蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

久米正雄 「父の死」

久米正雄は早くから才能を開花させた天才型の作家です。東京帝国大学文学部で学ぶという大物作家のお決まりのコースを経て、夏目漱石に弟子入りします。その頃に芥川龍之介や菊池寛と知り合ったことが、彼の才能とともに文壇の重鎮となっていく上で大きく働いたことは確かだと思います。師匠の夏目漱石が亡くなった後、その娘筆子に熱烈なる恋をして結婚を申し込みますが、筆子は松岡譲が好きで、ここに出来上がった三角関係は文壇史の上に一つのスキャンダルを残します。このへんの経緯は書き出すときりがないですし、久米正雄自身「破船」という作品に書き残していますのでそちらを読まれることをお勧めします。結論だけ言うと、すったもんだの挙句松岡譲に負けるわけで、彼の青春時代のドラマは全く小説顔負けといったところです。この作品は彼がまだ学生の頃に第四次「新思潮」の創刊号に掲載された作品です。彼が実際に7歳の時に経験した実話を元に書かれています。主人公の父親は小学校(女子部)の校長先生でした。非常に厳格で、職務に忠実な真面目な人でした。ある日の夜中に小使いの不注意から学校が火事になります。火勢が強く消し止めることができません。父親は御真影を燃やすわけにはいかないと火の中に飛び込もうとしますが、まわりに止められます。そして翌朝には全てが灰になっていました。当時、御真影(天皇の写真)というものは何よりも尊いものとされていましたので、父親の心痛は計り知れないものでした。責任を感じた彼はなんと割腹自殺をします。駆けつけた友人であり元藩士の老人が父親の左腹部の傷を見て、「さすがは武士の出だ。ちゃんと作法を心得ている!」と褒め称えます。壮絶な最後をとげた父親ですがこの一部始終を久米正雄は7歳の時に目の当たりにし幼心に深く刻まれ、後にこうして作品となったというわけです。まだ武士道が残る明治の日本を垣間見ることができる作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する