蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

河野多恵子 「半所有者」

この作品は、2002年に川端康成文学賞を受賞しています。とは言うものの、この人の場合は芥川賞、女流文学賞、読売文学賞、谷崎潤一郎賞、日本芸術院賞、野間文芸賞、毎日芸術賞と文学賞とりまくりという印象があるのでこの作品の受賞もそのうちの一つにしか過ぎませんけど、読んで頂けばわかるように受賞してしかるべきすごい作品です。ではどうすごいのか?かなりショッキングな内容でして、静かに始まる感じのストーリーが思いも寄らない展開になって、え!そうきますか!という印象を受けます。非常に短い作品で10分もかからずに読んでしまえるくらいですがその短さの中で読者をあっと言わせるすごさを秘めています。いわゆる異常性愛をテーマにすることが多い人でして、うわーこの人こういう作品を書くなんて、まるで女性版谷崎潤一郎だなと思う人もいると思いますが、それは正しい感想でしてこの人は谷崎潤一郎を崇拝していました。谷崎潤一郎の作品に関しては誰よりも深く研究していると言ってもいいのではないでしょうか?その作品に関する論文もいくつか書いています。そういういわば耽美的な傾向はこの人の作品の一つの特徴です。いやそれにしてもこの作品にはビックリしますよ。読む人によって好き嫌いははっきりわかれるでしょうけど、作者の力量は誰しも感じることでしょう。好き嫌いは個人の価値観で決まりますが、衝撃を与えるというのは作品にエネルギーがあるということですからね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

河野多恵子 「返礼」

この人の作品は本当に人間の心理の微妙な動きを見事に表現しているので、どの作品を読んでもつくづく感心してしまいます。男性作家にはここまで細かくとらえることは難しいのではないでしょうか?傷つきやすい女性だからこそ書けるものがあると思います。女流作家の作品の読後にはなにか心の深い場所に印象が残って、それがことあるごとに思い出されてくるような気がするのはえしぇ蔵だけでしょうか?繊細な神経で描かれたものはそう簡単には人間の心から消えていかないのかもしれません。この作品の主人公の女性は腹ちがいの兄弟姉妹とともに育てられた過去をもちます。一家の中で血のつながりがあるのは父親だけ。その父親も早くに亡くします。姉にはいじめられたりして、家族がいるのに天涯孤独のような人生を送ってきました。そんな中で兄だけが本当の妹のように優しくしてくれました。彼女が成人して好きな人ができて結婚したい旨を兄に相談した時に、思いがけず反対され、破談にされます。唯一信じていた兄にも裏切られます。このくやしい思いをいつか兄に伝えたいと思う矢先、兄は精神に異常を来たし入院してしまいます。いろんな思いを伝えたくても伝えられない……なんともやるせない思いにいらだつ彼女の中では兄に対する心境が複雑になっていきます……。まさに女流作家ならでは、河野多恵子ならではの作品ではないかと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

河野多恵子 「背誓」

昔つきあってた男が犯罪を犯してしまい、主人公の女性はその証人として裁判所に出頭します。もう何年も前に別れた男のことなど思い出すことすらないのに今更いろいろ聞かれるのも・・・という心境で証言台に立つわけですが、その男との出会いから別れまで、検事に根堀葉堀聞かれていくうちにいつしか昔の自分に戻っていき最後は・・・みたいな、主人公の心理の変化を繊細に描いてある作品です。緊張感みなぎる法廷の様子が伝わってきて、自分も傍聴席で主人公の発言を聞いているような感じがします。証言台で主人公の女性の心理がどんどん過去に戻っていく描写は本当に息をのむようなスリルも手伝って非常に素晴らしいものでした。女性の心理をこれほど的確に細かく、そしてリアルに描けるところは河野多恵子の河野多恵子たるところではないでしょうか?是非読んで頂きたいわけですが、ただ一つ注意しないといけないことがあります。この作品がよかったからといって、他の作品をいろいろと読む場合には多かれ少なかれ、また良きにつけ悪しきにつけ、かなりのギャップを感じるということです。本来河野多恵子の作品の世界というのはかなりエロティックです。それもロマンティックとは言い難い、異常性愛がメインです。お子ちゃまにはお勧めできないようなけっこうどぎついものがあります。そんな快楽を追い求める世界もあるのかと驚くほどです。河野多恵子はとにかく谷崎潤一郎にあこがれてこの道に入り、「谷崎文学と肯定の欲望」「谷崎文学の愉しみ」などの作品も書いていますし、谷崎潤一郎賞選考委員もつとめていますし、その作風に大きく影響され引き継いでいる部分が多々ありますので、性愛に関して深く突き進んでいった結果のことだと思います。ですからこの作品などはむしろ「あれ?これも河野多恵子?」という感じですのでそこはくれぐれもご注意下さい。ただ、本来の河野多恵子ワールドもそれはそれではまってしまうとなかなか抜け出せないものがあります。ご興味があればそちらもどうぞ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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