蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

火野葦平 「糞尿譚」

兵隊三部作でその名を文学史上に残す火野葦平なので戦争文学の作家というイメージが濃いですが、彼が文壇にデビューするきっかけになった作品はこの「糞尿譚」で、これは戦争文学ではありません。彼は昭和12年に日中戦争に応召しますが、この作品はその前に書かれていました。それが第6回芥川賞を受賞したというのを戦地で知ります。戻ってきて受賞式というわけにもいかないので、小林秀雄がわざわざ現地まで行って授賞式を行ったそうです。この出来事は彼を一躍有名にし、陸軍においてもその文筆の腕を買われて報道部に転属になります。そこから軍部とのつながりが強くなり、戦後は戦犯作家というレッテルを貼られますがそれは避けられぬ状況からそうなったわけで、彼が個人的に好戦的であったとか軍に積極的に協力したというふうに簡単に判断するのは間違いだと思いますが、まぁそのへんの問題は今回はさておき、この「糞尿譚」では戦争は関係していません。トイレの汲み取りを商売とする主人公が、市の指定の業者として一生懸命に働いて、なんとか生活をよくしようと必死になる姿を描いています。ライバルの嫌がらせにあったりして、なかなかうまくいかないくやしさが伝わってきます。きっと独立して何かの商売をしたことがある人ならこの気持ちは本当によくわかると思います。夢を抱いて一生懸命走り回っても、次から次に問題が発生して足止めをくらい、なかなか夢への階段を登れない歯痒さ、苦しさ、辛さ、それらの積もり積もったものがついにラストシーンで爆発します。全体的にきちんとまとまって無駄のない優れた作品です。デビュー作からこれですからその非凡さを証明しています。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

火野葦平 「麦と兵隊」

北九州が生んだ偉大なる作家です。「糞尿譚」で第6回芥川賞を受賞したのを皮切りに、戦争体験をもとにした作品「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」などの作品によって、戦時中は押しも押されもせぬ人気作家になります。作品があまりに軍部に協力的であったということで、戦後は戦犯作家とまで言われ一時は公職追放という憂き目にあいますが、それが解除された後は再び返り咲いて人気作家の地位を取り戻します。ここで紹介する「麦と兵隊」は、昭和12年から日中戦争に応召した際の一兵隊の体験をリアルに描いた戦争記録文学です。えしぇ蔵は昭和43年生まれなので戦後23年も経過した後の世代ですから戦争がどういうものであったかは本や映画や体験者の話から想像するしかないわけですが、この作品を読めば出征した後どうなるのか?毎日どんな生活をしていたのか?戦闘中はどんな心理状態なのか?など、非常によくわかります。それぐらいリアルに描かれた作品です。圧巻は孫扞城というところで野営していた時に、敵の大逆襲を受けるシーンです。よほど凄まじい戦闘だったのでしょう、それをなんとか詳細に表現しようと彼は戦闘中もメモをとったりしています。非常に不利な状況になり、敵の迫撃砲弾が真上から落ちてくるようになってからは周りの仲間がバタバタと死んでいきます。直撃をくらえば即死です。増え続ける死傷者、間断のない銃撃、恐怖を伴う砲撃、到着が遅れる援軍・・・もはやこれまでかという場面が何回かあります。なんとか彼は負傷者を連れて脱出に成功し、後方に逃れます。このシーンはまったくハリウッドの戦争映画を見るよりもハラハラしました。そんな悲惨な目にあっても、戦闘が終わればまた生き残ったものは集められて、麦畑の中を進軍していきます・・・なるほどこれが戦争というものか、最前線の修羅場というものか、強烈な刺激とともにその実態は心に刻まれました。非常に多くのことを学んだような気がしました。やがて日本から出征体験者がいなくなろうとしていますが、そんな時代においてはこういう文学が一つの戦争の証人となるのではないかと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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