蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

壺井栄 「草の実」

脂っこい料理もいいですが、そういうのが続くと今度はあっさりとした料理が欲しくなります。人間どこかでバランスをとろうとするのが普通だと思います。読書においても同じです。難しい作品が続くと、今度は読みやすい作品が欲しくなります。そういう時にオススメなのが、石坂洋次郎や壷井栄です。難しい表現や汚い表現は用いず、洗練された表現でわかりやすく語りかけてくる作品は読み進むことが非常に気持ちよく感じられます。ストーリーもテーマとしては決して軽いものではないのに読後感を爽やかにしてくれるのは筆者の技術以外のなにものでもありません。この作品では、同じ祖先を持つ本家と新家が隣同士でありながら過去のいろいろな事件を経て憎みあうようになります。ところがその両家の子ども同士は成人してから恋に落ちます。お互いの親が反目しあう中、二人は結ばれるために自分たちの未来を信じて励まし合いながら生きていきます。そんな若い二人の純粋なひたむきさというのがこの作品の中心にあります。人はきっと和解しあえる、きっと仲良くできると信じることの大切さを若い二人は読者に教えてくれます。これですよこれ。ここに壷井栄ワールドがあるわけです。人間関係で苦労して傷ついた人が帰っていく場所がここにあるわけです。希望が常にそこにあるのです。代表作の「二十四の瞳」を読めばわかると思いますが、壷井栄の作品では人間が本来持っているはずの強さ、善良さ、優しさを信じて生きていこうじゃないですかというメッセージ性を強く感じます。誰しもが人生の苦悩を抱えていることを前提に、生きて行く上での励ましが込められています。おそらくそういうメッセージ性をより広い世代に、より多くの人に伝えたいがために、明快でわかりやすい文体にしてあるのではないかと個人的には推測しています。子を思う母親の優しさのようなものが感じられます。普段の生活で精神的な疲れを感じた時、ちょっと一休みしたいと思った時に是非読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

壺井栄 「二十四の瞳」

壷井栄は1925年に壷井繁治と結婚します。そして二人の子どもを育てますが、二人とも血縁の兄弟の遺児であり、出産の経験はありません。体質的には子どもに恵まれませんでしたが、こうして遺児を引き取って立派に育てあげたことから推察しても、子どもという存在が好きであったことがうかがわれます。それはおそらく母親から受け継いだものかもしれません。(彼女の母親は11人もの子どもを産みますが、それでもまだ二人も他人の孤児を引き取って育てています。)母親という立場から子どもへと注ぎたい愛情が彼女の内側に満ち溢れていたのだろうと思います。その証拠に彼女の作品にしばしば見られるテーマは”母親の愛情”です。「母のない子と子のない母と 」はその顕著な例です。彼女の名前を不動のものにした大ヒット作のこの「二十四の瞳」もある意味母親の文学です。舞台は昭和初期の小豆島。小さな村の小さな小学校に赴任してきた大石先生と、12人の子どもたちとのふれあいを美しい小豆島の自然を背景に描いています。先生と生徒という関係ではありますが、視点としては子どもを見守る母親のものとなっています。優しく愛情いっぱいに育てた子どもたちが、戦争という悲劇によって運命を左右されていきます。それぞれの子どもたちの行く末を案じる大石先生の視線は完全に母親のものとなっています。つまりはここで表現されているのは子どもに対する大いなる母親の愛情であって、そしてそれを阻もうとする戦争に対する静かなる反抗なのです。暖かい愛情を持った優しい母親、そして子どもを守ろうとする強い母親が見事に描かれています。壷井栄の世界はまさに愛です。「二十四の瞳」は本当に人の心を優しく包み込んでくれる傑作です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

壷井栄 「暦」

名作「二十四の瞳」で小豆島を有名にした壷井栄ですが、出身地も小豆島で、あの牧歌的に描かれた自然と人はそのまま壷井栄自身が育った環境でもあります。一家はなんと11人兄妹!今の日本ではそれだけでニュースネタになりそうですが、昔の田舎における日本の家族ってこんな感じですよね。家業は醤油樽の製造で、弟子や職人を抱えて一時期は結構羽振りもよかったようですが、お得意さんの醤油醸造元がつぶれて以来、そのあおりを食って家産は傾いていきます。家も土地も手放して最後は借家に移り、成長した子どもらが働いて家計を助けるというところまでいきました。彼女も郵便局や村役場で働いています。様々な苦労を経験した後、彼女は夢を抱いて上京します。そして壷井繁治との結婚を機に運命が花開いていきます・・・。この作品はそんな彼女の人生経験を基にして書かれた作品です。創作ではありますが、一家の生活の様子はおそらく彼女の記憶をたどって、ほぼそのまま描かれたような印象を受けます。ストーリーとしては、かつての幸せが過去のものとなり、次第に細くなっていく家運の中、最後に残った二人の姉妹が踏みとどまって頑張って生きている姿を描いています。そして成長してそれぞれの道を歩んで離れて行った兄妹を呼び集め、祖母の十七年忌、父の三年忌の法事をするシーンがクライマックスとなっています。壷井栄の作品の底流に流れているのはいつでも”愛”です。それは実に大きくて温かいものです。この作品で描かれているのは単に一家族の盛衰ではなく、その離れがたい強い結びつきの上で続いていく日々の暮らしです。要するに日本にかつてあった大きく温かい家族の暦なわけです。読んでいくと悲しいシーンも多いですが、でもどこか優しく心温まる感じが最後に残るのところはまさに壷井栄ワールドだなと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

カテゴリー

最近の記事

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

プロフィール

Author:esezo
FC2ブログへようこそ!

QRコード

QRコード

RSSフィード