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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

三島由紀夫 「豊穣の海」

日本の文学も世界の文学も21世紀の現在ともなれば名作は山ほど残されているわけですが、その中で最も優れていると思うものを選べと言われたら皆さんなら何を選びますか?えしぇ蔵は世界で最も優れていると思う作品は迷うことなくドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を選びます。この先の未来においてもそれ以上の作品が現れるとはとても思えません。それほど群を抜いた存在だと思います。では日本文学においてはと聞かれたら、これも迷わず三島由紀夫の「豊穣の海」を選びます。三島由紀夫の最後の作品で、えしぇ蔵が思うに最高傑作です。主人公が輪廻転生を繰り返していきますが、それを友人がその一生の間で追いかけて出会いを繰り返すという時空を超えた壮大なドラマです。「春の雪」、「奔馬」、「暁の寺」、「天人五衰」の四部に分れています。主人公は一部終わるごとに来生はどこで会えるかのヒントを友人に残します。友人はそれを手掛かりに生まれ変わった主人公を探します。生まれ変わるたびに異なる舞台で異なるドラマが展開するので、非常に長い作品ですが全く飽きさせません。三島由紀夫ですから文章から溢れる知性と気品は卓越したものであり、エンターテイメント性も際立っています。「カラマーゾフの兄弟」もそうですが、小説としてのあらゆる魅力を持っています。この作品を書いた後、市ヶ谷の自衛隊駐屯地に行って決起を呼びかけ、それに失敗して割腹自殺をしますが、その前にこの世での最後の輝きを残そうとして、その持てる力を最大限に発揮して書いたのではないかと個人的には推測しています。まさに渾身の一作です。作品も生き方も後世に多大な影響を残した人ですが、その大きさを感じるには最も適した作品ではないかと思います。自分の国にこんなすごい作家がいたことは世界に対して大いに誇れることだと思います。

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三島由紀夫 「金閣寺」

「金閣寺」という呼び名は実は通称で、正式な寺の名前は「鹿苑寺」です。その中にあるあの金色の建物のことを「金閣」というので、いつしか「金閣寺」と呼ばれるようになりました。その「金閣」は国宝に指定されていましたが、昭和25年7月2日に、当時大谷大学の学生で鹿苑寺の見習い僧侶だった林承賢(当時21歳)の放火により焼失してしまいます。この作品はその事件をモチーフにしており、三島由紀夫の独自の解釈で犯行の動機を明らかにしています。この事件に関しては水上勉も「五番町夕霧楼」、「金閣炎上」において作品化していますが、犯行の動機においては三島由紀夫の解釈と異なりますので、読み比べてみるのも面白いと思います。主人公(作品の中では林養賢となっています)は病弱で、生まれながらに重度の吃音がありました。生い立ちに不幸を抱えていた彼にとって、美の象徴である「金閣」はその対極にあって憧れの対象でした。そこに己の美学の究極がありました。一方で自分の現実の世界においては、障害を持ちながらも逆にそれを悪用して強かに生きる友人や、愛欲に溺れる住職、彼に過度の期待を寄せる母親など、周囲の環境に救いを見出せず苦悩します。そして彼はついに究極の美を燃やすことによって、長い時を越えてきた儚い美を自らの手で終わらせることによって、それまで自分にとって憧れでしかなかった究極の美を自分だけのものにしようとします。この物語の舞台は戦後間もない頃の日本で、まだアメリカの占領下にあります。その時代背景と、主人公の年齢が性に対する興味も旺盛な青春時代であることがストーリーの奥行きを深めています。三島由紀夫ならではの極めて美しい文章で綴られており、時代を超えて評価され続けています。海外でもよく読まれており、日本人にとっては誇りといえる名作です。

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三島由紀夫 「宴のあと」

今の時代、プライバシーの保護が非常に重要視されるようになりました。人間にとって今や命の次に守るべきものと言ってもいいほどの扱いです。個人情報保護法が施行されてからはそれが更に顕著になってきました。ところで皆さん、この「プライバシー」という言葉がいつ頃から世間一般に使われるようになったかご存知でしょうか?実はそのきっかけを作ったのがこの「宴のあと」なのです。この三島の傑作は元外務大臣の有田八郎をモデルとして書かれたもので、政治の世界の熾烈で陰険なライバル争いを描いています。有田八郎はこれに対し、個人のプライバシーの侵害であるということで三島由紀夫と新潮社を訴えます。”プライバシーの保護”と”表現の自由”は真っ向から対立し、結果は有田八郎に軍配が上がります。これが日本で最初のプライバシーの侵害に関する裁判です。この裁判の後から「プライバシー」という言葉は一般に使われるようになります。そういったいきさつがあってこの作品は余計に注目されることになり、三島の作品の中でも特異な位置を占めることになるわけですが、純粋に作品だけを見ても非常にドラマ性が高く、物語の組立も完璧で展開にリズムもあり、読み手を退屈させない面白さを持っています。政治の世界の話ですからライバルを出し抜くためにあの手この手の攻防戦があり、それをかなりリアルに描いてます。現実の政治の裏側を覗くような感じがします。ちょっと松本清張的な雰囲気もあります。裁判のほうは後に和解していますし、今となっては訴えた方も訴えられた方もともに没して、この作品に関する逸話抜きで楽しめるわけですが、過去にそういうことがあったと知った上で読むのもまた一興というものでしょう。

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三島由紀夫 「憂国」

三島由紀夫の命日のことを「憂国忌」と呼ぶことは皆さんご存知かと思います。あれはこの作品からとられています。三島由紀夫という偉大な人物の命日を表現するにこれ以上の言葉はあるでしょうか?実に絶妙なものがあると思います。彼の内側にあった熱い血は、かつて私たちの先祖の一人一人に流れていたものであり、私たち現代を生きる日本人のほとんどが忘れてしまったものです。その激しいエネルギーはいろんな彼の作品の中にみることができますが、一番ストレートに表現しているのがこの作品ではないでしょうか。非常にショッキングな内容です。簡単に言うと切腹の実況中継なんですが極めて詳細に描かれています。その情景を想像するとちょっとひいてしまう人もいるかも知れませんが、この作品の中の強烈なエネルギーを是非感じとって頂きたいのです。彼はこの作品で何を言いたかったのでしょうか?一軍人の強烈なまでの愛国心でしょうか?男としての潔さでしょうか?戦争が生み出した特殊な心理状況でしょうか?本当の答えは三島由紀夫とともに彼岸へと渡ってしまいましたので誰しも推測の範囲を出ないと思いますが、えしぇ蔵としてはその答えは「死の美学」ではないかと推測しています。人間がなんらかの理由により死を選ばなければならなくなり、それを従容として受け入れて潔く死に赴く姿、そこに彼は美を感じ表現しようとしたのではないでしょうか?かつて武士が自らの死でものごとに決着をつけた姿に彼は羨望があったのではないでしょうか?彼の市ヶ谷での最後のこともありますし、個人的にはどうもそのへんに答えがあるような気がします。

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三島由紀夫 「美神」

三島由紀夫という偉大な作家が自分の国にかつていたことを私たちは誇りに思うべきではないかと個人的には考えています。まさに世界の大家たちにいささかもひけをとらない人であることは間違いありません。三島由紀夫の作品はあらゆる魅力を含んでいます。思想的にも多くの人の信念を揺すぶるほどの強い力を持っています。文章表現は極めて巧みで喩えようもない美しさを誇っています。計り知れぬ知識の深さは他を圧倒していますし。そして忘れてはいけないのがストーリーの面白さです。ただ芸術的であるだけではなく、しっかり読者を楽しませてもくれるのが彼の作品の大きな魅力です。またそれゆえに海外でも広く受け入れられるのではないかと思います。この作品は非常に短く、すぐに読んでしまえるような小品ですが、それだけにぐっと引き締まった傑作です。主人公のR博士は古代彫刻の権威でした。彼は病床で人生最後の日を迎えようとしていました。死ぬ前にもう一度”あれ”が見たいと彼は医者に依頼します。”あれ”というのは、彼がローマの近郊で発掘に成功したアフロディテの像でした。その発見は奇跡と言われ、博士の名を高からしめました。博士は自分の著書にこの像の高さを2.17mと書きました。他の書物はどれも博士の著作を参照してこの像の紹介文に高さ2.17mと記載しましたが、これは博士が仕組んだいたずらでした。実際は2.14mしかないのをわざと3cm多く公表したのです。それは博士とアフロディテだけの秘密でした。そして博士は病床で医者に像の高さを測ってみるように言いますが、なんと像の高さは2.17mでした。死ぬ間際の博士の驚愕!さぁそこで博士は最後になんと言って死ぬのでしょうか・・・?小説って面白い!としみじみ感じさせてくれる作品です。

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