずかな隙があり、スパイの容疑をかけられます。さぁ、彼はどうなるのか?ハラハラドキドキ!スパイものって興奮しますよね。面白さは保証します。これぞ芸術的大衆小説です。

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