蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

谷崎潤一郎 「少将滋幹の母」

日本の作家の中で最高峰に位置する谷崎潤一郎のどんな点が優れているのか?という質問を受けたとすれば、とにかくこの一冊「少将滋幹の母」を読んで下さい。読めばわかります。というのが最も的確な回答かと思います。この作品のように美しさと妖しさと知性と気品を感じるものを気負うことなく平然と書けるこの大作家の力量を目の当たりにすると、あぁやはり遠い人だ、違う世界にいる人だと思わずにはいられません。この作品は昭和24年の11月から昭和25年の2月まで「毎日新聞」に連載されました。言うまでもなく非常に絶賛され、これまでに何度も舞台化、映像化されました。物語の舞台は古典を題材にした平安時代です。「今昔物語」、「平中物語」、「後撰集」、「十訓抄」などをベースにし、そこに自分の創造である架空の物語「滋幹日記」を絡めて雅な世界を描きあげています。少将滋幹の母というのは高齢の大納言藤原国経の若妻である北の方のことで、祖父と孫ほども歳が離れています。それを横から奪おうとするのが当時菅原道真を太宰府に追い出して時代の主役となった左大臣藤原時平です。一方で国経の目を盗んで時々北の方に手を出していたのがあの好色で有名な平中です。北の方は三人の男の愛情の中で翻弄される立場にいます。少将滋幹というのは北の方と藤原国経の間にできた子どもで、母親が左大臣藤原時平に奪われたので幼い頃から母親と自由に会うことができませんでした。母を恋う想いを抱いたまま成人した少将滋幹がついに母と再会するという場面で物語は終わります。この作品は谷崎潤一郎自身の母への想いを描いていると言われています。甘くもあり、せつなくもあり、滑稽でもあり、悲しくもある、まさに不朽の名作です。日本の美を文字で表現したというふうにも言えると思います。是非是非、読んでみて下さい。

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谷崎潤一郎 「春琴抄」

残した作品が全て名作といってもいい谷崎潤一郎ですが、その中でも最高傑作を選ぶとなるとどの作品でしょうか?一般的には「細雪」か、この「春琴抄」ではないかと言われていますね。えしぇ蔵も同意見です。この2作品が特に秀でていると思います。この作品は、幼い頃に病で視力を失ったにも関わらず、その腕は関西で並ぶ物がいないといわれた三弦の師匠の春琴と、その支えとなることを自らの生涯の使命として生きる佐助との純粋かつ耽美的な愛の物語です。谷崎潤一郎が描く愛の物語とくれば、そこはメインストリートを歩くようなノーマルなものではない場合が多いわけで、ここでもやはりちょっと異常な細い裏道の内容になるのはいわばお約束です。佐助は春琴の弟子であると同時に、春琴の全ての面において補助することが使命ですから、外出の時に手をひくだけではなく私生活全て面倒を看ます。春琴もそれを佐助にしか許可しなかったので自然二人は常に一緒にいることになり、表面的には厳しい師弟関係を貫きつつも、一線を越えた関係にまで発展します。それでも春琴は佐助を弟子として見下した姿勢は崩さず、佐助も師匠として敬う姿勢は変わりません。その関係は極端に表現すればいわばSMの世界です。女王様と奴隷という見方もできるわけです。ある意味この作品は最も芸術的なSM小説なのかもしれません。でもこれは他の作家では創造し得ない独自の世界だなと思います。この作品のもう一つの特徴は実験的な書き方です。改行がなく、句読点も少なくて文章がずっと繋がっています。だから本を開いた時に読みにくいのではないかと思われがちですが、すぐにその名文に魅了されて気にならなくなります。妖しくも芸術的な世界を実験的な筆致で描く至高の名作を是非お楽しみ下さい。

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谷崎潤一郎 「陰翳礼賛」

誰か特定の文豪個人の全集を読まれたことがある方はわかると思いますが、やはり文豪というのは随筆や発表するつもりのなかった日記、あるいは誰かにあてた手紙に至るまで格調高い文章になっているものです。だから全集などに随筆はもちろん、日記や手紙なども収録されていますが、それらも非常に芸術的です。内容に関わらずやはりどこか気品を感じるというか、貴重な文章を読ませてもらってるという有り難ささえ感じることがあります。例えて言うなら日記の傑作としてあげられるのが永井荷風の「断腸亭日乗」ですね。これは本当に日々の記録として書かれたものですが、これこそ永井荷風の最高傑作という見方もあるほど素晴らしいものです。それに当時の生活や時勢を知るための貴重な資料にもなります。では随筆の傑作はとくればこの「陰翳礼賛」こそ筆頭にあげられるべきです。これは本当に谷崎潤一郎個人の意見を述べた随筆ですが、格調高い文章はもちろん、その内容が非常に深い考察によるものであり、一種の論文のような趣もあります。思ったことをただ羅列した、ありがちな随筆とは一線を画しています。日本人の民族としての特徴と、その作りだしてきた文化の深さを確乎とした信念を持って述べており、日本人が読めば自分たちの国の良さに改めて気付かされることは間違いありません。視点が斬新で、考察が深甚で、表現が的確で、結論が明確です。日本人の心の奥にあるものを知ることができるという意味において、日本について知りたいという外国の人にもお勧めの作品です。

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谷崎潤一郎 「鍵」

日本が世界に誇る文豪、偉大なる谷崎潤一郎の文学を語る上でエロティシズムというのは欠くことのできない要素です。エロティシズムをテーマとして取り組んだ小説家は星の数ほどいますが、これを芸術の域にまで引き上げることに成功したのはほんのわずかと言っていいのではないでしょうか?谷崎潤一郎はおそらくその中で最高峰の存在でしょう。なにしろ難しいテーマですからね、下手すると単なる性欲の対象と見做されてしまいます。谷崎潤一郎のエロティシズムに関する作品が日本文学史上に名を残すだけでなく、海外の人にも高く評価され続ける理由はどこにあるのでしょうか?えしぇ蔵はエロティシズムを深く掘り下げたところにある、存在は確認できるが誰もが認めたがらない心理的未知の部分にまで到達しているからではないかと思います。読み手は動揺し、自分の未知の部分を知られてしまったように感じてしまう。つまりは彼の作品を読み始めると、完全にその掌の上で転がされて征服されているわけです。こちらの考えていることは全てお見通しなのです。雲に乗って遠くまで来たつもりでもそこには大谷崎の指が待っているだけなのです。それに気付いた時にこの文豪の恐ろしさの虜となるのではないかと個人的に推察しています。物語はある夫婦とその娘の婚約者の三角関係を夫婦が秘密に記している日記をもとに描かれています。男は故意に妻を娘の婚約者に近づけ、妻への嫉妬心によって興奮を得ようとし、妻はその意図に気付きながら従うという異常な性愛の世界です。普通なら三文エロ小説になりそうな物語が多くの人をうならせる名作に昇華されているその技を是非皆さんの目で確かめて下さい。

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谷崎潤一郎 「細雪」

偉大なる作家の偉大なる作品です。もしも外国人に、日本という国を象徴するような日本文学の代表的傑作を教えてくれと言われるなら、まず最初に「細雪」と答えるのは間違いありません。この作品の中には日本の生活があり、日本の自然があり、日本人がいます。美しい文章でつづられたそれらのものは、日本というものを知りたい人にとっては一つのガイドにもなり得るかもしれません。この作品は第2次世界大戦中に中央公論において連載が始まりますが、軍部から「戦時にそぐわない」という理由で掲載を止められます。別にきわどい表現などはないのですが、登場人物たちの住む世界が上流階級で、生活があまりに優雅だったからでしょう。谷崎潤一郎はそれでも秘かに書き続けて、戦後の昭和23年に完成させます。舞台は大阪の船場。財産家の家に生まれた、性格の異なる四姉妹のそれぞれの人生を、移り変わる季節とともに描いています。大阪ですので会話は全て関西弁なんですが、今でこそ全編方言の会話になっているというのは珍しくないですが、当時はこれも話題になったようです。ちなみに谷崎潤一郎は後に関西に移住しますが、もとは東京出身ですから関西弁は苦手なはずです。それでも全く違和感はないのでさすがですね。物語の筋としては、三女の雪子の見合い話を中心として様々な出来事が絡み合い、絢爛豪華な上流社会の姉妹がそれぞれに別の運命をたどっていくというものです。時代の変化とともに優雅な世界が徐々に崩れていく現実を底辺に置いてあり、どこかに悲しみを含んでいるような雰囲気がなんともたまらない芸術性を感じさせます。日本文学史を飾る名作です。これを読まずに文学は語れません。

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谷崎潤一郎 「魔術師」

谷崎潤一郎が妖しい美の世界を追い求めていたというのは皆さんご存知の通りですが、かなり初期の頃から既にそうであったというのを証明するのがこの作品です。大正6年に書かれたもので、当時の世間としてはかなりの異色作です。作品全体が幻想的な夢の世界のような雰囲気に包まれています。ある男女が公園のある建物で行われる魔術師の興行を見に行きます。その魔術師による不思議な美の世界に魅せられて、男女ともに魔術師に心を奪われるという噂なので、果たして自分たちの愛が魔術師に負けないかどうかを試しにいくわけです。そして美しき魔術師による美しき技を目にします。誰でもなりたいものを言えば魔術師の技によって変身することができます。はじめに魔術師は自分の奴隷たちを孔雀や豹の皮や燭台に変身させます。そして次に観客に志願者を募ります。数十人の人が自ら希望するものへと変身しました。そして最期に志願したのは愛を試しに来た二人のうちの男性でした。彼は半羊神になることを希望します。恋人を奪われた女性は男性の行くところについていきたいという思いで、自分も半羊神になることを望みます・・・なんとも妖しい世界でしょ?展開される情景の表現が見事で、小説というよりも芸術というべき作品です。読んでいくうちにふと、江戸川乱歩の世界に似てるなと思ったんですが、調べてみると案の定、江戸川乱歩と横溝正史はかなり谷崎潤一郎に影響されていたそうです。どうりで二人の作品はただの推理小説ではなく、そこに美の要素が織り込まれているわけですね。多くの作家に影響を与えた谷崎の美の世界を覗いてみませんか?

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谷崎潤一郎 「蓼喰う虫」

さぁ、大御所の妖しい世界へご招待。谷崎潤一郎の作品の中には耽美的、官能的なものが多いのは周知のとおりですが、彼の場合それが人間の深層心理に絡んでいるので単なるエロ小説のそれとは一線を画しています。そしてそこに彼お得意の美意識が盛り込まれて、芸術となっているわけです。谷崎潤一郎ファンがその作品に魅了される理由の一つとして、彼の描く官能の世界が多面的で深いということがあげられるのではないかと思います。この作品のストーリーは、ある夫婦が性的な不調和からお互い了解のもとに浮気をするというもので、そこには憎しみがあるわけではなく、うまくいかないお互いへの諦めがあります。そして労わりあう情があります。世間体もあるし、親戚一同への言い訳の面倒さもあるしで、二人は表面的には夫婦であることを続けますが、実際はそれぞれ好きなように行動し、いづれ来る別れの時を待ちます。いわゆる仮面の夫婦ですね。今では実際にそういう夫婦も多いので、小説のネタとして珍しくもなんともないし、また現代でこのネタで書いても実にありふれたエロ小説に落ちる危険性もあるので評価される作品に仕上げるのは難しいでしょうけど、彼の場合は発表された時代的にも衝撃的な内容ではあるし、そこに描かれる情景の美しさや会話の見事さに大御所ならではの力量が発揮されているので文学史上に名を残す名作となったのではないかと思います。妖しくも芸術的な谷崎ワールドを体感するには持ってこいの1冊です。同系列の「卍」や「痴人の愛」などもあわせて読むことをオススメします。

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