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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

梅崎春生 「桜島」

梅崎春生は椎名麟三や野間宏らとともに第一次戦後派作家と呼ばれています。戦争中は文化的なものも抑圧されていたわけで、敗戦とともに開放された時は様々な文化の花が争って開き始めます。もちろん文学も大いに羽ばたいたわけで、多くの作家が己のスタイルで登場し活躍します。その中でも梅崎春生は戦後すぐに書いたこの作品で注目を集めます。昭和20年の敗色濃厚な中で主人公が見た軍隊の様子を描いています。主人公が桜島に転勤になるのが7月はじめです。終戦は8月15日ですから既に日本の行く末を不安に感じる雰囲気が全体にあるわけです。既に沖縄が占領され、さぁ次は本土上陸だと緊張している時期です。米軍の上陸がどこから始まるかが一番の問題でした。鹿児島からではないか?宮崎の日南か?いや、千葉から一気に東京かも?あらゆるパターンを想定して上陸に備えていました。そんな中で主人公は鹿児島の桜島に暗号解読の担当として赴任します。そこでいろんな人間の生態を目撃します。部下を虐待する兵曹長、交友を結んだが米軍機の機銃掃射で死ぬ見張兵、特攻隊の兵士の荒んだ様子、望遠鏡で見た自殺しようとしている老人・・・全体にやるせなさというか、どこか悲しく怠惰な空気が流れており、終戦前の日本の様子が非常にうまく表現されています。作者は実際に終戦間際は鹿児島に赴任していたので、その時の体験が生かされているようです。主人公は何も希望を感じさせない社会の中で、自分が何のために生きているのかがわからなくなります。これが「宿命」だと言われてもそこにどうしても納得がいかないという懊悩を描いており、ただの戦記ものとは一味違う奥の深い作品になっています。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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