蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

坂口安吾 「夜長姫と耳男」

ある日、えしぇ蔵が文学好きであることを知っている某友人に坂口安吾の「夜長姫と耳男」は読んだことがあるか?と聞かれました。その時はまだ読んだことがなかったのでそう答えると、どう言っていいかわからないけどとにかくすごいから読んでくれと言われました。そして早速、何がどうすごいのかわからない状態で読みましたが、すごいなんて言葉じゃとても表現しきれない、かといってどう具体的にどう表現していいかわからないすごさを持つ作品だったので非常に大きな衝撃を受けました。それまでにもたくさんの坂口安吾の作品を読んでおり、何度もその才能の冴えを感じさせられていたのに、ここでまた新たな一面を強烈に見せられた気がしました。本当にいろんなタイプの作品を書ける人なんだなと改めて驚嘆させられました。ストーリーの展開は全く奇想天外。思いも寄らぬ展開で驚きの結末に至るところはおそらくこの人でなければ書けないのではないかと思います。シュールという表現をすべきでしょうか。主人公の耳男は飛騨の匠で、夜長姫のために像を作れと言われますが、夜長姫にバカにされた上に耳を切られて、腹いせに恐ろしい像を作ってやろうと小屋に籠ります(その小屋の様子がまたすごいんですが……)。そして出来た像を見た夜長姫がどうなるか?おそらく誰しもひきつけられて一気に読んでしまう作品だと思います。ただし、描写としてかなりグロい場面もあるので予めご注意下さい。

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坂口安吾 「狂人遺書」

全く独自の世界を築きあげ、天才と言われる作家の中でも一際異彩を放つ坂口安吾は国内外を問わず多くのファンを持っています。その理由としては作風や思想がまず上げられるでしょうが、作品のジャンルが多岐に渡ることもその一つだと思います。「堕落論」などの論文、「白痴」などの文学小説、「風と光と二十の私と」などの自伝小説、「不連続殺人事件」などの推理小説、「黒田如水」などの歴史小説……などなど、どの方角にその才能をふるっても見事に結実しています。これだけ幅が広ければいろんな角度からファンがつくのは当然と言えば当然ですね。ここで紹介する「狂人遺書」は豊臣秀吉を扱った歴史ものです。これが実に面白いです。坂口安吾の歴史ものというのは単に史実に沿ってそこに多少肉付けしてドラマ仕立てにしていくというものではなく、大胆に自分の説を盛り込んだ斬新な物語になっています。どの歴史小説家の作品とも違う、坂口安吾にしか書けない歴史小説になっています。こういった大胆な考察に基づいた歴史小説の書き方というのは後世の歴史小説の大家たちにも大いに影響を与えています。ストーリーは豊臣秀吉の遺書という形式をとっています。采配をふるい、表舞台で自らを演じている秀吉は、心の中では多くの葛藤と戦い、悩んだり悲しんだりしています。例えば悪評高い”朝鮮出兵”の時もどうして決行することになったかといういきさつの場面では、本当は是が非でも朝鮮へ渡ろうと思っていたわけではないのに時勢の中でうまく舵がとれず、ずるずるとことが運ばれていく……というふうに、史実の裏で秀吉がどういうふうに考えていたかが描かれています。本当の自分を理解してくれている人はいないという孤独感がよく描かれています。歴史ものも坂口安吾の手になるとそのジャンルにおさまりきれない幅を持ったものになるからやっぱりこの人はすごいなと思います。歴史ものは他にも「二流の人」「信長」「道鏡」「家康」「紫大納言」などたくさんあります。時代も奈良時代から平安時代、戦国時代、幕末など多岐に渡っています。坂口安吾の歴史小説だけを集中して読んでみるというのも、その才能を楽しむには面白い試みだと思います。

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坂口安吾 「桜の森の満開の下」

なんと美しいタイトルでしょう。さぞかし心洗われるようなすがすがしい作品なのでしょう・・・と思って読み始めたらえらいことになります。書いた人が坂口安吾だということを忘れてはいけません。当たり前な作品を書くわけがありません。そこがこの人のすごいところですから。この作品は、人の女房をさらうという乱暴な男とそのさらってきた女の物語で、滑稽でそして非常に残酷です。ある日男はとても美しい女房をさらってきますが、その女はさらわれることに恐怖を覚えないばかりか、逆にわがままを言って男を困らせます。さらってきた他の女を殺せと男に命じたりします。全く被害者的意識はなく、まるで女主人気取りです。あげくには人間の生首でままごとみたいなことをして遊んだりしますから気持ち悪いことこの上なし。そんな頭がおかしいとしか思えない女の言いなりになりっぱなしの男でしたが、とうとう最後にその女の正体がわかります・・・なんともシュールというかアイロニックというか、グロテスクというか、実に不思議な作品です。まさに坂口安吾ワールド全開です。彼の才能の一部を感じさせてくれる作品です。この坂口安吾という人は荒廃した戦後の日本において、社会とともに荒廃した日本文学が復興するにおいて大変重要な役割を果たした人です。太宰治や織田作之助らとともに”無頼派”と呼ばれ、代表作「堕落論」は、作家も含め当時の多くの人に影響を与えました。文学小説も歴史小説も推理小説も随筆も書ける豊かな才能の持ち主で、今でも研究対象となることが多いです。誰かと文学の話をする際に、「好きな作家は坂口安吾」という人だと「お、この人いい線ついてるな」と個人的に勝手に思ったりしますが、いわゆる”通(つう)”をうならせる作家なのです。そんなすごい作家の摩訶不思議な世界をちょっと覗いてみませんか?

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