蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

石川達三 「傷だらけの山河」

石川達三という作家は結構作品数はあるのですが、なぜか今時の人はあまり知りません。それもそのはず、絶版が多くて書店に行ってもせいぜい「蒼氓(そうぼう)」か「青春の蹉跌」くらいしか手に入らないからです。これはちょっと悲しいことだと思います。彼の作品というのは社会問題をとりあげるのが特徴で、非常にメッセージ性の強いものです。多くの人に読まれることによって社会になんらかの影響を及ぼす力を持っています。こういった作品は後世にも残して、人はどういう社会問題を経て歴史を刻んできたのかということを教えるべきですし、よりよい社会を築いていくための参考にもすべきだと思います。それなのに絶版ばかりとは。憤懣やるかたないというところです。この作品では発展を続ける日本の社会と、その裏側における悲劇を描いています。巨大な企業のトップにある人間がどういう手法で勢力を拡大していくのか、非常にリアルに書かれてあるのが興味深いです。恐らく誰か特定の人をモデルにしてると思います(思いあたるふしはありますけど)。主人公は大きな成功を収めていく影で多くの人を傷つけていきます。でも本人はそれを大事の前の小事と片付けて、常に前進を続けます。そんな冷たい人間が日本の社会を動かしているのが現実なのかもしれません。作品の性質的に松本清張によく似ていますが、思えば目指すところが似ているわけですし当然そうあって然るべきかもしれません。新刊本の本屋にはあまり並んでいない石川達三ですが、古本屋では結構見つかりますので是非探してみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

石川達三 「幸福の限界」

今の世の中では男女差別というのはあまり感じることはなくなってきたのではないでしょうか?あらゆる業界で女性の進出が目立っていますし、いろんなお店のサービスにおいては女性優遇が頻繁に行われています。きっと今の時代なら女性も女性に生まれてよかったと思うことでしょう。ところがほんの50年前くらいまでは女性にとっては非常につらい時代だったのです。女性は家庭を守るもの、男性につくすもの、好き勝手にふるまわないものときめつけられていたのです。また多くの女性がそうであるべきと自ら思っていたのも事実です。そんな風潮に多くの女性が疑問を抱き始めるのが太平洋戦争敗戦後の人心荒涼とした頃です。この小説の始まりもその頃です。ある平凡な家庭におこる一つのドラマは、「家庭における女性の立場」に疑問を投げかけます。長女は嫁いだ先で女中のようにこき使われたあげく、出征した旦那が帰らずに出戻りします。次女は家同士が決める日本的な結婚に反発します。妻は典型的な古い日本人である旦那の強引さに徐々に嫌気がさしてきます。家庭の中の女性たちはそれぞれに苦しみ、それぞれに幸福への道を探ります。この時代ならではのドラマですね。今ならさっさと別れて決着をつけてしまうんでしょうけどね。この時代の女性が苦しみ、悩み、そこから生まれた反発によって立ち上がり、戦った結果が今の女性の地位向上につながっていると言えます。戦中戦後を生き抜いた女性たちに今の日本人は感謝すべきですね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

石川達三 「蒼氓」

これまでの歴史において他の国への移住が最初から成功だったという例はほとんどないのではないでしょうか?移住先は住みやすく仕事もあって将来性があるという類の宣伝文句に魅了され、大きな夢に胸を膨らませて渡った先には予想もしなかった過酷な環境が待ち受けており、移住前に劣らない苦しみを味わったあげく、夢は次世代に託されて1世はむなしく異郷の土になる・・・どれも大よそこういった悲しい共通性はあると思います。かく言うえしぇ蔵の祖父も南の楽園フィリピンにおいて大きなチャレンジをしましたが、太平洋戦争によって夢は潰え、家族を連れて日本に戻りました。そういった悲しい体験が既に歴史上において何度も繰り返されていますので移民に関する物語というのはいくつも生まれてきました。その中においても出色の出来であるのがこの作品です。昭和初期、東北の貧しい人たちは苦しい生活から逃れるために国の政策であるブラジル移民に最後の希望を託します。夢を抱いて海を渡った彼らを待っていたのは国が宣伝していたような夢の土地ではありませんでした。事実に基づいた悲しい物語が、”移民の人たちが乗船するまで”、”海を渡る船中での日々”、”到着して現実を知るまで”の三部に分けて書いてあります。非常にリアルに描かれていますが、これは石川達三の実体験によるものだからです。彼は数ヶ月ですがブラジルに渡り、農場の生活を体験しています。彼はこの作品によって記念すべき第一回芥川賞を受賞(受賞したのは三部のうちの第一部で、二部と三部はその後に発表されました)しています。新人ながら太宰治、外村繁、高見順らをおさえての快挙でした(ちなみにこの時「逆行」で候補となっていた太宰治が受賞を逸した際に選者の川端康成の自分への批評に対して憤慨した話は有名です)。作品の質や文学史的位置において注目すべきことは言うに及ばずですが、何より悲しい移民の歴史について知って頂くためにも読んで頂きたい一冊です。

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石川達三 「悪女の手記」

「蒼氓(そうぼう)」で1935年に名誉ある第1回芥川賞を受賞して華々しく文壇に登場した石川達三ですが、その内容はブラジル移民の悲しい現実を描いて社会に問題提起するものでした。その後も社会批判的な作品が多く、”ジャーナリスティック”という言葉がよく似合う作家になりました。そういった訳で社会派的なものは苦手だという人は石川達三を敬遠しがちですが、彼の作品の守備範囲はそれだけではありませんので誤解のないように。ここで紹介する話は全然そういった分野のものではありません。見方によっては私生児を蔑視する当時の社会に憤ったものというふうに捕らえられないこともないですが、あんまり難しく考えないで普通に読んで十分に面白い作品だと思います。ストーリーとしては単純な内容です。主人公は少し人より気が強いくらいで、どこにでもいそうな平凡な女性でした。彼女は私生児でしたが、持ち前の気丈さでそのことをコンプレックスとはせず、むしろ強く生きていくためのバネとします。妊娠させた男に捨てられて惨めな人生を送った母を見て、自分はそうはならないと強い意志を持って生きていきますが、所詮ままならぬ運命に翻弄され、結局は母と同じように好きな男に捨てられ、同じように私生児の母になります。ここから彼女の転落の人生が始まり、男というもの全体に対する復讐が始まります。お金を持っていそうな男をたぶらかし、利用し、離れていきます。次から次に。そして最期にやっと本当の幸せが見つかりそうになった時、運命の皮肉でまた最初と同じように捨てられます。ここで彼女は裏切った相手の男に対し、人生を台無しにされた男というもの全体に対し、そして幸せをつかむことができなかった自分自身に対し逆上し犯罪に至ります。この作品は最初に裏切った男へ送る手記という形で書かれていますが、非常に面白いので一気に読めました。難しく考える必要はありません。普通に楽しめる作品ですよ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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