蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

幸田文 「台所のおと」

女流作家の作品においてたびたび重要なキーワードとして登場するのが着物と料理です。この辺はやはり女性ならではというところでしょうか。この作品は料理屋を営む夫婦の話です。職人肌の旦那が病気で寝込んでしまい、奥さんがかわりに料理をすることになります。旦那にきちんと教えられた通りに料理して店を続けていきます。旦那は病床からその音を聞いて、何を作っているかとか、奥さんの体調はどうかとかがわかってしまうわけです。それでこういうタイトルになっています。奥さんの体調が悪い時や、心配事があって気持ちが乱れている時には台所の音が違うと言われて、奥さんは焦ります。旦那の病気は重くて余命いくばくもない状態で、そのことを本人には知らせていません。奥さんは平静を装いますが心の中には悲しみが渦巻いています。それがどうしても台所の音として出てしまうわけです。なんとかいつものように料理しようとする奥さんのけなげさになんとも悲しいものがあります。そういう内容なのに湿っぽくなく静かに情緒的に話を進めていく技量はさすがだなと思います。なんともいいお話です。幸田文の短編の中でも傑出していると思います。幸田文の作品はきわめて美しい日本語で組み立てられた芸術品という印象を受けます。えしぇ蔵が仕事で移動中に見つけた本屋さんにふらっと入って幸田文をレジに持って行ったら、おそらく店主と思われるおばちゃんに「あなた本好きでしょ?幸田文の文章はそつがなくていいですもんね」と言われたことがあります。このおばちゃんの言葉は幸田文の文章の魅力を端的に語っていると思います。父親露伴に厳しくしつけられたことも影響してでしょうか、文章に実にきちんとしたものを感じます。整然と書かれて美しく品がありますが弱くはありません。しっかりとした強さを後ろに秘めつつ女性の柔らかさで静かに語っていきます。一見なにげない文章なのに読み始めるとぐいぐいと引っ張っていかれるのはその辺に理由があるのではないかと思います。えしぇ蔵もそうでしたが、おそらく皆さんも読み終わった時に作者に対して敬意を表したくなると思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

幸田文 「着物」

着物に興味がある人は必須、ない人もこれを読むことで興味を持つきっかけになるかもしれません。あらゆる種類の日本の着物を物語の中で次々に登場させて、それがうまくストーリーと絡んでいて実に面白いです。着物の勉強にもなります。昔の日本人が季節にあわせて着物を着こなしていく姿がとても細かく描かれています。「幸田文の文章は隙がない」と聞いたことがありますが、表現の美しさ、文章のわかりやすさ、組み立てのうまさ、まるで文学小説を書こうという人のためのお手本のような作品です。幸田文は明治の大御所幸田露伴の娘です。幸田露伴という人は非常にしつけの厳しい人だったようで、そのおかげで幸田文は人間的にも徹底した、いわゆる”きちんとした日本人”に育ちます。そういう人が書く文章が大雑把であったりいい加減であったりするわけがありません。きれいで品のある、そして曖昧さのないきちんとした文章はまさに幸田文の人間性そのものと言えるのではないかと思います。昔の人にとって着物はどういう存在であったのか?どういう思いを持って接していたのか?どういうふうに着こなしていたのか?着物にまつわる思いを物語仕立てにしてあますところなく表現したこの作品は、着物というテーマを前面に出してはいますが、幸田文としては日本人としてわきまえておくべき常識、礼儀、たしなみ、思いやりなど、いわば良き日本人としての構成要素を知って欲しかったのではないでしょうか?”きちんとした日本人”である幸田文でこそ書ける小説だと思います。平成の現代ではもはや日本人は自分で着物を着ることすらできません。こういう作品を通して本来日本人がみんな持っていたものを探るというのは必要な試みかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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