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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

荒畑寒村 「艦底」

社会主義文学、労働者文学を語る上で絶対に欠かすことのできない偉大なる存在である荒畑寒村にとっては、小説家という一面はその広大な活動範囲の一部にしか過ぎません。小説家としてよりも社会主義者、労働運動家としての彼を知る人のほうが多いかもしれません。その生涯はまさに社会への献身に貫かれています。若い頃に横須賀の海軍工廠で働いていましたが、その時に初めて労働運動に参加し、その道への第一歩を記します。この時はまだ10代です。それから幸徳秋水などによって発行されていた「平民新聞」に参加します。1908年の赤旗事件ではご他聞に漏れず牢獄生活も経験しています。その後は大杉栄と「近代新聞」を創刊したり、日本社会主義同盟や日本共産党の創立に参加したり、「労農」を創刊したりと、まさに日本の社会主義運動の歴史そのままの人生を辿ります。戦い抜いた生涯です。非常に凄まじい生き様を見せてくれました。この作品は彼が社会主義運動に目覚めた横須賀の海軍工廠時代の経験をもとに書かれた非常に短い小品です。主人公は巡洋艦の艦底で棚の鉄板を取り付ける穴を開ける作業に従事しています。窓もなく空気のよどんだ”穴蔵”の中で栄養失調によって脚気になった足をひきずりながら働いています。主人公は健康診断において、脚気であることと心臓が弱っていることがわかりますが、軍医長によって肺でないなら大丈夫とあっさりと片付けられてしまいます。友人に到ってはさらにひどい状態で、「こんな体をしてよく生きているナ」とまで言われます。そういう状態にまで追い詰められた人々の労働によって巡洋艦は作られ、戦争が行われるわけです。この作品は単なる労働者の悲劇だけでなく、その捧げられた労働の結果が戦争に使われるという虚しさをも訴えています。短いですが実に訴えるものが多い名作です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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