蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

徳田秋声 「黴」

この作品は明治44年に東京朝日新聞に連載された時に好評を博し、自然主義に徳田秋声ありと世間に認識させました。徳田秋声個人にとっても日本文学史にとっても非常に重要な位置を占める作品です。金沢出身の徳田秋声はもともと尾崎紅葉の弟子でした。ここで、え?そうなの?と思う人もいるでしょう。なぜならその作風がおよそ正反対ですからね。尾崎紅葉とくれば浪漫派の親分ですからね。その弟子が自然主義というのは変な話です。要するに徳田秋声は途中で自然主義に鞍替えして、尾崎紅葉のもとを去ったわけです。(自然主義に走った徳田秋声を尾崎紅葉の一番弟子であった泉鏡花は許せなくて殴打事件を起こしました。それ以来この二人は疎遠になりますが、後に泉鏡花の弟が徳田秋声の持っていたアパートに住み、そこで死亡したことがきっかけで和解します。)自然主義文学においては自分及びその周辺の人物や出来事がそのまま書かれる場合が多いですが、この作品も自分自身をモデルにして書いたそうです。ただそうなると徳田秋声という人が人間的にどうなのか?という疑問がわいてきます。なぜならこの主人公は傲慢でいい加減で気まぐれで思いやりのない人物で、読んでいて本当に腹が立つからです。小説ですからモデルについて深く追求する必要はないと思いますが、もし徳田秋声がこの主人公そのままの人で自分の近くにいるとしたら正直ちょっと距離を置くかもしれません。でも読み手にそう思わせるということは人物描写が極めて優れているということになるわけです。家の世話をしてくれる女中さんみたいな人に手を出して妊娠させてしまって、責任をとるのか、縁を切るのかはっきりしないまま、なし崩し的に家庭ができていって・・・という話ですが、ここは架空の人物と割り切って読むほうが作品のすごさを堪能できると思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

徳田秋声 「あらくれ」

金沢という町と文学とは切ってもきれない縁があります。なにせ室生犀星の出身地ですからね。金沢出身の文豪として室生犀星と並び賞されるのは徳田秋声です。この人も日本の文学史に残した足跡は極めて大きく、その貢献度は計り知れません。ではどういう作品を残したのでしょうか?彼は自然主義文学の作家として一般には知られていますが、実は最初は尾崎紅葉の弟子で、泉鏡花と同門でした。泉鏡花のほうはその作品を読むと、「あぁなんとなく尾崎紅葉的だな」とその影響を感じるものが多々ありますが、徳田秋声のほうはその作品においてそれらはほとんど感じられません。なにせ尾崎紅葉的文学というのはロマンを追い続けるわけですから、自然主義の彼とは共通点があろうはずはありません。ですのでこの師弟関係にはちょっと不思議な感じはあります。「黴」という作品で尾崎紅葉のことを記述した部分に関して泉鏡花と仲違いしたのは有名な話です。文学的志向が正反対の二人ですから仲良くいくほうが難しいわけですが、後に二人は鏡花の弟の葬儀がきっかけで和解します。徳田秋声は自然主義文学の道をひた走ります。この作品もそうですが、女性を主人公にしてその生きざまをリアルに描くのが得意です。この作品の主人公は”お島”という女性で、彼女が貧しい境遇やいわれない圧力に負けずになんとか生き抜いてやろうと必死でもがく姿を、本当になんの飾り気もなくたんたんと描いてあります。逆にそうやって飾り立てずに表現してあるから非常に訴えてくるものがあります。何度も挫折を味わうのにその度に歯をくいしばって立ち上がっていく彼女の姿に生きる勇気を貰う人は多いと思います。この作品から得られる感動は、確かに自然主義ならではと言えるかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

カテゴリー

最近の記事

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

Author:esezo
FC2ブログへようこそ!

QRコード

QRコード

RSSフィード