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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

木山捷平 「子におくる手紙」

この作品は非常にユーモラスな構成になっています。田舎の父親から上京した息子への手紙を、時間をおって並べているだけで、その手紙に関するコメントも、関係する人物や背景などの説明も一切ありません。従って手紙の内容だけで、どういうことが起こってどういうふうに進行しているのかを推測しなければなりません。しかも息子からの返信は一切出て来ません。これまた父親の文章から、その前に息子からどんな手紙が来たのかを推測しなければなりません。こういうふうに書くとちょっと読み解くのが難しそうですがそんなことは全くありません。父親の手紙だけで全てがありありとわかります。田舎の実家は貧乏で父親は必死で働いて生活費を工面しています。だから息子には早くいい仕事についてもらって、少しでも実家の家計を助けて欲しいという思いが父親にはあります。ところが息子はせっかく決まった勤め先を首になったり、ずぼらな生活をしながら文学の道を模索したりと一向に落ち着く気配がありません。父親の手紙は時には怒り、時には許し、時には心配しており、息子への愛が感情の起伏によって巧みに表現されています。作品全体に父親の大きな愛情を感じます。この作品は実際に木山捷平宛に父親から送られてきた手紙をもとに書かれています。つまり父親の言うことを聞かず、文学の夢を追いかけて勝手に上京しているのは木山捷平その人なんです。そういう背景を予め知って読むのもまた木山捷平の若かりし頃の姿が浮かんで面白いかもしれません。太宰治など、当時の作家たちにも絶賛された名作です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

木山捷平 「うけとり」

木山捷平は最初は詩で文学の世界に入ってきます。彼の詩は叙事的で小説のような内容を持ったものだったので友人に小説も書いたらどうかと勧められて別の才能の花を開かせます。この作品は小説における処女作です。タイトルの”うけとり”というのは岡山県の方言だそうです。意味は、農事や家事などの作業にある一定の責任量を決めて、それをこなすことで相応の賃金をもらうというものです。主人公の少年は貧しい農家の子どもなので学校が終わって帰宅してから自由な時間などなく、すぐにこのうけとりをさせられます。彼がいつも帰宅してからやるうけとりは、山に行って枯葉を集めることでした。ある日、山の中で一人で枯葉を集めていると雨が降ってきたので樹の陰で雨宿りをしていたところ、そこに彼が密かに想いを寄せている女の子が偶然来合わせます。彼女も同じように山で枯葉を集めている最中でした。一緒に雨宿りしたことがきっかけとなって二人は心を通わせ、うけとりの作業にかこつけて山で密会を重ねるようになります。しかし幸せな時期は続かず二人の密会は噂になり、ある寺の壁に二人の仲を揶揄する落書きが書かれます。二人はその落書きを消しますが何度消してもまた書かれます。学校ではこの落書きが問題になり、なんとその犯人として少年が疑われてしまいます。冤罪で怒られた彼は自棄になりある行動に出ます。それは・・・という内容で、ストーリー的にも面白い傑作です。でも木山捷平と言えば「大陸の細道」や「耳学問」などに見られるような作風が彼のスタイルと思っている人が多いので、この作品を読むと「え?」と思われるかもしれません。どこか彼らしくない真面目さというか、固さがありますのでそのへんは考慮に入れて、「へぇこんなのも書いてたんだ」という感じで読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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