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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

森村誠一 「野性の証明」

1978年に公開された映画の原作です。高倉健が主演し薬師丸ひろ子がデビューした作品で興行的にも大成功したのでご存知の方がほとんどではないかと思います。当時は角川書店が小説を次々に映画化して果敢に攻めていた時代で、「人間の証明」もそうですがこの作品も映画化することを前提に角川春樹が森村誠一に依頼したものだそうです(ちなみに「青春の証明」という作品もあります。この3つは「証明三部作」と言われています)。映画化が前提ですからエンターテイメント性に富んでいるのは言うまでもありません。導入部分からいきなり読者を作品の世界に引きずり込みます。展開のテンポも速く、途中で読むのをやめにくい作品ですので、面白さという点は申し分ありません。複雑な伏線の配置も最後にはきっちりと結ばれて構成的にも完璧といっていい仕上がりです。物語は山奥にある貧しい村の情景から始まります。のどかな風景を連想させますが、それが一気に村人全員が虐殺されるという大事件へと続きます。その後、ただ一人生き残った少女を引き取って育てている男が主人公として話は進みます。虐殺事件を追う刑事、街を牛耳る悪徳企業、それと癒着した街の警察、勝手放題の暴走族。それらに囲まれながら、街を冒す悪事の全貌をさぐるために主人公は孤軍奮闘します。そして最後の場面ではおそらくほとんど誰も予想しなかったであろうような結末が待っています。あれにはえしぇ蔵も非常に驚きました。あまりに衝撃的で、実は夢オチなのではないかと疑ったくらいです。ところでここで注意して頂きたいことがあります。この結末はいわゆる映画のラストシーンとは全く異なります。それ以外にも映画化が前提であったはずなのに原作とは異なる部分がかなりありますので、むしろ別のものと考えて読まれた方がいいと思います。えしぇ蔵は断然原作の方がお勧めです。一気読みしてしまう可能性もありますので時間がたっぷりある時にお楽しみ下さい。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

森村誠一 「人間の証明」

「ブロックバスター」という言葉があります。もともとは1ブロック(街区)を丸ごと吹き飛ばしてしまうほどの強力な爆弾という意味の言葉でしたが、そこから転じて今では本や映画において社会に圧倒的な影響を与えることができるほどの大ヒット作を意味します。角川文庫の角川春樹は1970年代に「ブロックバスター戦略」というのを展開します。優れた小説とそれをもとにした映画の両方をあらゆるメディアを使って大々的に宣伝し、力技で大ヒットに仕立てあげて爆発的な売上につなげるという作戦です。その一番わかりやすい例が「犬神家の一族」などの横溝正史の作品群です。横溝正史は角川春樹によって日本の推理小説史上にその不動の地位を築くことができたと言っても過言ではないと思います。この作戦において一番大事なのは作家の選定ですが、そこで選ばれた一人が森村誠一でした。当時まだ駆け出しの作家に過ぎなかったのに角川春樹はその才能を見抜いて大抜擢します。そして「あなたの作家としての証明になるような作品を書いて下さい」と言って森村誠一に作品を依頼します(ちなみにタイトルはこの時の言葉「作家の証明」から来ているそうです)。依頼された段階で既に映画化することを前提としていましたので、そこまで視野に入れた作品作りをする必要がありました。だから読むとわかりますが映画を見ているように場面が整然と展開し、複数のストーリーが徐々に近づいて一つの結末を迎える流れになっています。内に込められたテーマも深く、またサスペンスとしての面白さもあり、飽きさせずに一気に読ませるエンターテイメントでありながら、読後に深い感傷を残すという非常に奥の深い作品です。森村誠一の技量が初期の頃から既に完成されていたことがわかります。この人も忘れてはならない日本が誇る作家ですので読まれていない方、あるいは映画しか見ていないという方は是非原作を読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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