蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

森鴎外 「心中」

怪談というのは書く側にしては結構難しいものだと思います。読み手の頭の中に的確なイメージを浮かび上がらせ、それが恐怖を誘うものでなければなりません。うまく表現できないと恐怖感が薄れ、作品全体が白けてしまいます。そうなるとさぞかし怖いだろうと思って読んでいた人を落胆させます。どうしても怪談となると誰しも自分を怖がらせて欲しいという期待感を持って読みますので落胆させては元も子もありません。だから怪談をもとにした優れた小説というのは意外に少ないのです。そこでこの作品の登場です。なんと大御所森鴎外の作品ですので意外に思われる人もいるかもしれません。さすがに大御所が書くと違います。読んだ後も恐怖感がずっと残ります。いわば怪談のお手本とすべきものかもしれません。怪談と言い切るとどこかおどろおどろしいものかと思われがちですがそうではなく、お金という女中が話すある事件の顛末なんですが、最後の結末がなんともぞっとするものなのでそういう意味で怪談の範疇に入るものだと思います。それにしてもこの話は怖いです。本当にぞっとしました。「ひゅうひゅう」という音がキーワードですから覚えておいて下さい。ストーリーはお金の口から客に対して語られます。川枡という料理屋での話です。事件があった頃は十四五人の女中が働いており、その中にお蝶という大変働き者の子がいました。その子は親が決めた結婚が嫌で家を飛び出し、川枡に転がり込んで住み込みで働き始めたということでした。彼女が東京に出て来たもう一つの理由は好きな人が東京にいたからで、その男性とは時々会っているようでした。そしてある晩、お松とお花という二人の女中が夜中にトイレに行きますが、どこからともなく「ひゅうひゅう」という音が聞こえてきます。どうもそれは四畳半の部屋から聞こえてくるようなので、お松は思い切ってその部屋の障子を開けますがそこにはなんと!……あぁ今またぞっとしました。この結末を言ってしまっては台無しです。気になるなら早速読んで下さい。(この作品は青空文庫でも読むことができます。

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森鴎外 「渋江抽斎」

偉大なる森鴎外。日本文学史の中で燦然と輝く存在ですね。文学が好きな人や文学の道を志す人に圧倒的に支持され、尊敬の的となる人です。その大先生たる森鴎外の晩年の作品がこの「渋江抽斎」です。そうか、あの森鴎外ならさぞかし傑作だろう、ひとつ読んでみるか、と思われる方に一つ警告です。この作品は文章表現や内容において非常にレベルが高く、学術的で難解な語句や喩えも頻繁に出てくるので、はっきり言って読みやすいとは言い難いです。専門家の間でも評価は二分します。ですのである程度そのへんを覚悟して読んで下さい。江戸時代の医者である渋江抽斎という人の伝記ではあるのですが、いわゆる普通の歴史小説のように史実をもとに想像を膨らませて面白くドラマティックに・・・というものではありません。むしろ研究資料的な感があります。森鴎外が多くの人や書物に取材し、調査した結果を記録したものという感じです。ただ、難しいですけど読み終わった後にはあなたの中での森鴎外像はさらにすごいものになっていることは保証します。弘前の藩医であった渋江抽斎の生き方に同じ医者として共感を覚えた森鴎外は実に細かく取材して書き上げています。この渋江抽斎という人もおそらく森鴎外がスポットライトを当てなければ、歴史の中で徐々に薄れてゆく存在だったのではないでしょうか?それが文学の大家が取り上げたことでその名前は永久に残ることになったわけです。地道な働きを積み重ねて逝った人も後の世でこうして誰かの筆で紹介されて名を残すということもあるんですね。渋江抽斎と森鴎外は不思議な縁でつながっていたのかもしれません。こういう作品は未来永劫伝えていきたいものですね。

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森鴎外 「雁」

いつも森鴎外のことを書く時にはなにか畏れ多いものを感じます。血筋もよければ経歴も申し分なし。多くの実績と名声を残し永遠に語り継がれる人。そんなすごい人をえしぇ蔵ごときが紹介するなど、時代が違えばお上に叱責をくらうかもしれません。とにかくその人生は素晴しいもので、貧乏にのたうち苦しみながら書いて日々食いつないでいた明治・大正の多くの作家たちとは大違いの豊かな人生でした。この場で森鴎外の生涯について細かく書くとスペースが足りなくなるのでポイントだけ。彼は作家としてだけではなく、医者としてもトップを極めた人です。こう書くと医者のほうが副業に聞こえますが、彼の本職は軍医です。しかも最終的には軍医総監にまで登りつめました。これは軍医という職業における最高位です。軍医総監という言葉を調べて頂けるとわかりますが、かつてこの職を務めたお歴々の中に”森林太郎(本名)”という名前があります。多くの人に”医学博士”という肩書きがあるのは当然ですが、彼だけはそれに加えて文学博士と書かれています。全く見事な二束のわらじです。医者としてのすごさはさておき、文学者としての彼のすごさを語る上で紹介すべき作品は枚挙に暇がありませんが、ここで紹介する「雁」はこれから森鴎外の世界に入るという人にはお勧めです。古き日本の面影、可憐な恋愛模様、そういったものを十分に堪能できる文学作品です。”偶然”というものに翻弄される人間の運命を描いてますが、ストーリーも面白く、作品として非常にわかりやすい構成にもなっていますので構える必要はありません。気軽に読むことができます。高利貸しに囲われているお玉という美しい女性と岡田という純粋な大学生の間の切ない想いのやりとりは一幅の見事な絵画を見た後のように深く心に残ります。是非、あなたも浸ってみて下さい。ちなみにお玉は鴎外の隠し妻をモデルにしたのではないかという説がありますがどうなんでしょう?真実は鴎外のみぞ知る・・・?

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森鴎外 「舞姫」

森鴎外の人生をたどるたびにいつも思うのは、世の中にこんなに才能と環境に恵まれた人が他にいただろうか?ということです。人並み優れた才能があっても貧乏で短命であったり、裕福だけど才能は乏しいというのはよくあるパターンですが、この人はその両方を兼ね備えており、まさに全てを有する人でした。津和野藩の御典医の家に生まれており、人生の初っ端から恵まれた環境にいました。そして人並み優れた頭脳は幼い頃から評判だったようです。第一大学区医学校(現東京大学医学部)の予科に年齢をごまかして入り、その後は陸軍の軍医になります。スーパーエリートの道まっしぐらです。才能・地位・財産・家柄・・・なんともうらやましい人生です。この頃までは全ては順風に思えたことでしょう。ところが彼にも大きな精神的試練が待っていたわけです。彼は軍の命令でドイツへと留学しますが、そこで運命の人に出会います。それがこの小説のモデルになった女性です。二人は恋に落ち、やがて彼の帰国により悲しい別離を経験します。その体験をもとに書かれた作品がこの「舞姫」です。きっと彼にとっては初めての大きな試練だったのではないでしょうか?その女性は彼の後を追ってドイツからはるばる日本まで来て約1ヶ月ほど滞在したということですから、いかに熱烈な愛情が二人の間にあったかがわかります。実体験を元にしているからか、非常にせつない想いが文章から伝わってきます。この作品を読んで、若き日の森鴎外のやるせない想いを感じてみて下さい。

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