蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

鈴木三重吉 「千鳥」

えしぇ蔵は鈴木三重吉の文章が大好きで、気に入った箇所は何度も開いて読み返したりします。なにげないことを細かく、そして極めて美しく表現することにかけては本当に素晴らしい才能を持っていた作家じゃないかと思います。一般には文章は美しいけど内容がないとか、薄っぺらだとか、訴えるものがないとか、そういう評価も聞きますが、えしぇ蔵個人としてはこの文章の美しさだけでも出会えてよかった作家だと思います。ただ作品数が少ないです。この人の人生の後半は児童文学に捧げられ、普通の小説は書きませんでした。なんでも小説の面での自分の才能の行き詰まりを感じたそうですが、なんとも惜しい限りです。この作品は彼の記念すべきデビュー作です。彼は夏目漱石に心酔してその門下に入ります。きっかけは夏目漱石に送ったファンレターでした。そこから文通が始まり、そしてこの作品を夏目漱石に送って激賞されたことがきっかけとなり、弟子入りして作家としての道を歩み始めます。当時は大変高い評価を受けたようです。病気療養のために訪れた能美島をモデルにしているそうですが、自然の美しさと細かい人間の動作の表現には本当にほれぼれするものがあります。ストーリーはこれといって特筆することもないような淡い純愛物語です。それも淡いという表現では物足らないほど、その前の段階にすら達していないような状態の話です。主人公がある島に休養に来た時に、一人の少女と出会います。主人公は恋心を抱きますが、彼女はすぐにいなくなります。想いを伝える言葉のひとつもかければよかったと後悔しますが、いつのまにか自分の机の中に彼女の着物の片袖が入っていることに気づきます。その後一切二人の間に展開はなし。わずか二日間の出来事です。淡すぎるでしょ?でもそれだけに濃い恋愛よりも果てしなく想像が広がります。たくさん想像させてそれぞれの読者の頭の中で作品が完成するというのはまさに小説の醍醐味のような気がします。是非読んでみて自分なりの作品に仕上げてみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

鈴木三重吉 「桑の実」

海外に移住した友人から、日本の文学小説がなかなか手に入りにくいので何かいいもの送ってくれないか?と頼まれたことがありました。本好きな友人なので有名で手に入りやすい作品は既に読んでいると予測して、考えに考えた末に送ったのが、横光利一の短編集「春は馬車に乗って」と、この「桑の実」でした。友人は大変喜んでくれました。海外の文学作品はとにかくストーリー重視、テーマ重視のものが多いので、表現にも重きを置いてしかも名作として評価が高く、かつそれほど現代人に知れ渡っているわけではないものを選んでみたわけですが、思えばそういったストーリーやテーマ以外に重きを置く作品というのは日本文学が誇る一つの形なのかもしれません。この作品はその典型のような気がします。童話作家として有名な鈴木三重吉ですが、初期の頃は普通の小説も書いていまして、その中でもこの作品は最高傑作と言われています。ではどんなストーリーなのでしょうか?これが面白いことにこれといって説明するほどのストーリーはありません。奥さんと離婚した青木という男と、その家にお手伝いさんとして入ったおくみさんという女性との間の、ほんのささやかな心の交わりを描いてあるだけです。大きな事件もドラマティックな展開も何もなし。それなのにこれは群を抜いた名作なのです。日常の何気ない生活の中で静かに静かに時間が流れていく様子を、極めて美しい文章をもって表現しています。そこにある純粋な人の心の交わりを感じて感動しない人は少ないと思います。ストーリーに頼らずに人をひきつけるという作品を書けるというのはよほどの実力がないと無理でしょう。読み終わって「あぁ面白かった」で本棚に置きに行くような作品ではありません。そのまま手元において、ひまひまに取り上げてぱらっとめくったところを読むだけでも心が洗われるような気がする、そういう作品です。是非読んで身近に置いておくことをおすすめします。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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