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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

阿川弘之 「舷灯」

実を言うとこの本はえしぇ蔵が間違えて買った本です。阿川弘之といえば海軍の提督を描いた3部作「山本五十六」、「米内光正」、「井上成美」を筆頭に、「雲の墓標」、「春の城」など、太平洋戦争に関した戦争記録文学が一般に知られています。この作品のタイトル「舷灯」を見た時にてっきりこれも戦争に関連した、それも海軍ものだろうなと勝手に思い込んで買ってきたわけです。それで読み始めてみると、多少は戦争にも絡んでいますが基本的には全然違う文学作品でした。最初は「失敗したなぁ」と思いながら読んでいたわけですが、読み進むうちに素晴らしい純文学作品であることがわかって、結果的にはいい買物になりました。考えてみれば阿川弘之は志賀直哉の弟子で、しかも師の文学を受け継ぐ者とまで言われた人ですから、純文学を書いても何ら不思議はないわけです。そういう意味ではむしろ戦記ものを読むよりもこの作品を読んだ方が阿川弘之が師である志賀直哉から受け継いだものを感じ取ることができるように思います。それほど素晴らしい作品です。戦争を生き延びた男が家庭を持って戦後の生活をつつましく生きていくわけですが、どうもなんとなく海軍にいた頃の生活が懐かしいような雰囲気を持っており、今ひとつ家庭への愛情をそそぎきれていない、という話です。阿川弘之の底力を知ることができる純文学作品です。読む価値は大いにありますよ。

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阿川弘之 「雲の墓標」

戦争というものを作品において批判するにはその書き方で2つの方法があると思います。ストーリーの中で戦争反対の立場にある人がメインになって活躍し、直接的に訴えるという方法と、表面的には体制に順応している人々をリアルに描くことによって間接的に反戦を訴えるという方法です。この作品は後者です。主人公は応召で海軍に入り、初めてのことばかりでいろいろと戸惑いながら徐々に海軍の空気に慣れていき、最後は特攻隊の一人として選ばれるまでを日記という形で表現しています。おそらく本当の日記を参考にしたと思われるリアルさがあって、名も無い一兵士が戦争に借り出されて、国のためとはいえその命を軽くあしらわれる様子が詳細に描かれています。最初の頃は不安が前面に出ており、それがやがて慣れていくにつれて自分は国のために頑張って戦わないといけないと思うようになります。海軍のやり方に疑問を持ち、勝つ見込みのない戦争をすることに納得できないながらも、もはや自分には国のために死ぬしかないと思うまでにいたる一連の心の葛藤が実に巧みに表現されていて、そのリアリティさゆえに読む側に強い反戦意識を起こさせます。ここに阿川弘之のすごさを感じます。戦争反対だから戦争ものは読まないというのではなく、戦争反対だからこそこういう作品に触れて欲しいです。あの戦争で貴重な命を散らせた人々の死に至るまでの心の葛藤を少しでも知ることは戦争に反対する上では必要なことだと思います。昨今のアニメや映画においては戦闘のかっこよさを売りにしているものが多く見受けられます。その背後に戦争というものに対する意見を見出すことができないのです。そういう作品が大勢を占めるとそれを受ける側、ことに過去の戦争などひいじいちゃんが経験した大昔のことにしかすぎない若い世代にとっては戦争本来が持つ罪を知ることができません。そういう意味でも阿川弘之をはじめとした優れた戦争文学の書き手の作品は未来永劫読まれ続けなければいけないと強く思います。

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阿川弘之 「山本五十六」

阿川弘之とくればまず思い浮かべるのは太平洋戦争を題材とした作品群ですが、その中でも出色の出来といえるのがいわゆる”大日本帝国海軍提督三部作”と言われる「山本五十六」、「米内光政」、「井上成美」です。この3作品はどれも徹底した調査に基づいており、非常に興味深く読めますので是非読破して頂ければと思います。なかでもこの「山本五十六」に関しては個人的な感慨で言えばまさにあっという間に読んでしまったほど面白かったです。題材としたのが優れた人物であったこともありますし、また阿川弘之の綿密な調査と読み手を飽きさせない筆力の賜物だろうと思います。ところで皆さん、山本五十六という人物をご存知でしょうか?もう太平洋戦争も歴史の教科書の1ページに過ぎない存在となってしまった感がある昨今なので、名前だけは聞いたことがあるという人が多いのではないでしょうか?歴史の表面的な見地で説明するならばあの真珠湾攻撃やミッドウェー作戦を指揮した連合艦隊司令長官です。真珠湾は大勝利、ミッドウェーは大敗北ということで評価の分かれる人ではありますが、一個人としては人に対して優しく礼儀正しく非常に人望があって、尊敬する人として未だにその名を上げる人は多いです。人物像というのは評価する人の立場によって変わってくるのが当然ですが、評価すべきこととして一つだけ強調したいのは彼は戦争に最後まで反対していたということです。海外駐在が多かった彼は欧米の事情に明るく、アメリカの国力も正確に把握していたのでとても勝ち目はないということを認識していました。それなのにまっさきに攻めていく連合艦隊の司令長官にさせられてしまうわけですから運命というのも非情なものです。このへんの事情は作品の中で詳細に説明してありますので、是非この作品を通して山本五十六という人物像に触れて頂き、皆さんなりの評価をして頂ければと思います。ちなみにえしぇ蔵にとっては尊敬する人物の一人です。

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阿川弘之 「軍艦長門の生涯」

個人的に阿川弘之の太平洋戦争関連の作品は大好きです。あの有名な大日本帝国海軍提督三部作「山本五十六」「米内光政」「井上成美」はその人となりを見事に描ききっていますし、太平洋戦争の実態を後世の日本人に伝えるための絶好の資料にも成り得ます。是非読んで頂きたい三冊ですが、その前に読んで頂きたいのがこの「軍艦長門の生涯」です。この作品を出発点として、他の太平洋戦争関連の作品に進んで頂きたいと個人的には思います。この作品は大正から昭和初期にかけて、「大和」が登場するまで日本の連合艦隊の旗艦であった「長門」の物語です。大正の頃に設計が始まった段階から連合艦隊旗艦時代、そして他の戦艦が次々に最期を遂げる中で唯一終戦まで生き残り、戦後にビキニ環礁で原爆実験の標的にされて沈没するまでの長い長い生涯を描いています。その間に日本に起こる様々な事件や、それに伴う世相の変化なども同時進行で描いてあり、結局はその頃の日本の変遷自体を描いていると言ってもいいくらいです。出てくる登場人物も次から次に変わります。それぞれにドラマを残して去って行きます。あの頃の日本人はどういう考えで行動していたのか?これを読むとそれがリアルに伝わってきます。阿川弘之自身が海軍生活を経験しており終戦時には海軍大尉にまで昇進していましたが、彼の中には海軍への深い思い入れがあるようで、終戦時の見る影もない海軍のありさまや、実験艦として最期を迎える長門を描いている部分は寂寞を誘うものがあります。長門の勇姿、海軍の栄光を描きつつ最後に残るのは悲しみであること。そこに我々現代の日本人は何かを感じるべきですね。

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