蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

外村繁 「鵜の物語」

外村繁は近江の富裕な木綿問屋に生まれます。いわゆる”近江商人”の家ですね。「買い手良し、世間良し、売り手良し」の近江商人気質の中で育ちます。実際に彼も家を継ぐべく商人の道に入った時期があります。それらの経験を生かして書かれたのがこの作品です。31歳の時に発表され、これによって文壇に認められます。内容はある近江商人の呉服問屋のセールスマンが、地方への行商の経験を積んで徐々に一人前になっていく話です。時代は大正で、最初は大変な景気で国中が賑わってますので商いも盛んですが、やがて世界恐慌を迎えます。景気は悪くなる一方でよそのお店がどんどん潰れていきます。主人公は自分が行商にまわるあるお店の娘さんが好きになり、そこの店主とも親しくしていたのでなんとかそのお店の閉店を防ぐために東奔西走しますが……あとは読んで下さい。やはり自分の経験を生かして書かれていますので極めてリアルで、商売の仕方や当時の時代背景が的確に把握できるのはもちろんのこと、商人たちとお店とのかけあいに見える、いわゆる”近江商人気質”というものがよく伝わってきます。店を守って次代へつなぐことに関して、一族郎党全てが命をかけていたということがよくわかります。一個人の損得、栄華、出世ではなく、店の繁栄が全てという厳しい世界です。昔の戦国時代の武将が自分の命よりも国の存続を重視したことと似通ったものがあると思います。外村繁はこういった近江商人をとりあげた”商店もの”と呼ばれる作品をいくつか残しており、その中で近江商人の良いも悪いも浮き彫りにしています。文学小説でありながら社会問題をテーマに取り込む姿勢は当時は珍しく、新しい形の小説ということで注目されました。文学史においてしっかりと存在感を放つ人ですから是非読んでみて下さい。なお、滋賀県東近江市には外村繁の生家が「五個荘近江商人屋敷 外村繁邸」として残っており、見学できるとのこと。近江商人の屋敷の雰囲気を残しており、当時を偲ぶことができるとは嬉しいですね。蔵は外村繁文学館になっており、様々な資料が展示されているそうです。作品を読んだ後に訪れてみるのもいいかもしれません。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

カテゴリー

ブログ内検索

最近の記事

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する