蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

城山三郎 「落日燃ゆ」

どの街にも郷土の偉人や英雄と呼ばれる人がいるものですが、えしぇ蔵の住む福岡では菅原道真や黒田長政などのビッグネームと並んでもひけをとらない人気を誇るのが広田弘毅です。郷土が生んだ第32代内閣総理大臣は、それだけでも十分に誇りではありますが、なんといってもその死に臨んでの毅然たる態度が多くの人を感動させました。太平洋戦争の終結後、東京裁判において7名のA級戦犯が死刑となりましたが、その中で唯一文官であったのが広田弘毅です。開戦前にはその防止に奔走し、開戦後には和平工作に全力を尽くしたにも関わらず、総理大臣在任中に軍部大臣現役武官制を復活したことなどを理由にA級戦犯とされてしまいます。ところがこの判決には当時日米両国の多くの人が納得しませんでした。そして驚くべきことに本人は一切の弁明を行いませんでした(これは弁明すれば他の関係者の名前が出てしまうので、それらの人々をかばうためだったという説もあります)。死刑に際しても毅然たる態度を崩さず、まさに”黙して逝った”人でした。その壮絶な生きざまを慕う人は多いですが、それは城山三郎のこの作品も大いに貢献しているのではないかと思います。広田弘毅をとりあげた作品の中でも最も広く知られています。石屋の息子が政治家となり、外務大臣として外交に奔走し、やがて総理大臣となり、太平洋戦争を経て東京裁判での死刑判決で散っていきます。その生涯を詳細に調べあげてドラマティックに描かれています。あまりに見事な完成度なので、城山三郎と広田弘毅の間になにか縁があってこの作品が生まれたのではないかと思ってしまいます。素晴らしい人物を素晴らしい作家が描いた名作です。是非読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

城山三郎 「指揮官たちの特攻」

個人的に城山三郎のように徹底的に調べて記録のように書くというスタイルは好きでよく読みます。この作品は太平洋戦争中に最初に特攻した関行雄大尉と最後に特攻した、というか敗戦を知らされないまま特攻に出撃した中津留大尉の二人を中心に、人間を兵器の一部としかみなさない神風特別攻撃隊の悲しい顛末を描いています。日本はなぜ、若い命が次々に消耗品のように散っていくような状況になったのでしょうか?平和な現代を生きる日本人として考えさせられます。犠牲になった人たちの悲しみを今に伝えようと必死に書いている作者が想像できるほど、文章は哀切に満ちていて心に響きます。特攻隊員たちが基地の近くの料亭の柱や鴨居に残した刀傷を見て、作者が「ごめんね」とつぶやきながらその傷をなぞるという記述がありますが、そこで深い感銘を受けました。涙なしでは読めません。特攻をどうとらえるかは今でも人それぞれで、ただの自殺行為だと完全否定する人もいれば、その精神と壮挙を礼賛する人もいます。何が正解であるかはおそらく明確にしにくい問題だと思いますが、もしあなたが特にはっきりとした意見を持っていないのであれば、是非この作品を読んでから決めて頂ければと思います。いずれにしろ、一つはっきり言えることは、このような状況に至るような政治決断を二度としてはならないということだと思います。平和というものにいつも感謝しながら生きていきたいものですね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

城山三郎 「硫黄島に死す」

映画でも話題になった硫黄島ですが、この作品の主人公は栗林中将ではなく、バロン西こと西竹一大佐です。父親は外務大臣を2度、枢密顧問官も2度経験した男爵、西徳ニ郎です。西大佐は父親の跡を継いだので男爵となりました。男爵を英語で”バロン”と言いますので、そこから通称”バロン西”となったわけです。男爵という華族の家に生まれたわけですから、幼い頃から親しむものも必然的に華族の嗜み的なものになります。西大佐の場合はそれが乗馬でした。陸軍に入る時も騎兵を選びました。そして彼の名前を世界的なものにしたのがオリンピックです。1932年のロサンゼルスオリンピックの馬術大障害飛越競技で堂々の金メダルに輝きました。ちなみに日本はその後全くオリンピックの馬術競技でメダルを獲得していませんので、いかに西大佐がすごかったかがわかります。”バロン西”の人気は当時世界的な規模のものでした。今で言えばイチローのような感じでしょうか。なんと後にロサンゼルスの名誉市民にまでなっています。生まれも育ちもそれこそサラブレッドな彼ですが、性格は豪快で天真爛漫だったそうです。長身の美男子でお金持ちでしかも金メダリストですから人気が出ないほうがおかしいというものです。陸軍内においてもその人柄で部下に慕われたそうです。輝かしい人生を歩んでいた彼ですが、戦争は過酷な運命を与えます。硫黄島の守備のために戦車第26連隊の隊長として赴任します。そしてご存知のような激戦。ついに日本に帰ることはできませんでした。非常に華麗で悲惨で勇壮な彼の人生を城山三郎が実に見事に小説にしました。西大佐の魅力あふれる人間像を十分に知ることができると思います。痛快に生き悲しく散った若き命の輝きをこの作品から感じとって下さい。

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城山三郎 「雄気堂々」

「近代日本資本主義の父」と言われるあの偉大な渋沢栄一の生涯を描いた作品です。日本人ならこの人の功績を知らずにいては論外です。今の日本経済の基盤を作ったと言っても過言ではないほど多大な貢献をした人です。この作品の面白さを知って頂くために渋沢栄一のことを簡単にご紹介します。もとは幕末の志士で攘夷を叫んでいた武士の一人でしたが、縁あって徳川慶喜に仕えることになります。つまり幕府側についてしまうわけです。そこで徳川慶喜の弟の徳川昭武のヨーロッパ視察に同行しますが、この時に見たヨーロッパの姿に大きな衝撃を受け、渋沢栄一は一介の武士では持ち得ない知識と視野を得ることができました。ところがその後幕府は倒され、明治政府が誕生します。彼は学んだことを生かして株式会社を作りますが大隈重信の誘いで大蔵省に入り、日本の経済のしくみ作りに奔走します。大蔵省を退官後は様々な企業や団体の設立に関与します。その数が半端じゃありません。今のみずほ銀行を筆頭に多くの銀行を立ち上げていますし、東京海上、帝国ホテル、王子製紙、サッポロビール、キリンビール、秩父鉄道、京阪鉄道、東洋紡績、東京ガス、太平洋セメント、日本郵船、東急不動産、JR、澁澤倉庫、東京製綱、東京証券取引所・・・その数は500を越えるそうです。その上まだ多くの学校の設立に関与していますから、日本の発展に多大な貢献をしたことが分かると思います。彼が他の経済人と異なる点は何より国全体が豊になることを前提としていることです。「道徳経済合一説」を理念として掲げ、倫理と利益の両立を目指していました。そんな偉大な人物を城山三郎が詳細に調べ上げて伝記風な物語に仕上げたのがこの作品です。一介の武士がいかにして近代日本資本主義の父となったのか、是非読んでみて下さい。そして渋沢栄一という人に対して感謝と敬意を持って頂ければと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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