蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

岡本かの子 「家霊」

もともとは歌人として出発した岡本かの子が、小説を本格的に書き始めたのは晩年だそうです(晩年といっても49歳で亡くなってますのでまだ40代後半の頃です)。でも結構作品があるので死ぬ前の時期の筆の勢いはさぞかしという感じです。この蔵書でも紹介している名作「老妓抄」を筆頭に、非常に優れた作品をたくさん残しています。この「家霊」も名作の一つに数えられます。どじょうを食べさせるお店の帳場で、老いた母親を手伝って働く娘の目から見たじーんと心に残る人間ドラマです。いつもどじょうを食べてもつけを払わない爺さんが、店の娘に若かった頃の母親の話などをします。この爺さんは簪を彫る職人なんですが、どうも若い頃から母親に対して恋心を抱いていたようで、自分で彫った簪を母親にプレゼントしたことがありました。ある日、母親はその簪が入った琴柱の箱を出してきて、「これだけがほんとにわたしが貰ったものだよ」と娘に語り、その箱を振ると中で爺さんが命をかけて彫った簪の音がするわけです。その音を聞いて母親が「ほ ほ ほ ほ」と笑います。その笑い声が「無垢に近い娘の声であった」と表現されているシーンは秀逸この上なしです。簪を出して眺めるのではないのです。ここが最も重要なポイントです。実物は見ずに振って音を聞いただけで、乙女のような声で笑うわけです。名シーンとはこのとです。これぞ純文学だと思いました。実現しない淡い思いをかすかに交わすほど美しいものはないと思いました。本当に心に残る美しい作品です。岡本かの子の文学の才能は確かに群を抜いて突出しています。そしてそのことを自分でも強く認識し、自負していました。自分は他の女流作家とは違うと明言していたほどです。文壇における評価は二分していましたが、評価する側はまさに手放しの賞賛で、林房雄などは論文で「岡本かの子は森鴎外と夏目漱石と同列の作家である」とまで表現しています。そこまでの評価を得る作家ですのでこの作品に見える才能の片鱗は決して偶然のものではなく、天性の確かなものの現れであると言えます。これを読んだ人はきっと他の作品も手にすることになることでしょう。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

岡本かの子 「老妓抄」

ご存知でしょうか?岡本かの子。あの天才画家岡本太郎のお母さんです。どうも芸術の分野においては才能の遺伝というのは有り得るのではないかとよく思います。幸田露伴の血筋は4代にわたって文学に携わってますからね。親子で有名な作家というパターンは非常にたくさんあります。岡本かの子の場合は子どもは画家ですけど、兄も文学に関係しておりもともと兄の交友関係から谷崎潤一郎らの文人たちとの交流が始まり、徐々に文学の世界に足を踏み入れていくきっかけとなりました。そんな彼女の残した作品はどれも甲乙つけ難い傑作ばかりです。彼女の作品ならどれもハズレなしと断言してもいいほどです。その中でもこの「老妓抄」は抜群の出来で、非常に高い評価を得ています。「文学史上、一二を争う短編小説の傑作」とまで言われています。川端康成も絶賛しています。少しでも彼女の文章を読めばわかりますが、その計り知れない才能が文面からにじみ出てくるようで、まさに圧倒される印象を受けます。彼女はそんな自分の非凡さを自覚しており、多少ナルシスト的な面もありましてそれを快く思わない人もあったりするので、彼女の才能の評価が正当になされているかは少し疑問です。本来ならもっともっと絶賛されるべきではないかと個人的には思っています。老いた芸者が若い男のパトロンになって経済的な援助をしてあげるにも関らず、男は期待に背くことばかりする・・・というストーリーで、この二人の関係は一体何なの?どうなるの?と思わせる微妙な綾がなんとも深いものを感じさせます。多くの人をうならせた傑作ですので是非、ご一読を。

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岡本かの子 「鶴は病みき」

岡本かの子のブレイクのきっかけとなった作品です。大正12年の関東大震災があった頃、岡本かの子は家族とともに鎌倉に避暑のための宿を求めてしばらくそこに滞在します。そこは他の避暑客と棟を分けて共同で住む形式のものでしたが、その相客がなんと芥川龍之介でした。(作品の中での名前は麻川荘之介となっています。)これは実話を元にしています。なんという偶然!当時既に芥川龍之介は時代の寵児ですから、今で言えば自分が滞在した宿の隣の部屋に大江健三郎がいた、みたいな感じでしょうか?当時は日本文学史の中でも次々とスーパースターが誕生していた黄金期ですので、大物作家同士が友人であったり、先輩後輩であったり、師匠と弟子であったりして、お互いがからむ作品というのは多いです。主人公(岡本かの子自身)はこの鎌倉での生活において芥川龍之介とその仲間たちと親しく交わりを持ちます。最初はやはり大物作家ということで敬意を持って仰ぎ見るという感じですが、時間がたつにつれて徐々に芥川龍之介の別の一面、(あるいは本当の姿)を垣間見ることになります。日常のなにげない動きの中に表現されるその人の姿というのは、まさに社会に接する時のための仮面をはずしているわけで、すぐ近くにいてそれを毎日見ているとその人物の真の姿というのが嫌でも見えてくるというのは有り得ることだと思います。人が自分のことをどう言っているのか気になって神経質になる彼、くだらないことにこだわって大騒ぎする彼、相手を論難した後で罪悪感に悩む彼・・・非常に人間くさい生の芥川龍之介が描かれており、興味深い作品となっています。芥川龍之介ファンの人も是非どうぞ。

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