蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

芝木好子 「光琳の櫛」

えしぇ蔵は文章がしっとりと優しい感じのものが多い女流文学には目がないので結構集めています。中でも冊数の多いのが宮尾登美子と芝木好子です。個人的にはこの二人の作品ならハズレなしと思っています。女流作家の場合、日本の伝統芸を背景に人間ドラマが展開されるというものがよく見受けられますがこの作品もそうです。ここでとり上げられているのは「櫛」です。古い櫛をたくさん集めているある料亭の女将さんが主人公です。かつて日本の女性がその装飾の一つとして愛用していた櫛には、その持ち主の女性の悲喜こもごもの思いがこめられていると主人公は考えています。そうなると愛おしい櫛もあれば、捨ててしまいたいくらいに気持ち悪い櫛もあったりするわけです。主人公は人間と対しているように櫛へのさまざまな感情を露にしています。そしてある日、究極の一品に出会います。それが尾形光琳作の櫛「鷺文様蒔絵櫛(さぎもんようまきえぐし」です。彼女はなんとしてもその櫛を手に入れたいという情熱を燃やし、そこに恋愛もからんで話は盛り上がっていきます。作品としては構成も完璧ですし、文章は美しいし、ドラマ性もあります。いつもながらそつのない仕事をする人です。後で知った話ですが、この物語に登場する尾形光琳作の櫛「鷺文様蒔絵櫛(さぎもんようまきえぐし」は実在するそうです。東京青梅市の「櫛かんざし美術館」でお目にかかれるとか(主人公のモデルとなった人も実在するそうで、その人も約3000点も集めたそうです)。あなたもこの作品を読んだら絶対に本物を見に行きたくなると思いますよ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

芝木好子 「慕情の旅」

心に傷を持つ女性が世間の荒波にもまれながらも強く生きていこうとする姿を描くことは、芝木好子の得意技といっていいかもしれません。彼女の描く女性の強さは、どちらかというと”静かな強さ”です。じっと耐えて弱さを表に出さず、むしろより静かな品のある女性となることでつらさや悲しみを乗り越えていくという感じです。これって芝木好子の人間性なんでしょうか?もしそうなら一目会いたかったです。きっと人間的に素晴らしい人だったろうなと思います。この作品の主人公は、結婚の約束をしていた男性が、結婚式を目前にして主人公の義理の妹と駆け落ちしてしまったという経験を持っています。大きな傷を生涯の伴侶と思っていた人と自分の妹からもらったわけです。しかも父親は孫に会いたさに主人公に気兼ねしてこっそりと妹の新居を訪問してたりするわけで、それが余計に彼女につらい思いをさせます。ですが彼女はそれにもめげず、父親の会社の副社長として仕事に打ち込むことで強く生きていこうとします。そんな彼女にある人が妹夫婦の娘を見たいかと訊きます。見たくないような見てみたいような、複雑な気持ちを抱きますが結局彼女は見てみることにします。そして京都の銀閣寺でその女の子の姿を見た彼女はある大胆な行動に出ます・・・。短編ですが内容は濃く、展開もドラマティックでうまくまとまっています。上品な筆致でありながら、主人公の、その課された苦難に耐えて生きる内側の強さがしっかりと表現されており、そこに作家としての不動の実力が示されているのではないかと思います。芝木好子の魅力を凝縮したような小品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

芝木好子 「冬の椿」

太平洋戦争においていかに多くの日本兵が海外で死んだかご存知でしょうか?もはや正確な統計はとれないようで諸説ありますが、おおよそで言うと約800万人近くもの人が戦地に赴いて、約200万人が帰らなかったということです。恐ろしい数ですね。これは同時に非常に多くの女性が最愛の人の未帰還という悲劇を味わったことになります。通常の死であれば女性はそれを乗り越えていけば新しい人生も開けるというものですが、戦争の場合は一種独特の悲劇を生むことがあります。つまり、最愛の人が戦死したとの知らせがあって落胆しているところに再婚の話があり人生の再出発をした後に、前の旦那が生きて帰って来て一悶着……というパターンです。なにせ戦時中の、しかも敗色濃厚になってからの公報というものは全くあてにならなかったですからこういうことも非常に多かったわけです。新しい旦那をとるか、前の旦那に戻るか、悩み苦しんだ日本の女性の悲劇をドラマ化したのがこの作品です。まだ結婚はしてなかったけどこの人しかいないと決めた画学生が戦争に行ってしまい、戦死の知らせが入ります。そして執拗に結婚を迫られていた実業家と結婚してしまいますが、戦後にあの画学生が歩いているのを見たという人の話を聞いて主人公の心は揺れ始めます。誠実と思っていた実業家が実は愛人のいる不誠実の見本のような男だったことがわかったりして、余計に進むべき道に迷う主人公が最後にどういう決断をするのか?戦争が生んだ悲劇の一つの形を作者得意の情緒的なしっとりとした文章で描いてあります。テーマが重いので非常に考えさせられる作品です。この物語のような悲劇が二度と起こらないことを祈りたいです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

芝木好子 「青磁砧」

女流作家の中で芝木好子は個人的にかなりお気に入りです。美しく優しい文章の中に、非常に強い情熱が隠されている印象を受けます。ストーリー的にも主人公がただ男を頼ってふらふらというのではなく、しっかり自分を持っていて、男以外に打ち込める何か(仕事とか趣味など)があるというパターンが多いです。この作品の主人公は”青磁”に魅せられます。陶芸作品に執着するコレクターの主人公と、陶芸家の男性との間の感情のやりとりがあるわけですが、女性はこういう自分の魅せられた物に詳しい男性、その道を究めた男性に魅力を感じるみたいですね。(イングリッド・バーグマンは「無防備都市」を見て監督のロベルト・ロッセリーニが好きになってイタリアに行っちゃいましたからね。)実際に男性が何かの先生で、女性がその生徒であるという恋愛パターンはよくあります。またそういうパターンで結びついた男女というのは、共通の趣味と価値観があるわけですから非常にうまくいくようです。異性といい関係を保つには同じものをいいと思える共通の価値観は必須だと思います。閑話休題。この作品の中では主人公の父親も有名な収集家であり、主人公は父親への愛情とともにライバル意識も感じており、それがこの作品の奥行きをうまく演出しています。陶芸家の窯が青磁を焼いている大事な時に突風に襲われ、主人公と二人で風を防ぐために必死で薪を積んだり畳をたてかけたりするシーンはこの作品の中での一つの見せ場です。第47回女流文学賞を受賞しましたが、それも当然としか感じないほどの非常に優れた作品です。ストーリーもさることながら、情緒ある文章も是非楽しんで頂きたいです。こういう細やかな優しい文章は女流作家でも本当に実力派でないと書けないと思います。何度でも読み返して楽しんで下さい。できれば読む前に青磁を少し見ておくとイメージがわきやすいと思います。この作品をきっかけにあなたも陶芸が好きになるかもしれませんよ?

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

最近の記事

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

esezo

Author:esezo
FC2ブログへようこそ!

QRコード

QRコード

RSSフィード