蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

高見順 「故旧忘れ得べき」

昭和10年に芥川賞と直木賞がスタートするわけですが、この作品は輝ける第1回芥川賞の候補作になりました。それにより高見順は一躍注目を浴びます。ちなみに受賞したのは石川達三 の「蒼氓」で、他の候補作はというと外村繁の「草筏」、衣巻省三の「けしかけられた男」、そしてあの太宰治の「逆行」です。どうですこのレベルの高さ!どれが受賞してもおかしくないですよね。そういう中に選ばれたというわけですからこの作品の質の高さもうかがえると思います。この作品は主人公が一人ではありません。学生時代の友人たち数人がそれぞれにエピソードを持ち、それらがお互い絡んでいきます。高見順の生涯を研究してみると、どうもこの主人公たちは性格や生き方こそ違えど、みんなどこか高見順の分身のような感じがします。それぞれに自分の一部分を投影しているのかもしれません。若い頃には、何でもやれる!大物になってやる!なんて意気込みで自分の将来に向かって歩んで行くわけですが、現実は厳しく、気付いてみたらつまらない大人になっている。こんなはずじゃなかった。・・・なんて思いながら生きている悲しい男たちの悲哀が実によく伝わってきます(えしぇ蔵身をもって体験した悲哀なので嫌になるほど伝わりました)。でも暗い作品ではなく、彼特有の”饒舌体”で面白おかしく書いてあるので愉快に読めます。全体を通しての質の高さは誰しも認めるところで、芥川賞候補になったのもさもありなんというところです。しかしこれでも賞はとれなかったわけですから、あらためて当時のレベルの高さを思い知らされます。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

高見順 「如何なる星の下に」

太平洋戦争が始まる直前、昭和14年、15年頃の浅草を舞台にした話で、小説のような随筆のような不思議な作品です。人情味のある下町の当時の風景が細かく描写されていて、そこでそれぞれの人生が交錯していきます。悩んだり浮かれたり恋したり堕落したり、人間くさいドラマが淡々とつづられていきます。そういった登場人物の内面と浅草の風景とが妙にマッチしていて、作者が浅草を舞台にした理由がわかるような気がします。浅草は今でも人情味のある町ですよね。えしぇ蔵は東京では浅草が一番好きです。ここだけはまだかすかに昔の東京、あるいはもっとさかのぼって江戸の面影を感じることができるような気がします。ところで浅草を舞台にした小説といえば思い起こすのが永井荷風ですね。どこかこの作品の雰囲気は永井荷風のそれに似ています。実は高見順と永井荷風はいとこ同士です。高見順の父親は官僚の阪本釤之助で、永井荷風の父親はこれまた官僚の永井久一郎です。阪本釤之助は永井久一郎の弟です。だから作品に似た雰囲気があるのはもしかするとDNAの影響かもしれませんね。ちなみに永井家は尾張で帯刀を許されたほどの豪農で由緒ある名家です。だからどちらもおぼっちゃんであるといえます。実はこの2人、いとこ同士でありながら大変仲が悪かったそうです。天才同士、何か相容れないものがあったのでしょうか?ちょっと残念な気がします。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

高見順 「今ひとたびの」

高見順の作品を読んだことがある人がもしこれを読むとちょっと意外に思うかもしれません。なにしろ韓国ドラマやトレンディドラマも顔負けのメロメロの恋愛小説です。本当にドラマの脚本にぴったり!と思うはずです。主人公は一目惚れした女性に意中を伝えることもできぬまま、その女性は結婚してしまいます。それでも主人公は彼女への想いを残していましたが、それを断ち切るために彼女から遠く離れていきます。ところがそんな彼のもとへ彼女から手紙がきます。その文面からするとどうも幸せな結婚生活ではないようなので、主人公の内面は大いに揺れます。お互いに好意を持っていることを薄々と感じながら、いろんな障害が二人の接近を阻みます。最後に来た最も大きなそれは戦争でした。死地を彷徨い、戦後なんとか無事に帰国した主人公は、再び彼女との再会を夢見ます。そしてそれがついに実現するという時に……最後のシーンはこれまたドラマティックです。とにかくかなりメロメロです。やはり何度も映画化はされています。映画のほうではラストシーンが違うものもあるようです。高見順にしては大衆小説的な内容ですが、これはこれで大いに結構ではないかと思います。女性の方には特にうけるかもしれません。そもそも大衆小説と言われるエンターテイメント性の高い作品と、文学小説と言われる芸術性の高い作品との線引きというのは非常に難しいものがあり、読む側の感じ方によって変わってくる場合は大いにあります。松本清張が「或る『小倉日記』伝」において当初は直木賞候補だったのに、結果的には芥川賞を受賞したことがいい例です。つまりどちらの要素も持つ作品は意外に多いのです。この作品も内容からすれば簡単にエンターテイメント系に分類されそうですが、実際に読まれるとわかりますがどうもそう簡単に片づけたくないものがあります。芸術性の高い作品も多く生み出している人が、そこに投入する技量をエンターテイメント系では全く封印するなんていうことは逆に難しいでしょうからね。そういう意味ではこの作品は、”二度おいしい”ということが言えるかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

最近の記事

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

esezo

Author:esezo
FC2ブログへようこそ!

QRコード

QRコード

RSSフィード