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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

川崎長太郎 「路草」

川崎長太郎は私小説作家です。自らの放蕩の暮らしをリアルに描きます。この作品のストーリーも実体験がもとになっています。彼が若い頃にある女性を連れてN市に移り住みます。そこには彼の友人がいて、就職を世話してくれるということでしたがその話はうまくいかず、二人はすぐに窮乏します。仕方なく女性のほうがカフェに出て働くようになりますが、その間に就職活動をすべき彼はずるずるとヒモ生活に浸っていきます。そんな彼を尻目に彼女のほうはカフェで知り合った男性と楽しく過ごしています。彼はそれが面白くありません。彼女も不甲斐ない彼に愛想をつかしそうになりますが、腐れ縁で二人の仲はずるずると続きます。簡単に言ってしまえばよくある”だらしない男の赤裸々な生活の記録”です。葛西善蔵を筆頭に、太宰治、壇一雄など、多くの作家が自分のだらしなさをネタにしていますが、それらと同じ分類に属している部分はあるかと思います。ただ、完全に属しているわけではありません。例えば葛西善蔵になると本当にどん底まで落ちていって、その中で非常にリアルな悲鳴を上げてそれを記録しています。正真正銘の心の底からの叫びを作品にしています。ところが川崎長太郎の場合はまだ余裕が感じられます。どん底まで来ているように書かれてはいても、いざとなればまだ何とかなるという印象を無意識に読者に与えています。喩えて言うなら川の水の冷たさを知るために葛西善蔵は足の届かない深いところまで行って、冷たい!冷たい!おぼれそうだ!と叫んでいます。読んでるほうも死ぬんじゃないかとはらはらしますが、川崎長太郎の場合は膝ぐらいまで水に浸かって、川の水は冷たいと言っています。読んでるほうは、冷たいならさっさと岸に上がれよ、という感じであまり同情する気にはなれず、すぐ岸に上がれそうなのに上がらないその不甲斐なさに腹が立ってきます。余裕を残した破滅というべきでしょうか。単に破滅型と分類してしまうわけにはいかないので、そういう意味ではこれが川崎長太郎独自のスタイルと言ってもいいかもしれません。葛西善蔵と読み比べてみると非常に興味深いものがありますので是非お試し下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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