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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

宇野千代 「人形屋天狗屋久吉」

人形浄瑠璃をご存知でしょうか?人形を動かしながら語られる劇ですが、これが非常に盛んであったのが阿波です。藩主蜂須賀家によって庇護されたことにより、江戸時代から阿波の伝統芸能となりました。そうなるとその人形を作る職人の技もまた代々受け継がれていき多くの優れた人形師が出たわけですが、明治から昭和初期にかけてその優れた技術と新しい発想で阿波人形浄瑠璃の隆盛を支えたと言われるのが天狗屋久吉(略して天狗久・本名は吉岡久吉)という人です。この人は人形をより写実的に作る試みをしたり、目にガラスを使うという技法を考案したりして阿波人形浄瑠璃の発展に大きく貢献しました。その生涯で手がけた人形の頭は1,000以上だそうです。中には徳島県文化財に指定されているものもあります。人形を制作する際に使用した道具などは国の重要有形民俗文化財に指定されています(徳島の天狗久資料館に行けば詳細に知ることができます)。宇野千代はある人形を見て感銘を覚えますが、その作り手がこの天狗屋久吉でした。そして阿波の徳島を訪れて本人に会います。その時はかなり老齢に達していた天狗屋久吉にインタビューをしていろいろと話を聞き、それを身の上話のような形で語り口もそのままに物語化したのがこの作品です。宇野千代とくれば「おはん」や「色ざんげ」などの色恋の作品が連想されるので、この作品を読むときっと「え?これが宇野千代の作品?」と思う人は多いと思います。この作品によって宇野千代は一つの芸を極める世界というのを知って大きく影響されたのではないかという説もあります。いかにして弟子入りしたかというところから始まり、人生の様々な苦労と技の鍛錬の足跡を作品の中で老職人は淡々と語ります。人形の世界の奥の深さ、職人として生きる者の道というのを宇野千代と一緒に教えられているような気分になれます。どの道を選ぶにしろそれを生涯かけて究めつくすということの素晴らしさを知ることができるという意味でも非常に優れた作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

宇野千代 「色ざんげ」

才色兼備の女文士、宇野千代は多くの追随者を生んだ傑作を世に残して98年6ヶ月の人生を終わりましたが、中でもこの「色ざんげ」は恋愛小説の古典といわれる名作中の名作です。よく太宰治は男性なのに女性の心理を見事に描写していると言われますが、この作品を読むと宇野千代が女性なのに男性の心理を見事に捕らえていることに驚かずにはいられません。この物語は画家の東郷青児の心中未遂事件をモチーフとしています。その取材のために東郷青児を訪問し、そのまま同棲してしまうなんてまさに宇野千代的展開ですね。彼女の恋愛遍歴はそれは賑やかです。代表的なところでは東郷青児のほかに尾崎士郎、北原武夫が有名ですが、こういった経験が彼女の作品の幅を広めないわけがありません。自分の思うがままに生きる、そのこと自体がまさに芸の肥やしとなっていったのでしょうね。ところでこの小説の読者をぐっとひきつけて離さない魅力はどこからきているのでしょうか?おそらく皆さんもこの作品を手にして、冒頭から読み始めるとなかなかやめられなくなることに気付くと思います。続きが気になってやめられないのです。これは彼女の得意な”聞き書き”というスタイルで書かれていることが原因です。つまり、作者が主人公にインタビューをして、主人公が語るままに記録したような形式なので、読者はまるでインタビューの場に一緒にいるかのように話にひきこまれてしまうのです。主人公の画家と3人の女性との間の恋愛の記録は、ドラマティックな展開をみせますが、悲しみがある中にもどこか冷めた感じもして、不思議な読後感を残します。名作というのは一言で表現できない魅力を持っているものですね。宇野千代の実力を知るには十分の作品です。稀代の女文士の傑作を是非読んでみて下さい。

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