蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

田宮虎彦 「二本の枝」

まずは簡単な内容から。女学生の頃は仲良く楽しく過ごした親友の二人。その清純きわまりない青春時代はまぶしく光っていましたが、社会に出てそして結婚してという過程を踏んでいくうちに徐々にどちらも不幸になっていきます。本人たちに何の責任もないのにです。それなのに自棄になることもなく、お互いなぐさめあってがんばって生き抜いていく二人の物語。なんともいじらしくて涙を誘います。悲しい内容ではありますが、これはきっと多くの女性の心に響くものがあると思います。それも子育てを経験した40代以上の、いくつかの山や谷を経験し乗り越えてきた女性の方たちは、きっと共感を持たれると思います。この二人の女性の思いが伝わってくると思います。それほど的確に女性の心理を描写している田宮虎彦という作家の力量に驚嘆せずにはいられません。おそらく文章の技量だけではなく、かなり優しい心を持っていたんじゃないかなと推測できます。そうでないと女性の心の痛みがあれほど表現できるとは思えません。田宮虎彦は奥さんを胃癌で亡くした後、奥さんと交わした手紙をまとめた作品「愛のかたみ」を発表し、高く評価されてベストセラーになります。おそらくそこでも人の痛みがわかる優しさが、多くの読者を感動させたのだと思います。人間性が作品に現れる一つの例だと思います。いいものを書きたいと思うえしぇ蔵に、文章の訓練だけではいいものは書けないということを教えてくれた作品でもあります。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

田宮虎彦 「小さな赤い花」

子どもの頃に愛情が不足して育つことは、ある意味栄養の不足よりも深刻な問題かもしれません。世のお父さん方、お母さん方に愛情の不足が子どもの内面の形成にもたらす悲劇というものを知って頂く意味でも是非読んで欲しい作品がこの「小さな赤い花」です。悲しい話ですがこの作品の中で全編にわたって強く訴えられているのは子どもへの愛情の大切さです。これは作者の田宮虎彦自信がその生い立ちで痛烈に感じたことでもあります。この人は父親がどうもあまりいい父親ではなかったらしく、愛情を受けなかったどころか、憎しみを受けて育っています。子どもの心ではどうして自分が憎まれるかわかりません。愛されたいのに憎まれるという辛さは大人でも耐え難いものです。この人の人生こそ悲劇そのものです。ですがこういった成長期における辛い体験は、結局彼の創作における大きなテーマを生むという皮肉に到ります。自分の中にあった悲しみや怒りを形にして世に発表したものがこの作品と言ってもいいと思います。純粋無垢な主人公の少年は無邪気でやんちゃなごく普通の男の子ですが、粗暴な父親に一度も愛されたことがなく、母親と一緒に家を追い出され、母親の実家へと移るところから物語は始まります。少年は父親から離れることができ、母親といつも一緒にいることができるのでむしろ喜びに満ちています。しばらくは優しい母親との幸せな日々が続きますが、やがて母親は病気で亡くなります。そこからは完全に愛情に飢えた生活の始まりです。母親の優しい俤を胸に抱きつつも歩む方向を見失い、過ちを犯したりしながら日々を過ごしますが最後に彼を待っていたのはあまりに悲しい結末でした・・・。愛情というのは精神の栄養ですね。不足すれば心の病になり死を招くこともあります。人間なんてどんなに強くとも一人で生きていくのは無理ですよね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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