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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

幸田露伴 「一口剣」

これは幸田露伴の作品によくある”職人もの”です。ある腕のいい職人がなにかをきっかけに狂ったように仕事に没頭し、その技術は他の追随を許さない水準に達して、ついにまわりをあっと言わせるものを作り上げるというあのパターンです。代表作の「五重塔」がいい例です。あの作品の場合は宮大工でしたが、ここでは刀鍛治です。ある将来を期待された刀鍛治が許されぬ恋に落ち、親方に見放されて駆け落ちします。それからはぱっとした仕事もできず鬱々とした日々を過ごすわけですが、ある日酒に酔った勢いで自分は日本一の刀鍛治だと豪語します。それが人に聞かれて噂になり、ついに殿様の耳に入ります。そしてある日、殿様に呼び出された彼は、資金と時間をやるからひとついいものを作ってみろと言われます。さぁ困った!自分はそれほどの腕ではないのに殿様は買い被っておられる。どうしよう?このままお金を返して逃げようか?おろおろと悩んでしまいますが、そんな頼りない旦那に愛想がつきた奥さんは旦那が殿様に貰った金を奪って逃げてしまいます。彼は失意の中で苦しんだあげく、ついに一念発起して刀を作りはじめます。さぁ彼は殿様を納得させるような刀を作ることができたのでしょうか?最後は彼のセリフでビシっと終わりますがそれがなんともかっこいいのです。おぉこれだこれだ、幸田露伴の世界だ、と思ってしまいます。こういう作品大好きです。幸田露伴の作品はロマンを追い求める理想主義に基づいています。だから夢があって面白く読むことができます。同時代には尾崎紅葉がいましたが、こちらは正反対のものごとをそのまま捉えようという写実主義です。明治の一時代にこの両極の巨人が同時に存在したというわけですから非常に興味深いものがあります。いわゆる紅露時代と呼ばれる頃です。幸田露伴の作品にはもう一つ大きな魅力があります。それは極めて美しい文語体で書かれているということです。作品を読んでいると日本語の美しさに改めて気付かされます。皆さんもかつて日本語はこんなに美しかったのだときっと感動することでしょう。是非浪漫ある美しい文語体をお楽しみ下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

幸田露伴 「五重塔」

幸田露伴は日本の近現代文学の黎明期においてその発展の礎を築き、尾崎紅葉と並び称されその活躍した時代は「紅露時代」とまで言われた明治の大御所です。この人なくして日本文学の歴史は語れません。物書きにとってはその作品を神棚に飾って拝むべき偉大なる存在です。この人のDNAにはよほど濃く文学に関する才能が記録されていたのか、娘の幸田文、孫の青木玉、曾孫の青木奈緒と文学の世界に子孫を送り続けています。この作品は大御所初期の傑作であり代表作です。文体が古いので若い人にはちょっと読みにくいものがあるかもしれませんが、ストーリーが非常に面白いので入りこめば読み進んでいけると思います。谷中感応寺に五重塔を作るという話が決まった時、腕は確かだが周りに「のっそり」と渾名されている十兵衛は今こそ自分の人生を賭ける時とばかりに寺の上人に自分に作らせてくれと懇願します。この仕事は親方筋にあたる源太が引き受けることになっていたので上人は迷います。己の力を信じる若い主人公十兵衛と、ベテランで実績もある源太の熱い戦いです。どっちが悪いでもない男の意地がぶつかりあうスポーツ的な戦いです。金では動かない一途で誠実な人間がまっすぐに何かに打ち込む姿は本当に清々しいものです。十兵衛の気魄に打たれた上人はこの大仕事を彼に任せますが、五重塔の建築中に大嵐がやってきて、塔は崩れんばかりに揺れます。十兵衛は塔の上に立って命をかけて自分の仕事の確かさを証明しようとします・・・。十兵衛と源太の人間像に反映されているのはまさに作者、幸田露伴の誠実さ、実直さ、真面目さ、ひたむきさだと思います。二人の生き様に注目して読んで頂くと、その向こうに幸田露伴本人の姿が垣間見えると思います。読後が非常に爽やかな逸品です。是非ご一読を。

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